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夜の行動

コウが寝ている間のAI達の行動です。

 ブラックオークの集落を殲滅し、コウ達は一息つく。


「生き残りはもういないよな」


 念のためにユキに尋ねる。


「はい。ブラックオークと思われる生命反応はありません。また事前に確認したブラックオークの個体数148体と死体の数も一致しています」


「ふむ、大変結構。しかし、集落跡とは言え、ここで野営するのは気が進まないな。少し森の開けた所にでも移動して野宿するか」


 本来なら元々集落が有った場所なので、野宿をするのにも向いているはずなのだが、如何せん汚い……。下手に建物が残っているだけに、余計臭気が漂っている気がする。本物の豚は綺麗好きというのを聞いたことがあるのだが、この世界では違うのだろうか。そんなどうでもよいことを考えながら集落を後にした。

 白鳳号と黒竜号の所へ戻ると、無謀にも戦いを挑んだゴブリン達の踏みつぶされた遺体が転がっている。念の為に身体をスキャンしてみるが、かすり傷も負っていない。そもそも、ゴブリンの力で棍棒を当てたところで、元々の身体能力が高いのに加え、強化もしている白鳳号と黒竜号にダメージを与えることなどできはしないだろう。普通の野生動物でも生物としての戦力差を察したら回避するというのに、どうして低レベルのモンスターは自滅しても構わず襲ってくるのか奇怪という他ない。やはり繁殖形態がそうであるように、動物よりも昆虫に近いのだろうか。

 頭を摺り寄せてくる白鳳号を撫で、背中に乗ると、この地を後にした。

 少し離れた所で、マジックテントを広げる。今日の夕食はショガンに頼んで作ってもらったロックワームの煮込み料理がメインだ。酒は約束通りエメラルドシティで手に入れた忘れられた酒、その中でも希少な長期熟成のエール、ウィートワインだ。


「セイレーンのエールも度数を感じさせなかったが、これもまた同じ感じだな。もっともこちらの方がより複雑な味わいだが」


 フモウルで飲んだセイレーンのエールのように20度という度数ではないが、自然に長期熟成して度数が上がった酒だけに、複雑な味わいと樽の芳香がある。曲がりなりにもワインと名がついているだけあって、エールというよりスパークリングワインに近い。尤も、スパークリングワインにはないホップ特有の苦みがあるのだが、これは普通のエールよりもかなりまろやかになっている。


「キリッと冷たいのがまた格別ですわ。寒くなる時期とはいえ、この手の飲み物はやはりよく冷えてこその味わいですから」


 滅多に褒めないマリーが珍しく絶賛した。保管されていた場所の水温が低かったため、収納した酒は冷たいままだ。他の2人も特に言葉には出さないが美味しそうに飲んでいる。

 ちなみに最近発見したことだが、具を食べた後の煮込み料理やシチューの汁、若しくは肉にかけられたソースをバゲットに塗って食べると美味い。しかもなぜか大抵の酒に合う。例えば肉料理には赤ワインが合うとされているが、その肉料理を食べた後に残ったソースをつけて食べると、赤ワインは勿論、白ワインにもブランデーやウィスキーにも合うのだ。不思議なものである。

 久し振りにほろ酔いよりちょっと多めに酒を飲んだ後、コウはそのままベッドに横たわると、5分もしないうちに寝てしまった。

 他の3人もベッドに入ろうとするが、敵の気配を感知し、ベッドに入るのを踏みとどまる。目くばせをして、ユキがそっとテントの表へと出る。遥か彼方の上空には2体のワイバーンが空を舞っていた。恐らく殲滅したブラックオークの集落に残された血の臭いを嗅ぎつけたのだろう。

 ユキは槍を構えると、目にも留まらぬ速さで、2本投げつける。それは10㎞以上離れているにもかかわらず、正確にワイバーンの頭を貫いた。息絶えて落ちていくワイバーンに向けてユキは衝撃波がおきない速度で、森の中を駆け抜ける。

 ワイバーンが落ちる位置に転送しても良いのだが、この距離だと時間的に大して変わりはしない。音速を出さなかったとしても往復2分もかからないのだから。それにたまに身体に負荷をかけないと、いざという時のパフォーマンスが落ちてしまう可能性がある。それはコウにも言えることだが、大きな違いは、なんだかんだと言ってもコウは指揮官であり、自分達はそれに従うコマであることだ。自分の身体能力の維持を怠り、指揮官の要望に応えられないなど万が一にも起きてはならないことである。

 それ故に夜のこういった狩りは、当番制にして3人で回していた。結果は朝食時にコウにデータを渡すだけだ。残念ながら今までにコウの興味を引くようなモンスターが出現することはなかった。この日も本来ならBランクの討伐依頼が出されたであろうワイバーンが2体、人知れず退治されて無造作に亜空間の中に放り込まれた。


「昨晩はワイバーンが警戒区域内に入ってきた以外は異常ありませんでした。個体数は2。倒して亜空間の中に収納しています」


 朝食を食べながら、ユキがコウに報告する。


「そうか、それは良かった。ワイバーンの肉はランクの割には美味だからな。それに、骨から良いだしが取れるかもしれない」


 仮にもBランクのモンスターであり、骨は素材としていろいろ使い道もあるというのに、コウ達は食材としての価値しか見出していなかった。ワイバーンの骨を料理のだしに使うなど、王侯貴族でもそうそうやれる贅沢ではない。聞く者によっては卒倒しそうな話である。

 

 朝食を終え、シメルナへと向かう。予定通りその日の昼過ぎには街に着く。コウ達はそのまま冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドに入ると真っ直ぐ交換所に向かう。


「ブラックオークを倒してきたので、換金をお願いします。後、肉及び骨の3分の1は売りません。よろしいですか」


 交換所にいた初老に入ってはいるものの、まだがっしりとした体格を維持している男にコウはそう伝える。


「まあ、しょうがないなあ。できれば全部売って貰いたいところなんだが……。往復3日とは言えAランクの冒険者パーティー様だ。10体ぐらいは倒したんだろう」


 男は期待に満ちた目でコウ達を見る。一応ギルドからは50体以上という要望は出ているが、男はこの短期間にそこまで多くのブラックオークを倒せたとは思っていなかった。移動時間を合わせれば討伐に掛けた時間などたかが知れている。下手なパーティーでは遭遇できるかどうかも怪しい日数だった。


「148体ですよ」


「へ?」


「ですから148体です。全部ブラックオークです。ああ、正確に言えば普通で言うジェネラルオークやキングオークも混じってますね。ブラックオークの場合どういうかは知りませんが」


 交換所の男は理解が追い付かなかった。ジェネラルオーク級のブラックオークには特に名前はついていない。殆どは遭遇しないか、遭遇したものは死んだかのどちらかだからだ。噂話には上がることがある、という程度のモンスターだった。


「3分の2にしたら正確に言えばそちらの希望の100体は下回りますが、許容範囲内でしょう。ただ、100体分の肉や骨は卸しますから、ジェネラル級やキング級は優先的に下さいね。骨もですよ」


 交換所の男は壊れた操り人形のように、ぎこちなく頷くことしかできなかった。


 毎度お願いで恐縮ですが、面白いとか続きを読みたいと思われたらで構いませんので、評価やブックマークの登録をお願いします。

現金と思われるかもしれませんが、評価が上がるとやはりモチベーションが上がります。

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