オーロラの頼み
常識が通じないものと交渉するのは大変です。
コウ達は、今回、比較的連続で冒険生活をしたので、暫くジクスの街でゆっくりしていた。魔石も貸したままだったし、オークやワイバーンなどの解体も頼んでいたという理由もある。次に冒険に出るのは戦勝記念パレードが終わってからでも良いかな、とコウは考えていた。
そうやって怠惰に過ごしていると、セラスが来客の知らせを持ってくる。相手はギルドマスターのオーロラだった。
コウはオーロラを部屋に招くといつも自分たちが使っているリビングのソファーに座るように促す。ユキには紅茶を入れるよう頼む。
「どうしたんですか、ギルドマスター直々に自分たちを訪ねてくるなんて。言っていただければ冒険者ギルドの方に行きましたよ」
宿から冒険者ギルドまで歩いて5分ほどの距離である。呼ばれていくのに苦になるような距離ではない。
「いえ、今回はギルドとしての依頼じゃなくて、個人的にあなた達に頼みたいことがあって来たの。流石にそういった時に呼びつけるほど、私は傲慢じゃないつもりよ」
オーロラが真剣な表情で、コウを見つめる。ここまで真剣な表情で見られると、何か予想もつかない重大な事かと、コウも思わず身構えてしまう。
「実は、国王陛下に謁見してもらいたいの。あなた方が倒したヴァンパイアとドラゴンは、いにしえのヴァンパイアロードとレッドドラゴンでね。もしあなた達が倒してなかったら国家の存亡にかかわるところだったの。
それで、国王陛下があなた達に直接会って褒美を取らせたい、というわけなの。会えるのだったら形式は問わないそうよ。それこそ国を救った英雄としてパレードも行えるわよ」
オーロラはそう言いつつも、コウ達はパレードなどは望まないだろうと考えていた。もしすげなく断られたら、と考えると胃が痛くなる。
「なんでそんな悲壮な顔をしてるんですか。別に国王陛下がお望みなら拝謁しますよ。パレードはやめてもらいたいですが。まあ、希望を言えばなるべく簡素な方が良いですね。ただそのあたりの加減というか、バランスは自分たちには分かりませんのでお任せします。出来ればギルドマスターに同席をお願いしたいですね。自分たちは礼儀作法にそこまで詳しいわけじゃありませんから」
「ええ、勿論それぐらいは大丈夫よ。自分から言い出してなんだけど、良いの?」
「勿論ですよ」
オーロラが心配そうに聞いてくるのに対し、コウは直ぐに了承の返事をする。オーロラはいったい自分たちをなんだと思っているのだろうか。一応住んでいる国の元首が会いたいと言っている以上、会うぐらいはする。多少いけ好かない態度を取られるかもしれないが、まあ、子供ではあるまいし、我慢ぐらいする。流石に身の危険を感じたら、反撃することに躊躇をするつもりはないが。
「ありがとう。心からお礼を言わせてもらうわ」
オーロラはほっとした様子で、ユキの入れた紅茶に手を付ける。
「それでは、謁見の日は後日伝えるわね。それまでは、依頼を受けないでほしいけどそれも大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。礼儀に疎いと言っても、そこまで非常識ではありませんから。ただ流石に1週間以内ぐらいには返事を頂きたいですけど」
この世界の情報伝達速度を考えても1週間もあれば十分だろうと考えてコウは答える。一応遠距離でも通話する方法はあるみたいだが、国王とオーロラが直接やり取りできるとは限らないため、その方法は考慮していない。
「それだけ時間を貰えれば大丈夫よ。今回は助かったわ。正直あなた達はこういうのは興味がないと思っていたから、断られたらどうしようかと思っていたの」
正直断られた場合、どうするかオーロラは考え付けないでいた。力は及ばず、権力にも屈せず、金銭はどれだけ持っているか想像もつかない。そんな相手と、どう交渉すれば良いというのか。
なので、あっさりコウが承諾したことは意外ではあったが、嬉しい誤算だった。
「お茶美味しかったわ。かなりいいお茶ね。それでは、よろしく頼むわね」
そう言って来た時と打って変わって軽い足取りで、オーロラは帰っていった。
「コウ宜しかったのですか?周りからは完全にリューミナ王国に取り込まれたと思われますが」
オーロラが帰った後、ユキがコウにそう尋ねる。
「それはいまさらの話だろう。それに、前に王都で話したように王様がそのうち接触してくることは想定内だよ。想定外なのは向こうがこちらに、かなり気を使ってくれたことだな。正直、こっちの都合も考えないで、連絡一本で呼び出すどっかの大臣よりよほど好感が持てるね」
全くこんな原始社会の王様にしておくには惜しい人物だ。元の世界でも政治家としても、起業家としても大成出来たんじゃなかろうか、とコウは思う。
「それはあたい達の実力を知ってるからじゃないのか?」
サラが今一納得できないという感じで話してくる。
「知ってるからと言って、実行できるのが素晴らしいんだよ。見栄、権威、しがらみ、色々な事で人間は中々他人に頭を下げられない。まあ、今回は実際に王様が頭を下げた訳じゃないが、王様周辺では下げたに等しい感覚だろう。元の世界の帝国の貴族と同じだったらだけどね。そう的外れな考えではないと思う。
確かに自分たちの倒したモンスターは、国家の存亡にかかわる事だったかもしれない。だがもう死んでしまった以上そんな事はどうとでもなる。自分達だけでも倒せたと、吹聴したところで否定もできない。で、ある以上、事実を事実として認められるというのは上に立つものとして尊敬できる資質だ」
「自画自賛ですか?それはコウにも当てはまりますよ」
ユキが少し皮肉気にそう言う
「そう思ってくれているのなら嬉しい限りだね。だが、私の場合は環境が違うからな。軍人で現実を現実と認められないものは、死ぬか、狂うか、運が良くても退役するしかないからな。まあ、稀にそうならない者もいるが、その場合、大抵は所属している国家が滅ぶ。第一、年季が違う」
寿命が違うとは言え、自分が50歳にも満たない時、この国の国王と同じ判断が出来ただろうか。思い返すがとてもそうは思えない。親の脛をかじって、友人と遊んでいた記憶しかない。
封建制度の元首とは言え、コウはレファレスト王に興味を持っていた。一度くらいは直接会っても良いかなと思うぐらいには。
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