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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅴ
58/106

Ve




 ルシファー派閥の天使たちが離脱し、天界は一時期、混乱の中を彷徨った。その混乱を、カリスマとも言える存在の代わりに誰がまとめたかと言えば、それは明言するまでもない。

 遂行中だった善人と悪人の系譜を把握させる大命は、天界の混乱が収束するまで中止され、そのあと一旦取り消された。その代わりに、悪人には罰を与えよと度々下されたり、特に敬虔な人間には富を与えたり天界に招かせようとした。

 天界に招くのは贔屓だと断念されたが、議員の中には転変する神の意志に戸惑う者もいた。しかしアブディエルだけは、

「神も心をお持ちなのだ。人間を良き道へ導く為に難儀されることもある」

 と、ひたすらに従順だった。




 そして。ルシファーの堕天から、永い年月が経過した。善人と悪人の系譜を調査する作業が再開されることとなり、議会はその大命に尽くしていた。


 今日も統御議会議事堂には、会議の為に議員たちが集まっていた。メンツが少し変わり、補佐官だったザフキエルが辞めたあとに新たな者が席を埋めていた。

 かつてサンダルフォンが次期議員候補だったが、補佐官の役職に就いたのは彼ではなく、アブディエルの勤仕を務めていた力天使のメルキゼデクだった。中級位階の天使が議員になるのは異例だったが、神の側用人であるメタトロンから神の推薦だという言伝があり、アブディエルからも能力を買われて推薦された。一瞬首を傾げた議員たちだったが、二つのお墨付きがあるのなら従うまでと受け入れた。


「新たな大命ですか」

「『人間の存在価値を審査する。改心した人間を試験し、船出の時に備えよ』と賜った」

「船出とは?」

「……まさか」


 ミカエルは疑問形を口にしたがヨフィエルは察知し、彼の一言にアブディエルは一つ頷いて答える。


「神が英断される日が近い。計画を実行に移す可能性が出てきた」

「私たちの苦労が、ようやく実を結ぶのですね」

「本当に永い間、頑張ってくれたな。ヨフィエル」


 アブディエルからの労いにヨフィエルは感慨に浸り、目を瞑って首を横に振る。彼はこの瞬間の為に職務に励んでいるようなものだ。

 すると、ミカエルが疑問を呈する。


「だが、ずっと何も指示をされなかったのに、何故またそんな命を。物質界は落ち着いているじゃないか」

「しかしそれは、権天使がよく働いたおかげでしょう。彼らが人間の国王やらに助言をしたから、物質界は混沌から脱したのです。だから神は人間を試すのです。与えられた至治しちの中で、彼らの誓約がしかと生きているのかを」


 確かに現在の物質界の平和は、天使の働きによるものが大きかった。与えられた幸福と知らずにいる人間は、息をするのと同じように当たり前の今を生きている。この与えられた環境が()()()()になることを懸念してのことだろう。ミカエルもそれは周知しており、成る程と腕を組み、アブディエルの解釈を落とし込む。


「それで、我々は何をしたらよいのでしょうか?」


 おかっぱ頭と微笑みがまだこの場に馴染んでいないメルキゼデクは、ヨフィエルの横から聞いた。


「まずは、中断していた邪天使エンヴィルスの投入を再開する。調査の結果を元に人間を揺さぶり、対象の確定を始める」

「調査と今回の反応に違いが出た場合は、どう致しましょう」

「思想が遺伝されていることを考慮し、少しでも反応が見られれば対象とする。揺さぶっても変化が見られない場合もあるだろうが、継続してそれでも変化がなかった時は、不穏分子と見なし迷わず対象として構わない。悲願の為だ」


 全ては、神の願いの為に。新たな大命を成し遂げようと、議会は一団となる。

 議長のアブディエルは徐に立ち上がった。そして両腕を広げ、お得意の舞台役者調で場を締める。


「今こそが、我々の存在意義を果たす時。我々が、何より神が永年望んでいた美しい世界が生まれる日が、とうとう来る。それをこの手で導こうではないか!」





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