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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
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 ミカエルは物質界に降りて来た経緯を、天界の現在までの動きを交えて説明した。

 ある時、公安部最高責任者のミカエルの元に、シェハキムの研究施設で通常の研究とは異なる実験が統御議会副議長アブディエルの主導で行われている、という情報が入って来た。通常とは異なる実験と副議長が関わっているという点に疑問を抱いたミカエルは、念の為に調査をする必要があると判断した。

 直接聞き取りをすることも可能だったが、議会の上層部が一枚噛んでいることをミカエルは考慮した。万が一天界を揺るがす大事件に発展しうる事態になることを懸念して、調査は慎重に極秘に進める為に機捜班で調査する方針を取った。

 周りから情報を得る方法もあったが、議会に入り込めば確実な情報が得られるだろうと考えていた。そこへタイミング良く、新議長に就任したアブディエルから顧問になってくれないかと話が持ち込まれた。今回のように極秘任務にあたることもある公安部所属の職員の顔触れは、統御議会すら知らない。ミカエルはこの招請しょうせいを使わない手はないと、本当の身分を隠して議会に潜入した。

 しかし、実験内容についてはなかなか情報を得られなかった。


「特別顧問なのに教えられなかったんだな。ミカエルを警戒してたってことなのか」

「と言うか、実験内容を明かすに信用足りうるか様子を見てたんだと思う」

「自分からミカエル様を呼んだくせに疑ってかかるなんて、失礼な話ですよ全く」

「それに、他の議員にも明かしていなかったと言うことは、秘密にしておかなければならないと最初から理解していたんだ。情報漏洩を防ぐ為に、元から必要以上に関係者を増やすつもりはなかったんだろう」


 潜入してまずわかったのは、主導のアブディエル以外で関係しているのはヨフィエルとザフキエルだということ。それから既に得ていた情報として、アブディエルが死んだ人間の魂から負の感情を抜き取って研究していることがわかっていた。ミカエルはどうにか探ろうと行動しようとしたが、その三人しか知り得ないことを他の議員に聞いても意味はないし、しつこく探りを入れてしまえばアブディエルから怪しまれてしまう。

 公安部は、議会の指示がなくとも動くことが可能な場合もある。しかし、飽くまでも議会が擁する機関である為、天界を取り締まる公安部と言えど、もしも内部調査の元が誤情報だったということになれば、逆に取り締まられてしまいかねなかった。


「だが暫く経ってから、ようやくザフキエルから実験内容が聞けた」

「結局何だったんだ。アブディエルは何の実験をしてたんだ?」

邪天使エンヴィルスの製造だ」

「邪天使って?」

「アブディエルが造った、人間を操作する為の道具だ。実験の正体は、死んだ人間の魂から集めた負の感情を天使エンジェルスやグリゴリに移植し、悪の意識を持つ天使を造っていたんだ」

「それはつまり、仲間を改造したってこと!?」

「そうだ。意識レベルでな。だから邪天使は元の人格は維持されるが、普通の天使より数百倍の悪意を持っている。そしてアブディエルは完成した邪天使を、『不品行になった人間を戒める方法を講じて実行せよ』という大命遂行の為に奴らを物質界に大量投入し、人間が争いをするよう吹き込ませ、悪の恐ろしさを知らしめた」


 アブディエルは邪天使たちに、人間に殺し合いの誘惑をさせた。それが酷い結果となったのだ。それは、少しでも実態を掴みたかったミカエルが、大命遂行方法に悩むアブディエルに意図してアドバイスしたことが、邪天使を生み出すきっかけとなってしまっていた。その経緯に辿り着いた時ミカエルは、任務遂行を優先した自分の軽はずみな発言を後悔し、自責の念に駆られた。


「その後、ルシファー堕天の危機を知ったオレは、早急に実験の実態を掴みルシファー堕天の画策を阻止すべく、特別顧問として倫理違反疑惑を問い詰め、研究施設内を見せてほしいと要求した。するとアブディエルは、素直に研究施設へとオレを案内した」

「実験装置とかデータとかはあったのか?」

「何もなかった。そこには、通常の研究施設の設備以外は何も怪しいものはなかったんだ」

「嘘だろ!?じゃあ、俺たちが掴んだ情報は偽の情報だったのか?」

「いや。情報は間違いない。使用した装置などは、別の場所に移動させたに違いない」

「移動って。そんな大掛かりな引っ越し、見せろって言われてすぐにできないだろ」

「それが可能だったんだ。その日ではなかったんだから」


 一時、アブディエルの動向が少し大人しくなった時期があった。それは、新たな大命が下り、物質界が良くも悪くも状況が維持されていた時───邪天使が造られていなかった期間だ。アブディエルは邪天使の製造一時停止中に、実験装置一式をヨフィエルら研究施設の職員に指示して何処かへ移動させたんだろうとミカエルは考えた。


「いつか機捜班が捜査に来る恐れを目算し、念の為に移動させたんだろう」

「先手を打たれたのか……大胆なようで用心深いんだな」

「アブディエルにも、自分の研究はしているが倫理観を問われる実験はしていないと言われた。オレはその時は間違いを認めるしかなく、嘘の情報に踊らされたと誤魔化したが」


 そのおかげでミカエルは実験の実態を掴めず、検挙を断念。物的証拠がなければ任意での取調べも難しく、第一の作戦を放棄するしかなかった。

 その後も実験は落ち着きを見せていたが、ミカエルは引き続き議会に潜入し経過観察を続けた。その間は、アブディエルが非道な手段に出るような大命は下されなかった。

 ところが、物質界が平和になって安心しきっていた最近になり、『人間の存在価値を審査する。改心した人間を試験し、船出の時に備えよ』という大命が下され、再び人間の存在価値が問われることを知った。賜った直後からアブディエルは動き出し、その影響は既に出ていた。


「もしかして。近頃、殺人とかが世界中で頻発・急増してるのは……」

「人間の不品行を直す時と同じように、再びアブディエルの画策で邪天使が物質界で動き回っているからだ」


 今の物質界の平和は人間の努力とされているが、本当のところは陰で天使が支えたことで実現されていた。その一番の功労者は、権天使プリンシパリティーズのハミエルだ。

「平和と調和」をポリシーに持ち、人間の権力者たちに寄り添い、平和的に物事が進むよう天界の掟に触れない程度に導いてきた。争いが増えた時は仲間と共により積極的に行動し、平和に導く為に助力を惜しまず、永き年月ときに渡って天界と物質界を行き来し、その身を尽くした。

 忍耐強く持久力もあるのだが、第ニ次大戦の終結と世界法律発布にも助力した現在は、永遠と尽力し続けたことが祟り体調を崩して療養中である。アブディエルはその同胞の粉骨砕身の結晶を、ゴミにしようとしているのだ。




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