転職活動(戦闘テスト結果の裁定)
オーロラとワヒウから見た戦闘結果の感想です。
コウ達が訓練所を去った後、オーロラが呪文を唱えると、戦闘が終わった状態のオークの死体が姿を現す。
オーロラがワヒウに向かって問う。
「どう思う?」
ワヒウは今までコウ達に見せたことはない、険しく真剣な表情で答える。
「一言で言や、全員化物だ。お前さんはどう思ったんだ」
ワヒウの問いかけにオーロラは頷く。
「私も同感よ。正直、私の目では何をしたかわからなかったわ。分かるのは測定不能な程のダメージが召喚したオークに加えられたことだけ。しかも攻撃を認識できないぐらい一瞬の間に……一応魔力は感じなかったから、魔法は使用していないわ。私が気付いた、いや気付けたのはそれぐらい……あなたは?」
ワヒウは顎に手を当て、考えこみながら答える。
「まず、コウってやつが矢を撃った。今まで見たことも無いぐらいの速射だった。狙いをつけていたところは見えなかった。そして次の瞬間には、残りの3人が移動し、俺の目でも何とか捉えられるかどうかって速度で槍が突き出され、剣が振り下ろされた。後は見ての通りオークの死体が転がってた」
「現役のAランクのあなたから見てもそれぐらいなの」
ワヒウは副ギルドマスターをやっているが、現役のAランク冒険者でもある。Aランク冒険者というのは、冒険者の多いこのギルドでも数人、国中から集めても100人にも満たない冒険者の中の一握りのエリートである。いないギルドの方が多い。
Aランクの冒険者がいつもいるとは限らないため、そしてBランクパーティでは対処できない時があるため、ワヒウは正式には引退せずに副ギルドマスターになっていた。まだ数年は現役を続けられるとの自信があってのことだが。そしてそれはオーロラも同じで、いまだ現役のAランク冒険者のままである。
Cランク以上は、Dランクまでのように、一つ下のランクのものがパーティを組んだとしてもテストを受けなければ上のランクにはならない。そしてさらにBランクパーティになるには少なくとも1人はBランク冒険者が必要だった。それはAランクでも同じである。逆にBランク以上は1人でも冒険者のランクと同じランクのパーティとみなされる。それほどの差がDランク以下とCランク、そしてBランク以上にはあるのだった。
なお、最高ランクとしてSランクというのがあるが、これはもはや伝説級の活躍をした者に与えられる称号みたいなものである。全世界でも10人いるかいないかといったところである。
その冒険者の中のエリート中のエリートともいえる二人をもってしても、さっきの戦闘は異常だった。もし同じように戦った場合、転がっているオークのように、自分も殺される未来しか見えない。
「見えたのはそれだけだ。だが、状況から推測されることはいくつかある」
単なる戦闘力だけでAランクになることはできない。Aランクというのはワヒウが見た目から連想されるような、筋肉バカとは違うという証拠である。
「まずはこれ」
そう言ってワヒウは頭から真っ二つに分かれたオークが立っていた地面の場所を指さす。そこには特に何の跡もない地面がある。
「サラとマリーといったかな。二人の剣の重量は見た目からでもかなりのものだ。実際にはとんでもなく重く、軽量化の魔法が消えると詰所の壁が壊れるくらいの重量だ。それを俺に見えないような速度で振るうなんて、正直今でも信じられねえ。そして、振り切った後、地面に接触した跡がない。つまりはそれほどの速度で振り下ろしながら、途中で止める余裕があった、つまり全力じゃなかったってことだ」
「軽量化の魔法で、扱うのもすごく軽かった。という可能性はない?」
「無くはないだろうが、そんな意味のないことをわざわざするか。間違いなく実際に持った時の重量はともかく、振った時には重量が加算されるようになっているはずだ。だからこそ測定不能なダメージになったんだろう? そしてそういった武器の場合、止めるときにも重量に見合った反動がある。つまり全力で振るってピッタリと途中で止めるような事は出来ない」
オーロラも自分が言った可能性は低いと思っていたため、ワヒウの説明に納得する。
「次にこれ」
そう言ってワヒウは二つになった死体の半分を、もう一つの死体の半分と取り換える。まるで最初からそうだったようにピッタリと合う。次に矢で殺されたオークと槍で刺されたオークを重ねる。傷口の位置がぴったりと合う。
「どうやったらこんな芸当ができるんだ。まるでケーキかなんかを丁寧に切ったみたいじゃないか。槍と矢の方もそうだ。まるで串焼き職人が丁寧に肉の真ん中に串を刺したようだぜ」
異常、考えれば考えるほど異常だった。
「俺からも聞くが、奴ら高性能のゴーレム、若しくは高ランクのモンスターが化けているって可能性はないか?」
ワヒウはとても人間のした戦闘とは思えないため、オーロラに尋ねる。偶然ではあったが、ゴーレムという考えは今のコウ達にこの世界の観念に当てはめると近いと言える。
「いいえ、違うわ。まったく魔力を感じなかったもの。まったく魔力を使わずにゴーレムを動かす。又はまったく魔力を使わずに変えた姿を維持するなんて不可能だもの。隠ぺいするにしても隠ぺいを維持する魔力はどうしても漏れるわ。普通ならともかく、高性能のゴーレムや高ランクのモンスターを隠ぺいする、変化を維持する、なんてそれなりの魔力を使うはずよ。この距離で私が見逃すはずはないわ」
オーロラが常識的な意見で否定する。
「じゃあ、やっぱり化物だな。案外どっか別の世界から来た神様か、悪魔だったりしてな」
ワヒウが投げやりに言う。これも偶然であるが、近いところをついていた。
「何のために来るのよ。それとも、誰か召喚したとでも? 魔法陣の中以外に自由に行動させるようにするなんてそれこそ、世界中の人間の魔力を使ったとしても無理でしょうね」
これもオーロラの常識的な意見で否定される。
「案外遊びとか?」
これはぴったり正解である。
「馬鹿馬鹿しい。そんな気軽に来られたんじゃ、私のアイデンティティに関わるわ」
オーロラは召喚魔法を使える。そのため、神や悪魔と呼ばれる存在を呼び出すことにどれだけの犠牲を払わなければいけないか熟知しているし、神や悪魔と呼ばれる存在がこの世界に関わることに制約が多くあることも知っている。神や悪魔が実はこの世界に遊びに来られます、などという考え方は到底受け入れられないものだった。
「もう、分からん。俺はそもそも頭脳労働者じゃない」
ワヒウはお手上げというように、肩をすくめる。
「そうね……私もそうだわ。肝心なことは彼らが冒険者になろうとしてること。無法者ではないこと。この2つね。うまくすれば強力な味方になるわ。そのためにも早くテストを終わらせなきゃね。あ、でも補佐するパーティーは慎重に選ぶわよ。何かあってへそを曲げられたらたまらないもの。あなたも手伝ってちょうだい」
「おう!当然だな」
とりあえず、自分で納得するような結論を出した後、パーティーを選別するため、2人はギルドマスターの執務室に向かうのであった。
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また、作風が異なりますが、他にも書いています。良ければそちらも読んでいただけたら嬉しいです