転職活動(戦闘テスト)
お待たせしました。テストですが、ようやく戦闘がおきます。
訓練場は冒険者ギルドの建物のすぐ横にあった。石造りの頑丈そうな建物である。調査したところ石材に周辺のマナ平均値よりだいぶ多い値が検知された。魔法で補強をしている可能性が高い。部屋の大きさは一辺約20m程の正方形で、高さは5mほどある。下は土だが踏み固められているため、それなりの強度を持つ。
鐘が5回鳴り少し時間が経ってから、オーロラとワヒウが姿を現す。
「時間に正確なのね。てっきり鐘が鳴ってから動いてくると思ったのだけど……ちなみに武器は収納ボックスの中なの?」
「そうですね。昨日目立ってしまいましたから……」
「収納魔法もできるだけ控えてもらいたいところなのだけど、あなた方には難しいわね」
オーロラは形の良い眉をひそめて腕を組む。腕を組むと豊かな胸が強調される。だが、それでもマリーほどではない。
「昨日話した事で判るでしょうけど、収納魔法が使える者はごく少数なの。それこそあなた達みたいにさらわれるぐらい。法外な値段で取引されていると聞いたこともあるわ。だからできれば、あなた達は分かれてAランクかBランクのパーティに囲ってもらうのが一番安全なのだけど……それが嫌なら、後はあなた方が相応の力を持っていることを示すしかない。一応Cランクのパーティなら、めったな事じゃ襲われたりしないわ。このテストは聞いたかもしれないけどCランクのテストなの。合格すれば晴れてCランクのパーティよ。私たちの心の平穏のためにも頑張ってちょうだい」
そう言ってコウ達を壁際まで下がらせる。反対の壁際にはオーロラとワヒウが立つ。
「これからモンスターを召喚するから、それと戦ってちょうだい。召喚するモンスターはオーク。単体ではDランクモンスターだけど、モンスターの場合人間と違って4体以上だと自動的にワンランク上のCランクとされるわ。試験官は私とワヒウ。では、武器を構えてちょうだい」
コウ達はそれぞれ亜空間から武器を出し構える。
それを見てオーロラが呪文を唱える。
「わが魔力を糧とし、異形のものを呼び寄せるべし、サモンモンスター!」
オーロラが言い終わったとたん、虹色の光が渦巻き、4体の人型に分かれ、最終的には豚のような頭をした、筋骨隆々の身長180センチほどの人型モンスターが現れる。オークである。どれも4体とも同じ姿かたちで、腰みのと先端が太くなったこん棒を持っている。
「始めの声とともに戦闘を開始してね。それでは準備はいいわね」
コウは小さく頷く。
「始め!」
合図とともにコウに加速剤が注入される。思考を1万倍に加速させるドーピング剤だ。AIである他の3人には必要ないが、戦闘時にはドーピングをしないと、同じ素材で作成した体はともかく人間では思考速度が追いつかない。指示を出すコウの思考が遅いということは、それだけ部隊の行動が遅れるということである。なのでこのような近接戦戦闘時はドーピングをして思考の速度を早める必要があった。
正確に言えば、人間の思考速度を1万倍にしたところで、AIの思考速度の足元にも及ばない。だが、肉体の物理的な動作限界があるため、この世界のような近接戦闘では1万倍で問題がないという考えだった。もちろんこれが、星間国家の戦闘である場合は攻撃の動作が速くなる射撃戦がメインとなるため、1万倍レベルではすまないのであるが、コウはそこまでの必要性は感じていなかった。
コウ達は思考通信を始める。
(あのオークは事前情報と同型か?)
(いいえ、外見上は変わりませんが、肉体を構成している主成分が有機化合物ではなく、マナです。その意味ではこちらでいうゴースト系と呼ばれているモンスターに近いものがあります。また、ゴースト系と同じく僅かな生命反応があります。ただマナは固形化する方法もあるようですから、恐らくそちらの使用方法を使っているものと推測されます。仮に自然発生のオークと同型の強さである場合は、戦闘能力は攻撃力、防御力ともほぼ皆無です)
ユキが召喚されたオークを分析する。サラもマリーもこれぐらいのことはできるが、本体が旗艦のユキがいる以上、このような役割はユキが行うものだ。
(では、基本、戦闘時出力の最低出力で攻撃を行うように。まず、私が弓で攻撃を行う。その結果で出力を調整、各自1撃で倒せるようにする事)
コウが指揮を出す。なお、通常時出力と戦闘時出力はまったく別のものだ。いつも同じだと制御が困難なためと消費エネルギーが無駄なため、アバターには通常時、戦闘時、緊急時の3つの出力形態があるのが普通である。
ユキの管制システムによって、目標が振り分けられる。コウは矢をつがえ、ほんの少し弦を引く。矢は多少は丈夫だが、この世界で一般的な、木製の物に鉄の鏃がついたものである。
ちなみに、細かいことだが、天然の木材を消耗品の矢として加工するのは気が引けたので、ここに使われているのは合成木材である。
コウの網膜に目標地点が緑で、着弾地点が赤で表示される。重なったところで矢を放つ。
矢は音速を超える速度でほぼ一直線に飛んでいき、オークの眉間に矢羽根の部分まで突き刺さった。ここまでの間、コウ達の目にはオークは彫像のように止まって見える。
コウの弓がオークの眉間に突き刺さったのと同時に他の3人が攻撃に移る。わずかな差であるが、リーチの関係上ユキが眉間に槍を突き刺す。その後サラとマリーが頭から綺麗に剣で真っ二つにする。
(生命反応消失。倒したと推測されます)
いつもと違い、マナと呼ばれる不確定要素があるためユキの報告の歯切れは悪い。
(まあいいか。多少不安ではあるが戦闘時出力を通常まで落とす)
コウに中和剤が注入され通常の思考速度となる。それと同時に召喚されたオークが倒れ、消えていく。
「いかがでしたでしょうか。テストは合格ですか? それともまだ何度か戦闘があるのでしょうか?」
コウの問いに、呆然とした表情をしていたオーロラは、何とかといった様子で平静を装い答える。
「そ、そうね。戦闘に関しては問題なさそうだわ。この後は冒険者ギルドへの仮登録を行うわ。仮とは言えテストに全部合格したらそのまま本登録になるからちゃんと書いてね。文字が書けなかったら、レアナに頼むといいわ」
「それが終わったら、街から出ない限り、しばらくは自由よ。本当なら冒険者になりたてというのはお金がない人が殆どなんだけど、あなた達にその必要はなさそうだしね。ただ、問題行動を起こした場合はテスト失格よ。後、テスト用のクエストができるかどうか、毎日鐘が3回鳴るころにギルドに尋ねてちょうだい。質問は?」
オーロラの問いに、コウが尋ねる。
「具体的に問題行動というのはどういうことを指すのでしょうか。たとえば自分達を襲ってきた暴漢をケガさせたり、誤って殺してしまった場合も問題行動となるのでしょうか?」
オーロラは少し考えこむ。
「普通はCランクの昇格テストを受けるようなパーティに絡むような人はいないのだけど、あなた達は特殊だものね。基本的に普通に罪になること、窃盗や傷害なんかは問答無用に取り消しよ。襲ってきたものを撃退した場合は大丈夫だけど、殺してしまうとちょっとまずいかもしれないわね。出来ればそういう場合は逃げてほしいわ」
「分かりました」
コウは妥当なものだと判断し、頷く。
レアナが呼ばれ、テストが終わった事が伝えられる。レアナに案内されコウ達は訓練所を出ていった。
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