蜂蜜漬け
甘ーい蜂蜜漬けです。今の時期かき氷に入れて食べたいですね。
惑星に再降下し、バーベキューを満喫した後、ヨレンド侯爵領を後にし、東へと進む。ここから先は真東に進めば、大陸から伸びている半島の先端にあるセソニアという港町から隣の大陸であるイールシヌ大陸へと渡ることが出来る。イールシヌ大陸は海峡を挟んでセソニアから約400㎞しか離れていない。
一方、北東に行けば、リゾーリという港町から北行きの交易船が出ている。北の方からぐるっと回って、大陸の反対まで行く船は無いらしく、乗り換えが必要だし、陸路が必要なところもある。船をチャーターして行くという手もあるのだが、そこまでして一隻の船で行く必要性は感じられなかった。それに、北の大地はまだ行ってないので、うろついてみたい。
隣の大陸に行くというのも捨てがたかったが、当初の予定通り北回りでジクスへ戻ることにした。
季節はもう夏も過ぎつつある。街道の横に植えられた稲が実を結び、まだ黄金色にはなってないものの、頭を垂れ始めている。ここよりもう少し北方に行くと麦を植えるようになるらしい。所々に実を結んだ果樹園もある。
ルカーナ王国と大きく違うのは、やはり商隊の多さだろうか。リューミナ王国では南方に位置するこの地域はフルーツの栽培も盛んだ。1日に1、2回はフルーツを満載した馬車に出会う。
今日はフルーツではなく樽を満載した商隊に出会う。木箱ならともかく、樽というのは珍しい。それに酒樽ではないようだった。しかも冒険者と思われる護衛を雇っているところから推測して、それなりに高級品だと思われる。
「すみません。その樽の中には何が入ってるんですか?」
自分が話しかけると、冒険者はいつでも戦闘できるように武器に手をかけ、商隊の主と思われる人物が、少し緊張した様子で答える。
「なぜそんなことを聞くのですか? 冒険者の方が気にするようなものは入っていませんよ」
「ただ単に興味を持っただけです。自分達は地域の特産物に目が無いものでして。もしその中の物が食べ物なら売っていただきたいのですよ」
こんなことを言われたことが無いのであろう。商隊の主と思われる人物は警戒したような顔になる。逃げ出さないのは、逃げ出したとしても逃げ切れないと判断しているからだろう。
「ちょっとお聞きしたいのですが、あなた方は“幸運の羽”ですか?」
横から冒険者達のリーダーと思われる人物が尋ねてくる。
「そうですね。これでもAランクのパーティーです。冒険者カードをお見せいたしますか?」
「いいえ、それには及びません。これだけ特徴が一緒なのですから、間違いないでしょう。装備はともかく、そのような巨大なシンバル馬を用意できる方がそうそういるとは思えません。それに、顔も噂通りですし。
番頭さん、安心してください。この方々は純粋に好奇心に駆られてるだけですよ。それに中身を気に入ってもらえたら、わざわざ王都まで行かなくてもここで全部買ってもらえるかもしれませんよ」
リーダーはそう言って、商隊の主を落ち着かせる。なかなか自分たちのパーティーも顔を知られるようになってきたらしい。リューミナ王国内だけかもしれないが、それでも面倒事が無いことは良いことだ。
「ああ、私もお噂は聞いております。まさか自分がお会いするとは思っていませんでしたが。この樽の中身はモモスの蜂蜜漬けです。ご存じかどうか知りませんが、モモスは傷みやすいので輸送には不向きですが、皮をむいて、蜂蜜漬けにすると長距離を運ぶことができるんですよ」
モモスはベシセア王国やノイラ王国でも食べたが、瑞々しく甘いフルーツだった。幾ら保存がきくとは言え、蜂蜜に着けたら甘すぎになるのではないだろうか。だが、食べてもいないのに判断はできない。それに、先ほどからただよってくる甘い匂いは、とても美味しそうな感じがする。
「お代はお支払いしますので、少し食べさせていただいてもよろしいですか?」
「申し訳ありません。少しというのができないのです。この樽は蜂蜜をたっぷり入れた上で、空気が入らないように密封しています。その時少しあふれた蜂蜜が隙間から空気を入るのを防ぎ、長距離の輸送ができるようになってるんですよ。ですので、開けたら長持ちしなくなるんです」
番頭は申し訳なさそうに答える。
「ではとりあえず一樽買いましょう。ご存じかも知れませんが自分達は収納持ちなので、樽を開けても大丈夫なのです」
「それで良いのでしたら……。一応一樽1金貨ですが、よろしいですか?」
問題ない金額だったので即座に頷き、お金を渡す。よく考えたらフルーツ1樽1金貨は高いように思えたが、ここで多少値切っても仕方がない。それよりも気前が良いといううわさが広まった方が得だと思い直す。
番頭が慎重に樽の蓋を開けると、甘い香りに少し爽やかな酸味の香りが加わる。樽の中の蜂蜜は思ったほど粘度はない。ただの蜂蜜ではないようだ。微かにアルコールの香りもする。
4人それぞれが串を取り出して、樽の中のモモスに突き刺し、口に入れる。確かに甘いことは甘いが、甘ったるいだけというわけではなく、少し酸味がある。ただ、少量ならともかく、大量に食べるにはちょっと甘すぎるようにも思えた。
「美味しいですね。ただ、何個も食べるには少し甘すぎるかもしれませんね。ちなみにこれは単独で食べるのが普通なのですか?」
素直な感想を言う。気を悪くするかもしれないが、なんかもう少し工夫したらもっと美味しくなりそうな気がしたのと、自分がそう思うぐらいだから、きっと誰かがそういう工夫はしてるに違いないと思ったためだ。
「そもそも高級品ですので、何個も食べるということは無く、せいぜい半分ぐらいしか食べないものなのですが……。勿論、色々食べ方はありますよ。他のフルーツと混ぜ合わせて食べたり、ゼリーにいれて食べたり、後、寒天を使って同じようにゼリーのブロック状にしたものの中に入れることもあります。残り汁は紅茶やワインと混ぜ合わせて使うことが多いです」
なるほど。とりあえず材料さえあれば、混ぜるだけなら自分達でもできそうだ。
「分かりました。ありがとうございます。では、ここのもの全部ください」
「え?」
番頭が、何を言われたのか分からないという風なポカーンとした顔をする。
「全部です。150樽ありますから、150金貨ですかね。ああ、先ほど1樽買ったんでした。ですが、1樽分は情報提供料ということで良いですよ」
「ええっと。申し訳ありません。何かあった時のために少しは余分に運んでますが、これはもう卸先が決まっているものなのです。なので、これ以上お売りすることはできないのです。
もし大量にお求めでしたら、リゾーリに行かれると良いと思います。北への交易品として今の時期に大量に集まってますから。
それに、お気づきかと思いますが漬けている液体は、蜂蜜がメインではありますが、それだけではありません。それは生産者の秘密なのでお教えできませんが、リゾーリには色んな種類の物が集まりますよ」
番頭は申し訳なさそうに言う。仕方がない。だが、がぜんリゾーリに行きたくなった。きっとこれを使った色んなデザートもあるに違いない。
コウ達は、商隊に別れを告げ、リゾーリへの道を再び進み始めた。
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