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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
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7




「そこで仲間を助けようとしなかったのか?」

「助けようと思いましたよ。結局できませんでしたけど、その為に隙きを見て逃走したんです。僕は、シェムハザに会わなければならなかったから」

「何の為に?」

「シェムハザに巻き込んだことを謝りたいんです」


 罪を重ねてもそうしようとした理由を、アザエルは話した。

 シェムハザは、アザエルの良き友だった。彼は、神に贔屓される人間があまり好きではないアザエルに、人間のいいところや面白いところを教えた。神の命令を無視し人間の娘たちと交わろうとした時も、ただ一人止めようとした。シェムハザ自身も人間の娘に恋心を抱いていたが、頑なに交わらず、アザエルたちが行き過ぎた行動をしないように注意していた。


「あの時シェムハザは僕たちを止めようとしていたのに、それを聞かなかった軽率な僕たちは罪を犯した。でもシェムハザは、自分だけ罪から逃れることをせず、僕たちに付き合って刑を受けた。僕たちが巻き込んだようなものなんです」


 罪を犯して捕縛された仲間を見捨てることなく、シェムハザも共に捕まった。自分は罪は犯していないと、声を大にして言えたのに。友は、仲間と共に罪を被ることでリーダーの責務を果たしたのだ。


「シェムハザは無罪だ。もし罪に問うのだとしたら、罰は軽くするべきだ。僕は事実を裁判所に伝え、再審を求めたかった。せめてシェムハザだけでも助けたかった」


 訴えるアザエルは唇を噛んだ。

 大変な仕事を押し付けられたり、一度頼まれごとを安請け合いしたら便利屋と勘違いされたり、よく貧乏くじを引くシェムハザだったが、彼はいつも困りながら笑っていた。アザエルが何で断らないのか聞くと、「どんな役回りでも、例え自分に不向きかもしれないことでも、この先何があっても生きる糧になる気がするから」と言った。

 それまでは不憫な奴だとアザエルは思っていたが、シェムハザはわざと貧乏くじを引きにいっていたのだと、その時始めて知った。ただ楽観的に生きている自分が恥ずかしくなった。


「シェムハザは天界にいた方がいい。きっとこの先、必要とされるんです。生きる糧になるようなたくさんのものを積んできたんだから……ルシファー様。貴方の権力ちからで、どうにかできませんか!シェムハザを助けられませんか!」


 友を巻き込んだ後悔はひしひしと伝わってきた。本当に助けたいことも。ここにいる全員にそれは伝わった。特に、ハビエルの心には痛く刺さった。


「アザエル……」


 ルシファーはアザエルに、自分ができることを眼差しで伝えた。

 何もできないことしかできないことを伝えた。

 仲間の罪は、全体を指揮していた者が最も背負うのが道理。シェムハザに次いで責任ある立場なら、その職責はアザエルも理解している筈だ。それに、どちらにしろ手遅れだ。

 ルシファーの表情から心を読み取ったアザエルは、無念とする面持ちでまた唇を噛んだ。


「……しかし何故、目撃したことを私に?誰かに会えば、突き出されるリスクを考えなかった訳ではないだろう。以前の私は、正しさに重きを置く立場だった。現議長か公安部に報告すると考えなかったのか」

「正しい人だと思ったからです。罪人の僕の話でも、正しさと逆の可能性を秘めている話なら聞いてくれるかもしれないと。勿論、捕まる覚悟もなくここには来てません」


 逃走中の罪人が堂々と姿を現すなど自殺行為でしかないのに、アザエルはそんなリスクを犯すことを恐れずここに来た。常識では考えられないアザエルのこの行動は、友のシェムハザに対する償いとしているのだろう。


「君が見たことは私も引っかかる。一応気に留めておこう」


 ルシファーは、自分たちが調べていることは言わなかった。不用意に不確定情報を漏らせば、仲間がアブディエルの実験に関わっている可能性を示唆してしまうことになる。そうすればアザエルは、無謀な行動に出かねない。既に判決が下されている身だが、罪に罪を重ねることはないだろうと告げなかった。

 アザエルはお礼を言うと、ベッドから下りようとする。


「どうした」

「話はできたので行きます」

「怪我をしているだろう」

「これ以上居続けたら、ルシファー様にご迷惑がかかります。手当てして頂いてありがとうございました」


 アザエルは会釈をして出て行った。誰も引き止めたり、見送りに行ったりはしなかった。

 アザエルが大人しく出て行き、ハビエルは内心安心した。べリエルに自分の分もちゃんと仕事をしてくれと言われていたので、同情したルシファーが協力したいと言い出さなくてよかったと思った。ルシファーが常識人で何よりだ。帰って来たべリエルから槍を飛ばされなくてすむ。




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