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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
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 そしてルシファーは、ずっと伏せていたその胸奥を明かし始めた。


「私は以前から、神への帰属意識が薄れている。気付いてしまったのだ。このまま神に従うだけでいいのかと。

 私たちは個として存在している。それでありながらその意思は器から乖離し、神の意向に委ねられている。神に仕えることが私たちの当然であり、日常であり、幸福だ。だが、いつからそうなったのだろう。一体誰がそう言い始めたのだろう。果たして私たちは、神に尽くし、従い続けるだけの存在でいいのだろうか。勿論、神のお考えは正しいのだと思う。だが私たちは、ただ大命を待ち、目の前に提示された課題を坦々とこなすだけ。これが本当に、私たちの幸福なのだろうか。

 使命という言葉は非常に都合がいい。そう言われれば自分は神から信用されている、必要とされていると思い込める。だから私たちは神に頼る。神に縋る。神に依存する。

 神の愛が人間に偏るのを恐怖し、依存性はこれからより増していくだろう。神の影響をより受けやすいアブディエルは、その片鱗だと思う。彼は以前から神の愛の在処を、愛が向けられる先を訴えていた。人間に注がれ続ける愛を自分たちの方に向けさせようと、愛されようと、一心に大命を遂行している。だが、アブディエルは満足していない。その欲望は徐々にエスカレートするだろう。そして、その依存はやがて天界を壊し、物質界を壊す」


 世界を壊すと聞かされて、三人は漠然と恐怖を覚える。壊すとは言葉の通り形をなくすことか、混沌とした状態にすることか。


「神への帰属意識の薄れによって、私は神から賜る大命の意図を考えるようになった。神が人間に求める正義、秩序、平等、隣人を愛すること。どの命令も人間を思い、物質界の安寧と存続の願いに繋がっていた。

 ところが、近頃の大命は少し意図が違うように思う。神は人間を寵愛している。なのに、人間を悪に育てる結果になっている。議会に一任したとは言え、これは神のご意志とは違う筈。けれど神は止めようとしない。こんな制裁が、人間を愛する神の意志通りだというのだろうか。現在の人間を見て、神は満足しているとでもいうのだろうか。

 私は、神が何をお考えなのかわからない。人間をどうしようとしているのか、僅かでも推し量ることができない。あれは本当に、神の意志通りなのだろうか。あれが神のご意向だというのなら、私は疑念を抱かざるを得ない」


 ルシファーは最後に、隠していた本懐を告白する。


「私は、神から独立する」

「独立!?」


 驚いたベリエルがおうむ返しする。ハビエルとベレティエルは絶句した。


「そうだ。かと言って、人間のように一国の王になりたい訳ではない。ただ、自分の意思で全てと関わりたい。天使とも、堕天使とも、人間とも。天界の常識や、既成概念に囚われない生き方をしてみたい」


 独立するということは、神の庇護下から外れるということ。つまり、「天使」という枠から逸脱することになる。罪を犯したと認められなければ「堕天使」にもならない。

 天使でも堕天使でもない存在───「ルシファー」というただ一つの存在になる。


「……それはもう、決められたことなのですか?」

「私の意志は固まっている」


 ベレティエルの問いにもはっきりと答えた。

 だから議会の意志に反して、実験を探ることに迷いはなかったのだ。ルシファーはこれが独立の契機だと感じた。この契機を逃せば、独立できる機会はないと。その時は潔く堕天しかないと。

 ハビエルは愕然とする。ルシファーは既に、堕天と等しいことを考えていた。ならば、いくら危険だやめろと言っても首を横に振る筈だと合点がいった。


「これが、私の本懐だ」


 ハビエルたちは沈黙する。

 明らかとなったルシファーの願望。耳を疑い、これは夢か幻聴かと三人は同じことを考えた。しかし眼前には、本懐を告げたばかりのルシファーが、揺るぎない意志を金と赤の瞳に宿してそこにいる。眼差しが、夢でも幻聴でもないと言っている。

 三人はルシファーの意志を受け止めて、僅かな時間の中で自分の所感を構築していった。


「………何考えてるのさ」


 一番に口を開いたのは、べリエルだった。




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