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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
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19




 報告を終えたラジエルは帰り、アスタロトもいつの間にかいなくなっていた。ハビエルの前に現れた時といい、謎に溢れた神出鬼没の人物だ。

 帰って来たベリエルに突然の休暇の理由を聞くと、ちょっと嫌なことがあって一人になって考えたいことがあったと答えるまでに留まった。ルシファーが自分に愛想が尽きていないかと聞くと、だったら戻って来てないと呆れながら言った。そして、愛想を尽かせたと思う心当たりがあるんだったら意識を改めてと付け加えられた。

 それから、不在中の出来事を報告すると、逃亡中の大罪人のアザエルを屋敷内に入れたことを暴言を織り交ぜて大いに叱責された。勤仕の務めが果たせなかったハビエルは職務怠慢だととばっちりを受け、ベレティエルはルシファーに放たれた暴言に困惑した。

 ハビエルとルシファーは一緒になって反省した。そして、いつものべリエルが帰って来たことに胸を撫で下ろした。

 ひとしきり怒ったべリエルには、ハーブティー三杯で何とか落ち着いてもらった。これで、志を同じくするメンバーが揃った。一同は応接室のテーブルを囲み、今後の方針の話し合いを始める。


「で。これからどう動く?アブディエル様の実験が、物質界の未来に何かしらの影響を与えることはわかった。でも実験は既に動いてる。止めたとしても、完全に影響を留めることはできない。でも最小限に抑えることはできるかもしれない」

「しかし、止められるのでしょうか。そもそも私たちには、その為の手段がありません」

「そう。証拠がない。情報は無名の密書と予言だ。だが密書は根拠がなく、証拠としての力はない。ならば予言を出したいところだが、未来を聞いたなどと言ってしまえば逆にこちらが裁かれてしまう危険がある」

「止めるどころか、遊ばせることになるよ」

「多くが堕天した件も、何か繋がっていそうですが」

「グリゴリの件もね。そこが実験と関係があるのかどうかがわかれば……」

「規模が大きい実験だから慎重に調査を進めようと思っていたが、悠長に構えていることもできなくなってきた。アブディエルに、こちらの動きを知られている恐れもある。今ある情報で告発ができるだろうか……」


 話し合うルシファーたち三人の口が一斉に閉じられる。目撃証言や物的証拠はあるが、アブディエルに提示したところで言い逃れをされてしまう程度の証拠だ。一番大事な、一撃必殺の証拠が欠けているのだから。

 すると、黙っていたハビエルが口を開く。


「……あの。ルシファー様に聞きたいことがあるんですが、いいですか」


 沈黙していた三人の視線がハビエルに向けられる。ベリエルは、また何を言うつもりだと言わんとする表情だ。


「何だい?」

「以前も後悔していましたが、止めたいなら議会を辞める必要はなかったんじゃないでしょうか。議長だった時に、何かやっていたのは気付いてたんですよね。あのまま議長を務めていた方が調査もしやすくて、権力で押さえ込むなりどうにかできたんじゃないでしょうか。ルシファー様なら上手くコントロールできた筈です」

「それはそうだけど。今更そんなこと言ってもしょうがないでしょ」

「本気で止めたいなら、今からでも議会に復帰すればいいじゃないですか。プライド云々はこの際捨てて、回りくどいやり方でなく直接的な方が最短で解決できます。それもわかっていらっしゃいますよね?」

「ねえ君さぁ。自分の身分わかってるの?」


 ベリエルは諭そうとするが、ハビエルの意見に同意するベレティエルが続けて発言する。


「失礼ながら私も、ハビエルの主張はもっともだと思います。内部から対処した方が、より早く適切に行えたように思えてなりません。議会にお戻りになられた方が得策かと存じます。色々と善後策を講じる必要もあると見受けられますし、ルシファー様の手腕が必要不可欠では」

「ちょっと。ベレティエルまで」

「それに、最高機関に背いてまで暴きたい理由は何ですか。そこには見過ごせないだけじゃなくて、本当の理由があるんじゃないかと俺は思うんです。議会に対する疑念の他に何かあるなら、俺たちにも教えてもらえませんか。ルシファー様の胸奥を」


 最善の方法には目もくれず、正義の下に堕天の危険を犯してまで議会の意向に反し、幾度もの説得を断ってきたその意思には、根本の理由があるのではとハビエルは思った。

 覚悟はあると言っても堕天は天使にとって不名誉であり、堕ちたら二度と天界には戻って来られない。どんな身分の天使でも、絶対にしたくないと思うのが普通だ。しかも、天使の長であるルシファーが堕天することになれば、天界全体に多大なる影響を及ぼす。自身の影響力を自覚していない筈がないルシファーが、何故そこまで考えられるのか。


「ルシファー。あるの?」


 ベリエルからも問われる。ハビエルの考えを鵜呑みにする訳ではないし、本当の理由を知ったところで付いて行くに変わりないが、もしあるのなら聞きたいと思った。

 三人はルシファーに希求の眼差しを向ける。回答を求められたルシファーは腕を組んで暫く目を瞑った。

 沈黙ののちに目蓋を持ち上げたルシファーは、口を開く。


「……わかった。話そう」




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