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ミュロス王の最期

ミュロス王も無能と言う訳ではなかったのですが・・・。

 ヴィレッツァ王国の首都の西側は遠浅の海が広がっていて、大型船は入る事が出来ない。川はあるもののローレア河ほど大きくはなく、普通の川船が行き来できる程度である。それでも川沿いの住民を潤すには十分な大きさではあるのだが、大軍が移動できるような川ではなかった。上流にある王都ザゼハアン付近ではもっと小さくなる。ザゼハアンが王都になったのは氾濫の心配が少なく、生活するには流量が十分な川沿いというのもあったが、100年前にカイヤ海の制海権を握り、次々と沿岸都市を落としていたリューミナ王国に対する警戒という部分もあった。


 リューミナ王国との国境から王都ザゼハアンまでは約1500㎞である。リューミナ王国としては、陸地を延々と1500㎞進軍するより、海側から攻めたいが、王都を落とせるほどの大量の兵員と物資を一気に上陸させる場所がない、というのが長年の課題だった。王都付近どころか、ゼノシア以南のヴィレッツァ王国の海岸は遠浅の海が広がってるのである。

 それを解決したのが川船に使われる平底船を外洋航行ができるよう改造したものである。古代の地球人が見たら、中国で発達したジャンク船を思い浮かべたかもしれない。甲板が高くできず、相手の船への接舷攻撃がしにくいため、海戦では不利だが、耐波性も、速度も優れており、運搬には申し分なかった。ただそれは絶対的な制海権があってこそである。

 それの両側に巨大な車輪を付け、海から一気に上陸できるようにしたのがリューミナ王国の改造した平底船であった。上陸した後、船を引っ張るのは、勿論リューミナ王国の誇る大型馬、シンバル馬である。


 リューミナ王国軍はザゼハアンにいた部隊が、十分に王都から離れたころを見計らって一気に上陸した。正騎兵4万、正歩兵10万、補給部隊30万の大軍である。この補給部隊の多さこそがリューミナ王国の特徴と言えるだろう。

 大軍、そして陸を進む異様な船は、立ちふさがるべきヴィレッツァ王国の貴族の戦意をその姿だけで打ち砕いていく。実際ザゼハアン付近まで戦闘らしい戦闘は起きていない。ちなみにこの主力軍を率いているのはエネストである。副官として第2陸将バロスがついている。陸上での戦闘は実質バロスがトップとなり指揮を執るはずだったが、戦闘そのものが起きないので、今はエネストの隣にいる。


「最初、急に予定が変更になった時は、大丈夫かと心配になりましたが、流石は我らが陛下、順調に作戦は進んでいますな」


 斥候の報告を聞き終えバロスがエネストに話しかける。


「うむ。だが、ここまで陛下にお膳立てしてもらったのだ。負けることは万が一にもあってはならぬ。陸戦では貴君が頼りだ。働きに期待しているぞ」


 伝統的に第1海将が総大将を務めるとは言え、畑違いの分野に口を出すようでは、そもそも第1海将にはなれない。リューミナ王国は兵科の分業も他国より進んでいる。海兵はすべて補給部隊に回っており、海兵を歩兵として使う、若しくはその逆も無かった。海には海の、陸には陸の戦い方があるのだ。それを理解できないものは指揮官クラスには上がれない。


「それにしても、まさか此方が主攻となるとはな。当初はヴィレッツァ王国北部侵攻のための、支援だったのだがな。陛下の臨機応変さには、本当に頭が下がる」


「正しく」


 エネストの呟きに、バロスはそう言って頷く。

 実際は当初の予定が狂い、レファレストは部屋でもだえ苦しみながら、この作戦を考えたのだが、それを表に出す王ではないため、部下にはすべて国王の予定の範囲内で動いているようにみえる。勿論それは今までの実績があってこそのものではあるが。

 もし、城壁が壊れていなかったらこの兵力で王都に攻め込みはしなかっただろう。予定を壊したのはコウの報復攻撃のせいだった。


「明日にはザゼハアンに着きます。ここで今日は野営しましょう」


「うむ」


 バロスの提案にエネストは頷く。元々陸上ではお飾りの総大将だ。よほどおかしいことをしない限りバロスの行動を拒否するつもりはない。

 フェローの率いる軍と同じようにきびきびとした動きで野営の準備がなされていった。



「明日には、王都に着くと思われます。陛下ご決断を」


 そう言って青ざめた顔で、ミュロス王に見たことをギスバルは報告し、王の決断を待っていた。軍事に明るくない自分をもってしても勝ち目があるとは思えない。仮にケインの部隊を呼び寄せても数の差は履らない上、その時まで持ちこたえられるとは到底思えなかった。


「予の決断が1歩、いやそれ以上遅かったか……」


 ミュロス王は力なく呟く。今から思えばまだやれることはあった。なりふり構わぬ国外からの食料の調達、冒険者に依頼しての野生の肉の調達。領土の一部割譲によるルカーナ王国、若しくはナリーフ帝国からの援助、城壁が壊れた時点での王都移転、最悪婚姻によるルカーナ王国との合併。次々と浮かび上がる過去に考えた政策。だが、それを行う決断ができなかった。

 何よりもギスバルの提言を受け入れず、あの忌々しい冒険者たちに手を出したのが悔やまれる。手を出さなければ城壁が壊されることもなく、依頼金で多くの食糧が買えたであろうに……。


「宰相、愚かな王に、今までよく仕えてくれた。最後の頼みだ、王妃、子供、重臣や部下たちをバラバラに逃がし、統治能力を解体してくれ。その上で宰相は降伏して、リューミナ王国のヴィレッツァ王国掌握を遅らせてくれ。国土に関する資料が無くなり、おぬしが生き残っておれば、リューミナ王国はおぬしを何とか利用しようとするはずじゃ」


「陛下はどうなさるおつもりですか」


「愚かな敗国の王など死ぬしかないであろうよ。レファレストは予を生かしておいて、先ず属国化をなどと考えておろうがな。奴の思惑には乗らん。愚かだったとはいえ、予の最後の意地だ。予の死体は宰相の好きなように使え」


「陛下……」


 ギスバルは涙を流す。確かにミュロス王は理想的な君主ではなかったかもしれない。だが、愚かな王だったとは思わなかった。先王が無茶な遠征をしていなければ、このような事にはならなかったはずだ。


 ミュロスは1人寝室に入っていくと、城にある一番良い酒に毒を入れる。自害用の苦しまずに死ねる薬だ。


「レファレストよ。善人ぶってはおるが、おぬしもどうせ死んだ先に行くのは地獄よ。先に待っている故、せいぜい後から来るが良い」


 そう言って、ミュロスは毒の入った酒を飲むと、寝室に横たわり、眠るように息を引き取った。


 最後ぐらいはと思い、ちょっとカッコよくミュロス王を書いてみました。今迄の書き方だと無能な王にしか見えないかなと思いましたので。如何でしたでしょうか?


 毎度お願いで恐縮ですが、面白いとか続きを読みたいと思われたらで構いませんので、評価やブックマークの登録をお願いします。

現金と思われるかもしれませんが、評価が上がるとやはりモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 〉レファレストは部屋でもだえ苦しみながら フフフ。ちょっとスッとしたです(ふふふ [一言] ミュロス王お疲れ様でした。
[一言] 副題の【ミュロス王の最後】は【最後】ではなくて、【最期】では?
[一言] 平和な時代なら優秀だったんだろうけどねぇ
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