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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
33/106

6




 ベレティエルの話が一区切りした時。ドアがノックされ、怪我人を看ていたハビエルが入って来た。


「失礼致します。目を覚ましました」


 怪我人の意識が戻ったらしい。話を聞く為に、ベレティエルも一緒に怪我人がいる客室へと向かった。

 部屋に入ると彼はまだ横になっていて、ルシファーに気付くと上半身を起こそうとした。しかし、肩から背中にかけて負っていた怪我の痛みで顔を歪めたので、ハビエルが駆け寄り、起き上がろうとする身体を支えた。

 ルシファーはベッド脇にある椅子に腰掛ける。と、すぐに彼の首にタトゥーがあるのを確認した。


「大丈夫か?傷が痛むだろう」

「いいえ。平気です」

「では、目覚めて早々申し訳ないが、幾つか質問していいか?」


 聞かれた彼は無言で頷いた。その表情は固く、凛々しい眉を寄せてできた僅かな皺は、傷の痛みからくるものではなさそうだった。


「名前は?」

「アザエルと言います」

「アザエル……って。ルシファー様」


 ハビエルはアザエルの正体に気付いた。勿論ベレティエルも。

 アザエルは、物質界に大洪水を起こさせる原因となったグリゴリの統率者だ。物質界から天界へ移送中に逃走を図り、公安部が必死になって捜していた人物だ。

 しかし、だいぶ前に公安部によって確保され、仲間と共に処刑をされた筈。なのに何故か、アザエルと名乗る人物が三人の目の前にいる。

 ハビエルはベレティエルと顔を見合わせた。しかしルシファーは、アザエルが目の前にいることに何の疑問もないかのように冷静でいる。


「グリゴリの統率者で間違いないな」

「はい。二百人の仲間と共に物質界に降り、人間の娘と交わり、様々な知恵を与えました」

「何故こんな所で倒れていたのだ」

「公安部から逃げている途中に矢を受けて負傷しました。ですが何とか逃げ果せ、地を這ってでもルシファー様に会いたいと思ってやって来たのですが、いつの間にか意識を失っていました」

「あの。ルシファー様」


 怪訝な表情のハビエルは側に寄り、腰を折って小声で話しかける。


「これは、どういうことなのでしょうか」

「私にもわからない。情報と真実が違うということ以外は」

「それに大罪人ですよ。こんな腰を落ち着けて話をする相手では……」

「それはわかっている。少し私に時間をくれ」


 ルシファーは最初に罪人の証である首のタトゥーを見て、彼がアザエルだとすぐにわかった。だから、処刑されたと公式文書で知らされた筈の人物が何故ここにいるのかを探る為に、話すつもりでいたようだ。


「何故、逃走など無茶なことをした。そんなことをすれば、刑執行の猶予など与えられないのだぞ」

「自分に猶予なんかないって最初からわかってます。それなら何をしようが同じなんで、仲間を助けに行こうと思いました」

「だが、マティの牢獄には誰もいなかった。処刑場に移動した後だったんだろう」


 ところがアザエルは、夕日色の髪を揺らしながら「いいえ」と首を横に振った。


「僕も判決は知っていました。でも仲間は、まだ堕天していませんでした。僕は見たんです」

「何を見た」

「シェハキムに潜伏していた時、公安部によって何処かへ連行されて行く仲間たちを見たんです」

「シェハキムで?」


 ルシファーの眉根がぐっと寄せられる。ハビエルとベレティエルも、あり得ない事実に驚いた。

 グリゴリの刑は執行されたと確かに公示された。もしアザエルの証言が本当なら、事実と一致しないことになる。

 まさか、あれは嘘だったのだろうか。それとも、不測の事態で執行が延期されたのだろうか。しかも、罪人を収監する牢獄は第五天マティにしかない。公安本部の地下にも一時的に拘束する牢はあるが、シェハキムに連れて行く理由は全くない筈だ。それとも、グリゴリに何かしらの処置を施してから刑を執行したのだろうか。

 約二百人も何故そんな所へ連れて行ったのか、ルシファーの眉間に皺が深く刻まれる。




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