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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
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10




 一通りの説明が終わったところでミカエルは残りのフラペチーノを一気に飲み干し、悠仁に一つ確認をする。


「さて。ユージンが解こうとしているルシファーが残したメモだけど。このまま解読を続けるか?議会に狙われ続けてしまうことを覚悟して」


 問われた悠仁は、今一度やろうとしていることについて考える。

 自分が議会に狙われていることは、十全に理解できた。しかしメモの解読は、やらなければならないことだと思っている。ルシファーが自分に託したかった本当の願いは、このメモを説いた先にあると信じている。ここで放棄しては後悔が上塗りされて、色褪せないまま心に残り続けるだけだと感じた。


「……続ける。ルシファーが何を掴んだのかはわからないけど、絶対に意味がある筈だから。天界で何もできずに終わって悔しかった。だから、今度こそ最後までやり通す。それに、二人が守ってくれるだろ?」

「変に期待しないでくれる?護衛はしてあげるけどさ、調子に乗られてもやる気なくすんだけど」

「驕らないよ。俺はごく普通の人間だってわかってるから」

「ユージンがそのつもりなら、こっちも全力でサポートしよう。問題は、メモが何を示しているかだ」

「二人は何か心当たりはないのか?」


 ボクは何も、とベリアルは首を横に振るが、ミカエルには一つ心当たりがあった。

 ルシファーを匿った際に、彼が言っていたことがあった。

「天界から離脱しても、議会への疑念が消えない。アブディエルの暴走はこれだけでは終わらない。議会の行動が再び人間に害が及ぶものなら、目論みを暴いて止める必要がある」

 と、危機感を表していた。


「そう言ったあとに、ルシファーは姿を消した。それからは物質界に潜伏しながら、度々降りて来る同胞に議会の動向を探っていたんだと思う」

「ミカエル様は議会にいて、これまでとは違う行動に気付いたり、また別の実験をやっているなど話を聞いてないのですか?」

「聞いてなくはない。だが、相変わらずアブディエルとヨフィエルがつるんで、二人だけの秘密にしている。二人の行動に気付いて何気なく探りを入れてみたが、不確定情報しか得られなかった」

「知ってることだけでいいから、教えてくれないか」

「今回の大命に関連して、何やら大規模な計画を企てている。不面目極まりないが、それからすぐに解任されてしまったからそれしかわからない」


 アブディエルの話では、物質界に関係したとある計画を神から明かされたらしく、今度の大命はそれを実行する前段階のものだということだった。

 あまりにも頼りない情報だが、それを元に悠仁は推考する。


「ルシファーはあることを調べていた。それが元で議会に捕まったんなら、きっとその計画について探ってたんだ。そして多分、全貌を掴んだ。けれど、掴んだ証拠をバカ正直にそのまま残しておけば、行動を感知したアブディエルに存在共々抹消されることを危惧した」

「あいつは、いつかは捕まるとわかっていた。だがそうなる前に、誰かに伝える為に証拠を残す必要がある。だから、アブディエルにPCが見つかっても掴みきれていなかったとカモフラージュする為に、謎解きのようなメモを残した」

「で。そのメモは、計画の内容そのものになるの?」

「違う。PCにはもう一つ、圧縮ファイルがある。その中に、ルシファーが掴んだ計画の全貌が記されてるんだ……ということは、メモはファイルのロックを解除するパスワードのヒント?」


 メモの正しい答えを導き出せば圧縮ファイルを開けることに、悠仁は気付いた。メモは、獲得した機密情報を特定の対象に見られないようにすると同時に、悠仁だけに情報を開示できるように工作した仕掛けだったのだ。

 ルシファーは、悠仁がPCを開くであろうと予測していた。そして意味不明なメモを残し、謎解きが好きな悠仁が興味を示すように誘導した。例えアブディエルがPCを発見したとしても操作の仕方はわからないし、自分の捕獲を最優先にして証拠隠滅は後回しにすると読んだのだ。


「メモは全部解読したよな。それぞれに共通点か何かなかったのか?」

「いや。色々考えたんだけど全くわからない。もしかしたら、答えが間違ってるのかも」

「じゃあ協力して、とっととファイルってやつを開こうよ。物質界はもう変わり始めてる。議会の計画が動き出す前に、暴いて止めないと」


 都会のカフェで優雅にコーヒーブレイクをしている時間は、そんなに長く取っていられそうになかった。世界情勢が更に進行する前に、パスワードを導かなければならない。

 すると悠仁が発言する。


「じゃあ、誰がリーダーになる?」

「リーダーなんて決める必要ある?」

「一応、決めておいた方がいいのかなと思って」

「なら、ユージンじゃないか?ルシファーの意志を継いでいるユージンが相応しいだろ」


 そう言ってミカエルは悠仁を推すが。


「ボクは嫌です。人間に従うなんて。しかも頼りないユージンに。リーダーと言えばミカエル様です。ミカエル様の方が相応しいに決まってます」


 ベリアルが猛反対する。その裏表のない発言に、悠仁は少しムカッときた。


「おい。聞き捨てならないぞベリアル。喧嘩売ってるのかお前」

「ボクはボクの意見を言っただけ。それに、ミカエル様とルシファーは天使の中で最も近い間柄でよく理解されてるんだから、正当でしょ」

「近いって?親友みたいな?」


 天界でのルシファーの交友関係は気にしたことはなかったが、お互いの家を行き来したり、休みの日には一緒に出かけたりする相手がいたのかと、初めて知ることに悠仁は興味を抱いた。


「オレとルシファーは、ほぼ同時に生まれたんだ。だからお互いに、異常な程親近感があった。あいつが議長になってからは、殆ど会うこともなくなってしまったがな」

「だから説明の時、敬称を略して話してたのか。生まれたのが同時ってことは、兄弟なんだな」

「兄弟……同じ親から生まれた子供同士のことか」

「そう。確かに兄弟が罪を犯したら悲しいし、助けられるなら何とかしたいと思うかもしれないよな。だからミカエルは、ルシファーに味方するんだな」

「ちょっと。ルシファーは何も悪くない。悪いのは全部アブディエル様!」

「わかってるって。例え話だから。ルシファーを好きなのはよくわかったから、いちいち突っ掛かるなよ」

「好きじゃない!すっっっごく尊敬してるだけ!」


 と、些細なことでまた悠仁とベリアルの言い合いが始まった。ベリアルはちゃんと自分の心と向き合って整理ができた筈だが、心なしかマンガのツンデレヒロイン化している気がしなくもない。

 目の前で衝突が起きていると言うのにミカエルは目もくれず、悠仁から言われたことを反芻していた。

 兄弟か……家族という概念はないが、何だかしっくりくるな。


 数分後。夕方の鐘がゴング代わりに鳴り、悠仁とベリアルの試合はドローで終わった。いつの間にか忘れていたリーダー決議は、平和的に多数決で決められ、結局は悠仁が務めることとなった。




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