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神託の巫女

神託の巫女とは・・・。

 地中深くにある教団本部のさらに奥に、教団の幹部でも滅多に訪れることができない場所があった。神託の巫女と呼ばれるものが住む空間である。その場所は一番高い中央部が約10m、直径が約30mのドーム状の空間だった。地中深くだというのに、まるで外のように明るい。そこには高さ5m、直径約30㎝円柱が6本円を描くように立っており、その中に小さくはあるが煌びやかな神殿があった。

 普通の者なら煌びやかな神殿の方に目が行くだろうが、見るものが見れば円柱の方に驚くだろう。表面こそ偽装はされているものの、円柱は全てオリハルコン製であった。そして辺りにはこの地方では考えられないほどの濃密なマナが漂っている。

 小春日和のような暖かな日差しの中を思わせる空間を、その場に似つかわしくなく灰色のローブをすっぽりと纏った男が神殿へと歩いていく。円卓に集まった司祭の残りの二人のうち、老人でない方の男、ヒーレンだった。

 ヒーレンは神殿へ行くと、神殿の中にある半透明なカーテンの前で恭しく跪く。カーテンの向こうにはうっすらと人影が見える。神託の巫女と呼ばれている女性だった。


「大分やられたようじゃな」


 カーテン向こう側からそう声がする。若い女性の声だ。


「面目次第もありません。急ぎ戦力を補充はしていますが、ニルナで起こした事件の悪評が広まり、上手くいっておりません」


 そう言って男は頭を下げる。


「人間は寿命が短いせいか、事を急ぎ過ぎる。かと言って人間を使わねばこの大陸での勢力拡大は不可能じゃ。しかも、リューミナ王国が勢力を急拡大している。東部は落ちたも同然。後は南部がどれだけ粘るかであろうが……。リューミナ王国がここまで急速に勢力を拡大するとは予想外であった。仮に北部諸国を勢力下に収めても対抗するのは難しいであろうな」


 女性は、神託の巫女と呼ばれる者とはとても思えない言葉を放つ。


「仰せの通りかと。此処も防御を固めてはおりますが、攻め入られる可能性もございます。我らが加担すれば幾ら強いといってもたかが人間、負けることは無いとは思いますが……」


 男は途中で言い淀む。


「確かに負けることは無かろうな。だが、信者の生き残りがいれば我らが魔族と知れ渡る。生き残りを出さないのなら、初めから我らが出ずとも良いか」


「はい」


 そう男は答える。この二人は人間族ではなく魔族と言われる種族であった。


「ですので、姫様には念の為に暫く本国へ戻っていただこうかと思っております。それに、オリハルコンが比較的豊富な本国とは言え、これだけの量のオリハルコンは貴重です。万が一にも奪われるわけにはいきません」


「そなたはどうするのだ? この空間に入らねばそなたとて存分に力は振るえまい」


 魔族とはマナの扱いにたけた種族ではあるが、逆にマナの濃度が薄い所では弱体化していく。場合によっては生きていけなくなることもある。それは強力な魔族ほどその傾向が強かった。魔族が気候が厳しい北の大陸から余り出ないのは、それが理由であった。

 逆にマナさえあれば人間と比べて桁違いの力を発揮できる、そういった種族であった。


「今この空間に満ちているマナさえあれば、私ぐらいですと1年は過ごせます。無論全力で戦えなくはなりますが、レノイア教の司祭として動く程度でしたら問題ありません。流石にそれまでには落ち着くでしょう。なに、これまで北の大陸に押し込められてきた祖先たちの苦労を思えば、何のことはありません」


 そう言って、男は立ち上がり一礼をすると神殿から出ていった。


「やれやれ、10年以上の歳月をかけて、この大陸に足がかりを作ったにもかかわらず撤退とはな。兄達に笑われそうだ」


 そう呟いて女性は奥へと去っていった。

 魔族たちは本当かどうかは別として、人間たちによって北の大陸に押し込められていると考えていた。北の大陸はマナが豊富とは言え、気候は厳しい。マナがあれば強靭な体力を持つ魔族とて、食べ物は食べねばならないし、気候も温暖な方が良いのは他の人族と変わりは無かった。


 レノイア教は元々は、人間の教祖が開いた良くも悪くも凡庸な新興宗教だった。ただ北方諸国でそれなりに広まってはいた。勿論夫婦神を主神とする既存の宗教を脅かすほどではなかった。

 変わったのは神託の巫女と言われるようになった魔族が利用し始めてからである。魔族の魔力は人間では考えられないほどに強い。特に姫と呼ばれた魔族の王族に連なるものは、半径約10㎞に及ぶ範囲の天候を真夏から真冬、若しくは晴天から大雨へ変えられるほどの力を持っていた。

 ましてや、10℃足らずの温度操作、晴天から曇り、若しくは曇りから雨レベルの操作なら下手な小国のレベルで変えることができた。神託の巫女の天候予知能力は予知ではなく、自分で操作していたのである。人間には天候操作自体が伝説級の魔術師のレベルであり、広範囲に天候操作ができる者が居るなど夢にも思わなかったのであった。

 そして人の死の予言に関しては、パニル率いる暗殺団に行わせていた。ある時は有力者の協力を得るため。そしてある時は民衆の歓心を得るために。

 元々暗殺を生業としていた集団だったパニルを取り込んだのは、そうして予言を成就させるためだった。パニルは特にレノイア教に傾倒していたわけではない。ただ単にその腕を見込まれ司祭として迎え入れられたのだ。レノイア教の司祭は信仰篤い人間たちではなく、そうした所謂プロの集団だった。

 そして曲がりなりにも司教としての力を見せるために作ったのがあの神徒を呼び出すと吹聴したマジックアイテムだった。

 予言の的中率、そして人間とはかけ離れた力を見せる神徒。その二つにより順調に信者は増えていった。そう順調にいけば後10年とかからずに北方諸国を影響下に治めるほどまでに……。

 バラバラの北方諸国がまとまり、ヴィレツァ王国、ルカーナ王国、東方諸国と共に共同戦線を張ればリューミナ王国とて自由に動けず。また共同戦線を張った国も動けず、他の大陸に魔族が侵攻してもフラメイア大陸の国は援軍を出せなくなっていたはずだった。

 それだけでなく、レッドドラゴンをたきつけ、ヴァンパイアロードの封印を弱めまでもした。

 そう魔族は北の大陸からの侵攻を企てていたのである。その計画を頓挫させたのが“幸運の羽”であった。

 無論魔族とて馬鹿ではない。計画が失敗した原因を調査した。だが、強大な力を持つ魔族をしても、レッドドラゴンを倒したのは肉が食いたかったから。ヴァンパイアロードは無自覚で、ヴィレツァ王国が早く滅んだのは嫌がらせで、とは想像の範囲外だったのである。


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現金と思われるかもしれませんが、評価が上がるとやはりモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巫女の正体を知る→自分「何だ魔族か」(コウ達への絶対の信頼) ………はっΣ(・・;)「魔族が次の観察対象(犠牲者)に!」(コウ達への絶対の信頼)w いやもう十分被害被ってますね。魔族侵略計画…
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