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開戦への秒読み

リューミナ王国とヴィレッツァ王国の状況の違いが分かればと思います。

 コウ達が、ヴィレッツァ王国の王都ザゼハアンの暗殺者ギルドと城壁を攻撃し、リンド王国に入っていた頃、ヴィレッツァ王国の王宮は大混乱に陥っていた。何せ、いざという時に自分たちを守る壁が無くなってしまったのである。その心理的影響は絶大なものであった。


 王城の会議室に重臣たちが集められていた。どの顔も一様に重苦しい。


「ギスバル、壁の修復にはどれぐらいの時間が掛かるのじゃ」


 イライラした口調で国王であるミュロスが宰相を問い詰める。


「復旧には最低でも2年。それも、資金が続けばという条件付きでございます」


「そんなにか、それまで我が都は丸裸同然ではないか。敵が攻めてきた時、防ぐ手段はあるのか!」


「恐れながら、野戦にて打ち倒すしかないと考えまする」


 国王の問いに答えたのはこの国の第1軍の将軍メルロスだった。国王より少し上の今年50になる身だが、鍛え上げたその引き締まった身体は、若干細身ながら将軍としての威厳を醸し出している。ミュロスが軍の立て直し時に取り立てた下級貴族であり、ミュロスに恩を感じていた。


「それで勝てるのか?」


 ミュロスは愚鈍な王ではない。自国の兵が決して精強とは言えないことも知っている。何せ軍の予算を削ったのは、他ならぬミュロスなのだから。


「勝つしか道はありませぬ」


 しかし将軍としてはそう答えるしかない。ヴィレッツァ王国は水害で大きな被害を受けたとはいえそれでも大国である。せめて籠城するための城壁があれば、リューミナ王国とてやすやすと落とせる相手ではない。籠城戦の間にルカーナ王国からの援軍や、ナリーフ帝国からの圧力も期待できる。だが現状では無理な話だった。


 何ら結論を出せないまま幾日かの時が過ぎる。もう何日目だろうか、全員が疲れた顔をした会議室に慌ただしく伝令が入ってくる。伝令は将軍に素早く情報を伝えると、敬礼をし去っていった。


「何の知らせじゃ」


 ミュロスは連日の会議と不安のための寝不足で疲れていた。


「はっ、リューミナ王国国境付近で動きありとの事です。海軍が南下し、大量の兵員をゼノシアに集結させているそうです」


 ミュロスは疲れ切った顔を将軍に向け聞く。


「勝てるか?」


「兵力をゼノシアに集結させたのなら勝ち目はあります。前回の大陸南北戦争時と逆のことをやるのです。陸軍で北上し、敵の補給路を断ちましょう」


 事はそう簡単にはいかないだろう。そう思いながらも将軍はこの国を勝たせる起死回生の一手としてそう提言する。


「ふむ、ならば予は北部の貴族たちに召集を掛けよう。全権をメルロス将軍に与える」


「はっ、ありがたき幸せ」


 将軍は立ち上がり、会議室を出ていった。それを見ながらミュロス王は考える。もしメルロスが負けることがあったら、娘をルカーナ王国に嫁がせ、将来その子にこの国を渡すことも考えるべきかもしれない。少なくともリューミナ王国にこのまま飲み込まれるよりはましだ。その考えを心の内に秘めながら重臣たちに言う。


「事は始まったようじゃ。これ以上はここで会議をしていても仕方がないじゃろう。予は休む故、そなたらも休むが良い」


 そう言って国王が退出すると、重臣たちも退室していく、どの顔も不安しか浮かべていなかった。



 一方、リューミナ王国の王宮でもその頃重臣たちが集められて会議が行われていた。ただこちらはヴィレッツァ王国と違って皆明るい顔色をしている。


「天から光が降り注いでザゼハアンの城壁が、王宮の分まで含めて破壊された、という噂の確認が取れました。その時、夜なのに白く光る鳥が、他国のものに暗殺者を仕向けた、と国王と宰相を非難して飛んでいたそうです。その鳥は石を投げてもすり抜けていったそうです。時期的にみて“彼の”パーティーになんらかのかかわりがあることは間違いないとも思われます。

 リンド王国への物資は無事に着いたとの事です。予想以上の量にリンド王国国王陛下は、いたく感激されたとか。また、依頼の受注とはなっておりませんが、その時巨大なロックワームというモンスターに王都が襲われそうになったところを“彼の”パーティーが倒したとか。これも感謝するとの事です。冒険者ギルドを通じて特急便にて知らせが入りました。正式には書状が後ほど届けられるとの事です。

 また、ヴィレッツァ王国北部の民衆の扇動及び、貴族への離間工作も進んでおります。これに先ほどの事件を踏まえ、ヴィレッツァ王国の国王は神から罰を受けた、などの流言を流せば更に民心は離れると思われます」


 リューミナ王国宰相バナトスが淀みなく報告を終える。国王も軽く頷き、次の報告を促す。


「では私から軍の報告を。物資、及び兵員については予定通りゼノシアに集結中です。また、補給線確保のための防衛部隊も集結を開始しています。陸軍の南下部隊も集結を完了しています。いずれも妨害はなく順調です」


 報告したのはリューミナ王国の第1艦隊海将エネストだ。同格としてリューミナ王国は陸将が居るが、歴史的背景から公式の場では、第1艦隊海将が所謂全軍の代表である将軍の役割をしていた。


「ふむ、順調すぎて怖いぐらいだな。急な予定変更だ、変なことで躓かないよう各自気を付けておけ、それと冒険者ギルドに傭兵を募れ。ランク不問で食事付きでな。別に高ランクを集める必要はないので、報酬は安くてよい」


 国王がそう言うと、少し焦ったようにエネストが答える。


「冒険者に傭兵をやらせるのは、反対です。部隊としての統一もできませんし、指示系統も混乱します。軍として動けるよう訓練するには時間が足りません。何より我が軍の兵で十分な戦力かと思われます」


「落ち着け、何も我が軍の力を疑っているわけではない。ただの水増しだ、戦場に出しはしない。だが、相手もそれに対抗しようとしたら我が国より負担は大きかろう。

 それに、食うに困ったヴィレッツァ王国の冒険者も、ランク不問の依頼なら受ける事が出来よう。それが先日まで農民や兵士であったものでもな。ヴィレツァ王国側にもその情報を流せ。

 嫌がらせ程度かも知れんが、これでこちらの兵の死人が減るなら安いものだ」


 そう言ってレファレスト国王はエネストを諫める。レファレストは戦場に出たことがないにもかかわらず、訓練された兵が重要だということを知っている稀有な王であった。先王の教えも良かったのだろう。


「“彼の”パーティーは如何いたしましょうか?」


 最後に聞きたいという風にバナトスが尋ねる。


「ん、彼らは十分に働いてくれた。寧ろ働きすぎだな。おかげで予定が狂いこの忙しさだ。これ以上の働きはいらぬ。それに戦場での英雄はこの国の人間だけでよい。Aランクに上げる依頼でもさせておき、戦場から遠ざけておけ」


「ははっ」


 バナトスは短く返事をすると、国王は会議の閉会を告げる。王の言葉とは裏腹に、実に静かなそして短い会議だった。


物語とは関係ありませんが1人称の「よ」は予、余どちらでも良いようです。


 毎度お願いで恐縮ですが、面白いとか続きを読みたいと思われたらで構いませんので、評価やブックマークの登録をお願いします。

現金と思われるかもしれませんが、評価が上がるとやはりモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします。



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