ノイラ王国
異文化交流は難しいですね。
水を所定の量汲み終えると、ベシセア王国を後にし、ノイラ王国へと入る。一応ベシセア王国国王からの紹介状みたいなものは貰ったが、どこまで効力があるかは、王様も分からないらしい。
そもそもノイラ王国は、王国と名が付いてはいるものの、実態は部族の集合体で、国王の権力自体も大して無いそうだ。国王が出張るのは、部族間で諍いが起きた時か、今回のような対外的な戦争の時だけで、後は自分の部族に関わることだけしかしてないとのことだ。部族間の諍いと言っても、元々が好戦的ではない種族なので、人間で言ったら喧嘩の仲裁という程度の感じらしい。
とりあえず勝手に入ることはできないとのことなので、国境まではベシセア王国の人に付いてきてもらい、入国手続きをする。
ノイラ王国は全体が森の中にあり、家も樹上や、ちょっと開けた広場のようなところにまばらに建っている。森は魔の森のようにうっそうとした感じではなく、調和のとれた、よく手入れされた森という感じだ。日の光が適度に入るようになっているため、暗さもあまり感じない。木々の間も適度に空いているため、シンバル馬に乗っていると言えど、進むために木を切り倒す必要などは無かった。
ノイラ王国は森は広いものの、逆に森が全土なので、そこまで広大な領土を持っているわけではない。森の中で移動速度が若干落ちてはいるものの、ノイラ王国に入って3日目の夕方には王都に着く。
王都と言っても人間の王国のような都市があるわけではなく、巨大な木を中心に、樹上や、広場にある家が、他の所よりも密集してるかな、という感じである。巨木以外の違いを強いて言えば、密集しているため、木々の間にツタで作ったつり橋のようなものが何本もあることだろうか。他のところにも無いわけではないので、あくまで数が多いという違いでしかないが。
人間が来たのが珍しいのだろう。何人もの視線を感じる。然し困った。王都についても人影を見かけない。そもそも王様がどこにいるのかが分からない。感じとしてはやはりあの巨木の近くだろうか。
巨木の方に歩いていくと、目の前の地面に矢が突き刺さる。とりあえず当たらないのは弾道から分かっていたので、威嚇射撃だろうとは思ったが、正直こういうのは止めてほしい。弓の射撃体勢に入った段階で、自分が止めていなければ、先制攻撃的防衛射撃を他の3人が行なっていたところだ。
「そこまでだ、人間族のものよ。これより先は王家の領域だ。勝手に立ち入ることはまかりならない」
両側の木の上に作ってある小屋から、それぞれエルフの男性が姿を現す。こちらとしても勝手に入りたいわけではない。せめて何かの目印ぐらい作っておいてほしい。
「勝手に立ち入る気はありませんよ。私達は“幸運の羽”というAランクの冒険者です。ベシセア王国国王の紹介状もあります」
そう言って、敵意の無い事を示すため、両手を上げる。しかし、平和的な種族だと聞いていたから、もっとのんびりとした種族かと思っていたのだが、意外と警戒心が強いらしい。草食動物も警戒心が強いものもいるし、襲われると角や牙で反撃するものもいるから、こういうものなんだろう、と思うことにする。
片方の男性が、器用に枝から枝にジャンプし、下へと降りてくる。
「失礼をした。紹介状を拝見してもよろしいですか」
警戒はまだ解かれてないが、先ほどよりは幾分丁寧な対応をしてくる。降りてきた男性に紹介状を渡し、冒険者ギルドカードを見せる。冒険者ギルドが見当たらないこの国で、このカードが役に立つのかと思ったが、一応身分証としての役割はちゃんと果たしているらしく、男性は紹介状の封蝋印と、冒険者カードを確認している。
「確認しました。確かに陛下への紹介状でした。あちらへどうぞ。陛下がいらっしゃいます」
そう言って、男性が指さした先は巨木の洞があった。扉も何もない、木の洞である。まあ、木が巨大なだけに、中は広そうではあるが、それでも洞である。
「外から来られた方は驚かれますね。ですが、我々にとって聖樹の中に住まうという事はとても特別な事で、選ばれた者のみの特権なのです」
そう男性は誇らしげな顔で言う。この惑星で初めて、人間とは違う異文化と呼べるものを感じた。
ドワーフの国も文化が違ったが、あちらは文化が違うと言うより、性格の違いと言うか、食生活の違いの印象が大きくて、余り文化の差というものは感じなかった。まあ、住民全部がアル中だなんていうのは、大きな文化の差なのだろうが、何と言うか、酒が好きな自分たちですら、文化ではなく病気だろうとしか思わなかった。
「ところで、王家の領域とか貴族の領域、というのはどうしたら分かるんですか?何か目印になるようなものでもあるんですかね」
今後の参考のために聞いておく。王家はとりあえず今回の事で場所を覚えたが、他に同じくらいの勢力がある部族が複数あるらしいので、諍いを避けるために知っておこうと思ったからだ。
「?明確にマナの感じが変わるではありませんか」
男性は不思議そうな顔をしている。
「ええっと。私達にはそういう感じは全く感じられませんでした。そういった場合はどうすればいいのでしょうか?」
「ああ、人間族の方やドワーフ族の方はそういった方もいらっしゃるとは聞きますね。エルフは皆感じられますし、ここに来られる人族は今まで皆感じられていらっしゃいましたので、失念していました。それでは下に生えている草の色を見ると良いでしょう。途中で色が変わっているのが分かるでしょう」
そうエルフの男性が説明するので見てみるが、違いが分からない……。仕方がないので可視光領域を広げてみる。すると、赤外線領域で違いがあるのが分かった。
「エルフ族と人間は見える世界が違うようです。諍いを避けるためにも、せめて何か棒の1本でもたてることをお勧めしますよ」
「何という事を。それではせっかくのこの美しい調和が、乱れてしまうではありませんか」
エルフの男性は信じられない、といった感じで反論する。うーむ。異文化交流は難しい。とりあえず助言はしたし、自分たちはなんとかなりそうだ、これ以上はこの国の者たちが考えることだろう。そう思い、コウ達は国王の住まう洞へと進み始めた。
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