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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
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「ヨフィエル。権天使プリンシパリティーズに協力を要請し、ザフキエルと共に調査と情報整理を頼む」

「畏まりました。では、戒めの方はどう致しましょう?」


 ヨフィエルは問う。完遂したかと思われた人間への戒めは、アブディエルの独断で規模を縮小して密かに続けられていた。


「あちらには私が責任者として関与しておりますので、両方となりますと私の手が回るかどうか。もし並行されるおつもりでしたら責任者の私はあちらに専念し、本件はザフキエルに任せるというのはいかがでしょう」


 掛け持ちが難しいのを理由に、担当を外れたいと進言した。するとミカエルが提案する。


「戒めの方はもういいんじゃないか?人間の様子を見て神も別の大命を下されているんだろうし、成果は十分だと見て切り上げていいと思うが」


 新たな大命の優先を考えたミカエルは、切り上げを推奨する。大掛かりで労力が必要な今回はザフキエルだけに進行を任せるよりも、人手を増やして進行した方が効率的だ。しかし、ヨフィエルは真っ向から反対する。


「甘いですミカエル様。人間を甘く見ていらっしゃる。私たちが戒めているから人間は学ぶのです。指導者の私たちが甘やかしてしまえば、人間は行く道を見失います」


 ミカエルに対抗するヨフィエルは強く主張する。上級のミカエルに食ってかかるヨフィエルを見るザフキエルは、また面倒なことになっていると嫌気が差しそうになる。


「だが、人間もバカではない。あの戒めで学んでいる筈だ。少し刺激が強過ぎではあったが、そのおかげで成果は得られている。もう十分だろ」

「いいえ。戒めは続けるべきです。この戒めは抑止力にもなり得ます。愚かな人間には、このくらいの圧力が必要なのです」

「間違えるなヨフィエル。オレたちは人間を管理している訳じゃない。強力な抑止力や圧力は、反発を生み出す原因となる。あの結果を見て、オレたちの戒めの力は危険を孕んでいると感じなかったのか。本当に正しいものか疑わなかったのか」


 ミカエルは正当な意見を言ったつもりだが、ヨフィエルは無礼にも鼻で笑った。


「やはり元・七大天使アーク・シェヴァですね。正しい判別ができないのは、怠惰生活を送っていた所為で脳みそが溶けていらっしゃるのでは?」

「言うじゃないかヨフィエル。なら、アブディエルに決めてもらおう」


 二人はアブディエルの左右から同時に視線を向ける。厄介な視線に挟み込まれたアブディエルは、考えるまでもなく右のミカエルの方へ顔を向けた。


「全ての大命遂行は我々に一任されていますので、戒めの方もこのまま継続しようと思います。以前よりも水準を下げて継続をしていますので、大きな問題は起きないかと。それに、今回の大命の役にも立つかもしれません」


 しかし遂行するには人手がいるので、できるだけ手を貸してほしいとヨフィエルに言った。アブディエルからの要請に、ヨフィエルは素直に首を縦に振った。

 いささか不満は残ったが、議長の意向にミカエルは了解した。アブディエルの意向に自分の考えが同調していたヨフィエルは、勝手にミカエルを負かしたと思って満足げな表情をした。その横でザフキエルは溜め息を吐いた。


 会議後。アブディエルとヨフィエルは議長室に集まった。ミカエルが呼び出されなかったことで、ヨフィエルは機嫌が良さそうだ。


「アブディエル様。()()の投入頻度はどう致しましょう?」

「そうだな。現在の割合から五〇%に下げてくれ。材料のストックは今どのくらいある?」

「物質界が現在あの状況ですので、必要量は十分にあります。割合を下げるのでしたら、新規製造は宜しいでしょうか」

「そうだな。張り切って若干作り過ぎたのは否めないしな。新規製造はしなくていい。代わりに、余ったものは調整をして予備として待機させておいてくれ」

「畏まりました……あの、アブディエル様。実験のことはミカエル様にはまだ?」

「話していない。賛同されるかはわからないからな。もう暫く明かさないつもりだ」

「そうですね。あの方も一応力がありますから、反対されれば中断させられてしまうかもしれませんし。私も賛成でございます」


 特別顧問でありながら、ミカエルがアブディエルと秘密を共有していないことにヨフィエルは満足していた。そのうち肩書きが名ばかりとなり用済みとなって、この聖域から出て行かないかとまで期待している。


 議長室の外で、そのハブられているミカエルが佇んでいた。そこへ、議事録保管室から戻るラジエルが通りかかった。


「ミカエル様。どうされました?」

「アブディエルに用があったんだけど、話がまだ終わらないみたいでさ」

「声をかけたら宜しいのでは」

「いや。そこまで急用って訳じゃないし。また今度にするよ」


 じゃあ、と手をひらひらさせてミカエルは去って行く。ラジエルはその背中を見送ろうとしたが、思い切って呼び止めた。


「ミカエル様!……あの。お話ししたいことが」




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