蜂蜜の利用法
ちなみに普通に売っている蜂蜜に水を混ぜても蜂蜜酒にはなりません。殺菌してますから。後日本では残念ながら自宅で作るのは法律違反です・・・。
巣の3分の1だから大丈夫だろう、とあまり深く考えてなかったが、考え直すと競技用のプールが何個も入る大きさだった。
「確かにちょっと取り過ぎたという感はあるが、それにしてもよくここまで蜂蜜を集めたもんだ。植物系のモンスターの出す蜜は量が多いんだろうか」
「それもありますが、単純に集めた年数の関係が大きいでしょう。ここまで大きな巣になるには100年前後の時が必要なようですよ。マンモスビー自体が他の蜂と比べて長寿なので可能になったことでしょう。これを半分でもギルドに卸したら価格破壊が起きますね。かと言って1日1㎏ずつ消費したとしてもざっと15万年ほどの期間が掛かりますが……。どうするんですか?」
「何も考えてなかったな。だが、元々地図には載ってなかった巣だ。情報を漏らさなければ問題あるまい。ギルドには5tほど卸して、後はなんか活用方法を考えようじゃないか」
ユキの咎めるような口調に、コウは考えを変えるように言う。過去の計画にとらわれず、状況に応じて臨機応変にふるまうことも重要なのだ。
「ともかく目的は達したんだ、一旦戻るか」
「そうですね」
戻る途中で冒険者らしき男たちの一行と遭遇する。お互い警戒しつつも近づき挨拶を交わす。こちらが“幸運の羽”とわかると、途端に相手の対応が丁寧なものになる。無用な争いが減るのは良いことだ、目の前で態度を変えるのはどうかと思うのだが……。
「では、俺達はこのままオーク退治に行きますので。それにしても、マンモスビーの蜂蜜を大量に手に入れたなんて流石ですね。俺達もいつかはそういう風になってみたいものです」
パーティーリーダーが羨まし気に呟く。
「そう言えば、あなた方は蜂蜜の簡単な利用方法を知りませんかね? 知らなかったら無理に思い出さなくても良いですけど」
駄目もとでコウは尋ねてみる。
「俺達はそんなに贅沢はできないんで、詳しくは知りませんが、簡単と言えばパンに付けたり、ワインと混ぜたりすることが多いらしいですね。後は蜂蜜酒にするとかぐらいしか知りませんが」
「? 蜂蜜酒とはそんなに簡単にできるものなのですか」
あまり売ってるところが無いので、作り方が難しいものとばかり思っていたのだが……。
「そりゃあ、水と混ぜて1週間~2週間ぐらい放っておくだけですからね。よほど貧しい家でもなければ、どこでも自分の家で作ってますよ。エールよりは高いですが、下手にワインを買うより安くできますからね。尤も、マンモスビーの蜂蜜を使った蜂蜜酒なんてのは、普通の者が手を出せる値段じゃありませんが……」
良いことを聞いた。一般的に作られているのなら直ぐに情報が入手できるだろう。お礼の意味を込めて、蜂蜜を1㎏ほど瓶に詰めて渡す。
「良いんですか。ありがてぇ。何かあったら遠慮なく聞いてください。こんなことで良いのならいつでも答えますんで」
男たちはニコニコしながら去っていった。
「水を入れるだけでお酒になるなんて不思議ですわ。それともこの世界特有の現象なんですの?」
マリーが興味深げに話しかけてくる。
「いえ、元の世界でも同様のことが起きるようです。言語データには発酵と腐敗は同じ現象で、人間の役に立つものが発酵と呼ばれるとありました。ただ、菌自体が合成食品には含まれていませんから、元の世界では天然食材を手に入れない限り再現は不可能ですね。
残念なことに私のデータの中にも酒は色んな材料を発酵して作るもの、とまではありますが、具体的な菌の種類や、遺伝子情報、プロセスはありませんでした」
うーむ。かなり余計なデータを入れたと思っていたユキでも、そこの部分までは入れてなかったらしい。とは言っても、天然の材料を発酵させて酒を造るなんて、考えたこともなかったから仕方がない。
「ただ、本当に天然のものは、水で薄めるだけで、蜂蜜の中に入っている菌が増殖してお酒になるようですね。多くの家庭で作っているようで直ぐに情報が集まりました。割合に関しては各家庭で異なるようです。大まかですと重量比で蜂蜜の割合が20%~25%というところでしょうか」
「ではそうだな。20%から1%ずつ割合を変えていって瓶詰めしたものを、分析室に並べて置いて、経過観察をしてくれないかな。有益な菌の遺伝子解析も。水はベシセア王国で汲んだものを使うようにしてくれ」
コウはユキにそう指示する。ユキも文句は言わなかった。前に飲んだ蜂蜜酒が美味しかったからだろう。それにしてもまさか蜂蜜酒がキノコ鍋と同じく家庭の味だとは思わなかった。他の酒はともかくとして、蜂蜜酒は美味しいものができそうだ。
「できるのが楽しみですわね」
マリーが、何かに恋する乙女のようなキラキラとした笑顔で話しかけてくる。相変わらず外見詐欺だと思う。
「後、家庭料理で蜂蜜を使う有益な情報がありました。肉の表面に薄く塗って、10分ほどおいて焼くと、美味しくなるみたいです。モンスターの肉で同じになるかどうか分かりませんが、試してみる価値はあるのではないでしょうか」
「お、良いなそれ。さっそく今日の夕食で試してみようぜ!」
今度はサラが目をキラキラと輝かせている。
その日オーク肉で試したが、高級レストランで食べる肉とまではいかなくても、下手な店よりも美味しい肉になった。
「無理に使おうと思わなければ、知らなかったところだったな」
「そうですね」
ユキの返答はここ最近珍しく棘の無いものだった。
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