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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
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 混沌の時代に足を踏み入れた物質界を救うべく、かの大命を遂行していた議会だったが、悪の元凶の人間の特定ができずにいた。種を蒔いたのはグリゴリなのだから人間の中から元凶を決めるのはどうなのか、という意見がミカエルから上がり、それから議論を続けていた。

 しかし、進行が滞っているにも関わらず、神からはまた新たな大命が下された。


「『以後の物質界を良くする為に、善人と悪人を把握させよ』と命を頂いた。これから、特定の人間の系統を過去から未来にかけて調べ上げる」

「先の大命がまだ完了しておりませんが」

「あれは後回しにする。神も承諾されている」

「特定の人間とは?」


 アブディエルの隣に座る、特別顧問のミカエルが聞く。


「一国の王や、革命を遂げた者、虐殺者や軍を率いた統率者を選定する。その人間の系統を過去まで遡り、同じ部類の遺伝子が受け継がれているのか、そしてその遺伝子が未来に受け継がれる確率を調べる」


 聞いたミカエル、ヨフィエル、ザフキエルの三人は戸惑いの表情を見せた。


「それが、今回の大命だというのですか?」

「先の大命とだいぶ内容が違うが、神は再び翻意されたのか?」

「失礼ながら、私も同じことを思いました」


 三人と同様に、他の議員たちも引っかかりは感じた。下される大命には、毎回何かしらの繋がりがある。罰を与えろという大命とどう繋がっているのか、疑問に思っているようだ。


「勿論、従うのは当然なので尽力させて頂きますが……」

「まぁ、そう疑問に思うのも仕方ない。だが、どちらも託宣の間で賜った大命に間違いない」

「では、どういった意図があるのですか」

「神は、別の方法で物質界を良くされようとしているのだ」


 思し召しを聞いたアブディエルは、議員たちに今回の大命の意図を説明する。


「神は、あの大命の遂行の中でもまともな人間がいるのを知り、物質界には良い人間だけがいる方がいいのではとお考えになったのだ。その為には、良い人間と悪い人間に仕分ける必要がある」

「その為に、系統を調べるのですか」

「神はこうお考えになったのだと思う。善と悪には遺伝的要因が関係すると。善には善の系譜があり、悪には悪の系譜がある。そして善には悪に対する耐性があり、それが優れている人間の場合は、正義や求心力などへと変換されていると推考されたのだ」

「悪の系譜を追うのは?」

「悪の遺伝子が濃厚であれば、子孫が先祖に同調し同じことを繰り返す可能性に思い及ばれたのだ。受け継がれているのであれば、断ち切る必要があると」

「成る程。それらがわかれば、統率力を発揮した善意ある人間が規律と品行を守るよう他の人間を指導し、世を乱す悪は管理される。やがて悪は消え去り、物質界は神の理想の世界となる。そういうことか」


『不品行になった人間を戒めよ』中で新たに発生した悪の遺伝性・継続性を調べる意味もあるのだろう。ミカエルが意図の結論を述べると、ヨフィエルは内容に納得して首肯した。しかしザフキエルは、僅かに難色を示す。


「反対する訳ではありませんが、もしそれが実現可能だとしても、継続してこそ結果が得られる故に途方もない時間がかかりますよ」

「ザフキエルの言う通り、直近を調べただけでは正確な調査結果は得られない。故に、かなり長期的な計画になる。だが実現できれば、我々が恐れる事態から回避させられる。勿論、人間にとっても願ってもないことだ」


 悪が物質界を乱しているのならば、その悪を排除するべきと考えるのは至極当たり前だが、その反面、非常に難しくもある。

 長い歴史の中で、根絶を目指してもできなかったのが悪の存在だ。しかし、ただ悪を排除するだけでいいのだろうか。

 何故、善と悪は相反するのか。そして、排除できた後も秩序を守る為に、悪はこの世に最も不必要なものであると()()()納得できる理由を示すことが必要だ。悪が生まれる原理を解明できなければ、根絶は難しいだろう。しかし、それを遂行するのが議会の役目だ。




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