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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
37/106

10




 第七天アラボト。ここは神の玉座がある、天界の最上層。ごく限られた者しか足を踏み入れることが許されない、この世の中に存在する究極の聖域だ。

 どんな世界が広がっているかは、入った者にしか知り得ない。それは、まるで秘密を守るかのようにオーロラのような巨大なカーテンがほぼ全てを遮っているからだ。カーテンは途切れることなくどこまでも続き、聖域を汚されんとばかりにアラボトを囲んでいる。

 その真の聖域の手前には清流が流れ、神に近付ける唯一の木製の橋がかけられている。その川岸に腰かけ、足を川に浸している者がいた。


「いいなぁ。わたしは主に罪人が相手だから、もっと気分が上がることをしたいよ」


 彼は第五天マティの牢獄の管理者、大天使サンダルフォン。カーテンの向こう側にいる姿の見えない相手と話していた。


「全くない訳がないだろう。この前は、マコノムの大草原で大の字になって寝転がって気持ちよかったと言ってただろ」

「開放的で気持ちよかったよ。メタトロンも、今度一緒に行く?」


 サンダルフォンの話し相手をするメタトロンは、できるならとっくにその橋を渡っていると言った。

 メタトロンは神の側用人だ。常にカーテンの内側にいて、アラボトから出ることはない。サンダルフォンとは、何気ない日常会話をするくらい気心の知れた間柄だ。


「そう言えば。聞いてくれよメタトロン。前に、ちょっとおかしなことがあったんだ」

「何だ。罪人が賄賂を使って、早く出してくれとでも言ったのか?」

「そんなことじゃないよ。捕まえられたグリゴリがいただろ?一度はマティに収容していたんだけど、突然公安部の人たちが来て、自分たちが管理すると言って全員連れて行ってしまったんだ。二百人いたから、こっちも管理しきれなくて困ってたからいいんだけど」

「聞いたぞ。一度、脱走騒ぎになったそうじゃないか」

「そうなんだよ。気付いた時には半数近くがいなくなってて。おかげで議会から怒られたよ」


 事態が落ち着いてから、責任者としての自覚とそもそもの責任感が足りないのでは?とヨフィエルからねちねち言われたことを思い出して、サンダルフォンは深い溜め息を漏らす。他人事のメタトロンは笑った。


「災難だったな」

「大罪を犯してるんだから、監視役で公安部から何人か来てくれてもよかったと思うんだけどね。で。公安部が連れて行った時なんだけど、何故かシェハキムの研究施設の職員もいたんだ」

「あそこの研究員が?」

「そう。それに、公安部は裁判所の移送許可書を持ってなくて、議会の意向だと言っていたし。まぁそんなこともあるのかなと思って、そのまま引き渡したんだけど。何で研究施設の職員までいたのか、気になってしまうんだ。だって、刑の執行に全く関係ないだろ?」

「そうだな。理由はわからないが、議長から帯同しろと言われたんじゃないか?気になるだろうが、お前はもう関係ないのだからあまり詮索するな」

「わかってるよ。だけど、メタトロンはその辺の事情は知らないの?」

「神が知っていることなら、私も知っていることもあるだろう。だが、必要なことしか私は“下”に伝えない」

「それって知ってるってこと?知ってても教えてくれないんだ?」


 メタトロンは無言で答える。どうやら知っていることはありそうだが、カーテン越しに伝わる雰囲気から教える気はなさそうだった。

 周知させる必要性がない不要な情報だと判断されれば、それは下ろされることはない。グリゴリの刑は執行したと公表された筈が研究施設に連行されていたその理由を知っていても、立場的な義務から黙秘した。


「カーテンの中では、情報公開の制限が議会以上なんだね。わかったよ。情報の重要性は関係なく、わたしたちに公開される情報は精査されている、ということだと理解しておくよ」

「助かる」


 サンダルフォンは川から足を上げ、立ち上がる。二人の交流時間は制限されている。


「ねえ。そっちは快適?神の側にいられて幸せかい?」

「勿論だ」

「いいなぁ。マティは華やかさに欠けるから、神に遣えてるメタトロンが羨ましいよ」

「神のご意向に不満でも?御前だぞ」

「そちらにいらっしゃるの?」

「当たり前だろう。こちらで全てを見聞きしていらっしゃるのだ」


 そんなことを言われても、サンダルフォンは実感がない。過去に一度だけ玉音を聞いたことがあるだけで、それ以降接触はない。それに、とてつもない神のオーラはカーテンで遮られていて、存在を感じることさえできない。しかしこのカーテンがなければ、メタトロン以外は神のオーラに圧倒されこの場に立っていられなくなる。


「そのお姿を、一度でもいいから拝謁させて頂きたいなぁ。どうしたら叶うのかな」

「お前のやるべきことを果たせ。神は人間を見るように我々も見る。奉仕し随順すれば見放すことはない。そうすれば、その希望もいつか叶うだろう」




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