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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
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3




「短文が四つあって、二つ目まではやったんだ。二つ目の答えはわからなかったからカッコ仮だけど」

「絶滅危惧種と国家元首か……」


 夏樹は短文を見つめ、二つの回答候補を一つに絞る為に自分なりに考える。前哨戦なのにだいぶ気合が入っているようだ。


「絶滅危惧種は、支配者じゃなくないか?」

「単語が正反対だから、答えが二つになっちゃったんだよ。書いてあるだけ」

「オレは、これは『数多の支配者』の方にポイントを置いてる気がする。『この世界の唯一無二』を一度省いて考えるなら、国家元首の方が近いんじゃないかと思うんだけど」

「そっか……じゃあ、そっちにしておく」


 夏樹の意見を参考にし、悠仁は絶滅危惧種を消して《国家元首》を答えにした。ただ、前半部分をあまり考えずに出した答えなので、これも確定はできそうになかった。


「三つ目から考えてるんだな」

「そうなんだけど、これが全然わからなくて」

「幸福でいられる場所で、罪を犯した場所か。うん。これはよくわからない」

「早々に諦めないでくれよー」

「ちょっと待て。真剣に考えてやるから」


 そう言うと夏樹は腕を組み、悠仁を凌ぐ真剣さかと思うくらい本当に真剣に考える。夏樹が話しかけられないくらい真剣に取り組むので、悠仁ももう一度考えてみる。でもやっぱりわからなかった。

 他の学生の雑音が耳に入らない程没入すること数分。夏樹がひらめいた。


「……わかったかも」

「マジで?」

「楽園じゃないか?」

「楽園?」

「『人間が一番最初に罪を犯した場所』で考えてみた。エデンの園って知ってるか?」

「エデンの園?……あー。何となく」


 一度は聞いたことがあるような気がするが、悠仁の知識レベルは単語を知っているくらいだった。悠仁の曖昧な応答の語尾にクエスチョンマークが見えた夏樹は、説明をしてくれる。


「エデンの園は、神が最初に作った男女の人間・アダムとイヴが住んでいた場所だ。省略して説明すると、アダムとイヴはエデンの園の木に成っている善悪の知識の実、つまり禁断の果実を食べ、他の木の実を食べ尽くされるのを恐れた神によって二人は追放された。神からは食べてはいけないと言われていたのにその約束を破ったことから、人間が一番最初に犯した罪だと言われている」

「あー。アダムとイヴの話のやつか。それが何で楽園なんだよ」

「エデンの園って、一般的に何となく楽園てイメージ付いてないか?」


 悠仁は目線を上げ、穏やかな森の木に美味しそうな果実がいっぱい成っていて、鳥などの動物たちが平和に暮らしているイメージを脳内に作り上げた。


「……そうかも。だから『幸福でいられる場所』も合致するのか」


 夏樹の解説に納得し、悠仁は三つ目の答えの《楽園》を書き込んだ。アダムとイヴは知っていたが、そんな専門的な知識がない自分ではこの答えを導けなかったと、夏樹に関心する。


「夏樹ってそういうの詳しいんだな。何で知ってるの?」

「何でって、別に。聖書読んだことがあって偶然知ってただけだよ。で、次はどんな文だ?」


 投げかけた素朴な疑問を何だかサラッとかわされた気がするが、早く謎のメモを解きたかったので次に移った。


「次が最後の四つ目。【生命の始め。遡行して辿り着く場所。聖書とは違う】」

「最初に生まれた生命じゃなくて、生命が生まれた場所か」

「人間は普通、母親から生まれてくる。『生まれた場所』だから、胎内?母親を指してるのか?」

「普通に考えるとそうだけど……でもこれは、『生命』と幅広い意味で捉えられる単語で書いてあって、人間だと特定してない」

「人間だけじゃなくて、動物も含まれてるってこと?でも、人間と動物は全く違う生き物だろ。母親から生まれるのは同じだけど、他に共通することって……」

「そのポイントが『聖書とは違う』ってとこじゃないか?」

「そういうことか。それじゃあ、『聖書とは違う』生命の始まりを考えてみればいいのかな」

「それで考えてみよう。因みに、アダムとイヴは神が作ったけど、他の生き物も神に作られたんだ」

「へぇ。聖書の中では、人間も動物も原点は同じなのか。神様ってめちゃくちゃ万能だな」

「創造主って言われるくらいだからな」


 神様が凄いのは今更なのでそれはさておき、アダムとイヴ以外の説で例えられる生命の起源を考えた。

 この世界には、宗教観や科学的見解から見出された生命の起源説が幾つも存在している。旧約聖書の「創世記」に記されたアダムとイヴの話は、生命誕生説の中でも有名な説の一つだ。この短文はそれとは違う、他の起源のどれかのことを指している。

 生命の始まり。遡行。時間を遡る……。

 悠仁は少し考えると、当て嵌まるものにピンときた。


「……そうか、わかった。生命の進化を逆に辿っていくと、海に辿り着く。生命が始まった場所は海だというのが通説だ。だから答えは海じゃないかな。夏樹はどう思う?」

「成る程。ちょっとシンプルな気がするけど、間違ってはなさそうだよな」


 夏樹も同意見だったので、四つ目の答えは《海》とした。取り敢えず、これで全ての答えが出たことになる。


「解けてよかったー。ありがとな夏樹」

「礼には及ばないって。もしお礼をくれるなら、甘いものを所望する」

「わかった。考えとく」


 時計を見ると昼休みがそろそろ終わりだった。午後の授業にも出る予定の夏樹は、先に戻って行った。

 夏樹がいてくれたおかげで、予想より早く解読が終わった。重要なミッションを手伝ってもらったので、スイーツビュッフェに連れて行かなければならなくなりそうだ。


 悠仁は夕方からバイトに行ったが、今日はミスも少なく仕事ができた。無事に賄いにはありつけたが、ジェンダーレス麻生には弄れないじゃないですかと揶揄された。遠慮なくけなしていい先輩だと見られているのかと思い、少し悲しくなった。




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