表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
44/106

17




 さて。この同志からの情報だが、事実確認が必要だとルシファーは判断した。本当に多数の天使が堕天しているのであれば、その事実を公表する義務を議会は怠ったことになる。

 その調査協力を、議会書記のラジエルに頼むことにした。内部の者に協力を乞うのは危険ではないかとハビエルは懸念したが、ルシファーはラジエルは安全だと知っている。

 ラジエルは昔から、誰かに肩入れをしたり媚を売ることがない。常に持っているラジエルの書(セファー・ラジエル)に天界のあちこちに落ちている噂話のあれやこれやを集めているから、誰に従う方が正しいなど見極められているのだ。ルシファーにも媚を売ることはなかったが、確かな信頼関係を築けていたと確信している。

 実験に関しての情報を探ってもらおうかと一度検討したことはあるが、期待は希薄なことと彼への危険性の観点から断念した。だから協力を乞うのは今回だけにした。

 協力依頼の書状を出すと快諾の回答が折り返し来て、すぐに調査をしてくれるとのことだった。やはり頼りにできると、期待して調査結果を待った。

 ところが数日後。調査結果の書状が来る代わりに、ラジエル本人がルシファーの別邸を訪れた。


「突然の訪問、申し訳ございません」

「いや、大丈夫だ。どうしたのだ」

「ご依頼の件の報告に参りました」


 ラジエルは、持っていた資料の束を応接室のテーブルに広げた。ルシファー、ハビエル、そしてベレティエルが資料を見下ろす。

 ベレティエルは考えた末に、本来の職務に就きつつルシファーに協力することを選んだ。この日はそれを伝えに来ていた。


「裁判記録を調べましたが、最近の記録は一切ありませんでした」

「何だって?」

「その上、堕天の判決を受けた筈のグリゴリの刑執行の記録も存在していません」


 ラジエルが持って来た議会の告訴状や公安部の調書の束の中に、ここ数ヶ月の裁判記録が記されたものが一人分すらない。グリゴリの方も二百人分の名簿はあるが、これも記録が一切存在していなかった。


「グリゴリの方には心当たりがある。研究施設に連れて行かれるグリゴリを目撃した者がいる」

「それは初耳です」


 議会に所属する書記のラジエルはそれを知らなかった。と言うことは会議で決められた移動ではなく、アブディエルが裏で独自に事を進めているということになる。


「しかしルシファー様。何故調べろと仰ったのですか?」


 聞いてきたラジエルに、ルシファーは例の密書を見せた。情報漏洩の一歩手前の内容に目を通したラジエルは、鼻眼鏡をクイッと上げ眉頭を寄せる。


「こんなものが……」

「議会の内情を知る者が送って来ているのだと思うんだが、ラジエルではないんだな」

「オレではありません。書記のオレなんて蚊帳の外同様ですから」

「じゃあ一体誰が……」

「それから」


 考えようとしたハビエルだが、ラジエルが他にも報告したいことがあるという言葉に気を逸らされ、耳を傾けた。


「オレが管理しているヤダティ・アサフに映った物質界の未来のことで、気になることが」


 ヤダティ・アサフとは、物質界の歴史を保存するクリスタル型の記憶媒体だ。過去の出来事の記憶や、予言能力を持つ天使が未来に起きることを読み取ると、それが自動的に提供され保存されるシステムとなっている。守秘レベルは最高基準なので、漏洩させない為に施設の管理はラジエル一人に任されている。

 気になることを説明しようとするラジエルだが、難しい顔をする。


「うまく説明できないのですが……何と言うか、現在の状況とは違い、不自然というか。異質のような感じで」

「異質?」

「時代としては、恐らく遥か未来を予言したものだと思います。人間同士の武力衝突がなくなり、豊かになった物質界に明らかな文明の進化が見受けられました。人間も様々な生業をしながら普通に生活しているのですが……違和感を覚えるのです」


 話を聞いたハビエルは、自分がいる時代に近いのではと思った。しかし自分が生活をしていて、ラジエルが言うような違和感の類いには特に心当たりはない。既に過ぎ去った、生まれる前のことを言っているなら話は別だが、学校の社会科の授業を思い返してみても不自然な歴史の転換はなかった。現代も、違和感がある世界とは考えられない。


「すみません。漠然としか説明できなくて」

「いや。おかげで一つ繋がりそうだ」


 密書の『永続されれば、人間の未来に影響を与えるだろう』という文言が、その予言に関連しそうなことだと推測できた。

 果たしてどう関連するのだろうか。人間に悪影響が及ぼされ続けるのだろうか。異質や違和感はその結果なのだろうか。いずれにせよ、実験を止める必要性が明白になってきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ