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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅲ
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「……ザフキエルが、言ってた。アブディエルが、新しい実験を始めたって。あの人には、付いて行けないって」

「その新しい実験というのは?」

「アブディエルはずっと前から、ナハロフト・ベラハを流れる魂から、少しずつ負の感情を集めてた」


 ナハロフト・ベラハとは、天界の第一層から神のいる最上層にかけて繋がる、滝のような道のことだ。死んだ人間の魂はその道を上り、辿り着いた最上層で神に生まれ変わり先を決められる。アブディエルはそこを流れる魂から、怒りや憎しみ妬みなどの感情を集めていたと言う。


「何の目的で?」

「研究の為だって、言ってた。人間の負の感情を研究すれば、それによる人間同士や、歴史への影響、影響が出ない為に感情を抑制する方法がわかる、かもしれないって」

「グリゴリの件もあったから、力を入れてたんでしょうね」

「でも、神の命令で、人間にお仕置きしなきゃならなくなって、方法を考えて、集めた負の感情を使うことを思い付いたんだって。ザフキエルは、天使がやることじゃないって怒ってた」


 ウリエルは最後まで花を見て話し、二人とは一切目を合わさなかった。話し方もおっとりとして単調なので、議会に所属している者としてどう思っているかは窺えない。


「アブディエル様はそんなことを……」

「それをどうやって使ったんでしょう。形のないものだから、そのままじゃ使えないですし」

「そのままじゃ使えないって、それってつまり、形にしたら使えるって言うの?」

「そうじゃないです。そもそも、形にできるものじゃないですし」


 ウリエルから重要な手懸かりを聞いたハビエルとベリエル。今度は二人がウリエルを無視して、議論を始める。


「と言うか。人間の魂から抜き取ったものを人間に使って、そんなに効果はあるものなの?」

「……ないとは言えないと思います。例えば、人間の魂に元から負の感情がプログラムされていて、ほぼ眠っていた状態の負の感情があったとします。それに外部から刺激を与えて、活性化させる。すると、同じ信号を受信した眠っていた負の感情は眠りから覚めて、活動を始めるんです」


 聞き慣れない単語が出てきて、ベリエルは小首を傾げる。


「……それってどういうこと?」

「簡単に言えば、誘惑です」

「じゃあ始めからそう言ってよ」

「すみません……それで、活動を始めていた負の感情なら、外部からの刺激を受けやすくなっていると思います。だからちょっと突いただけでも、状態によっては暴れ回る程になるんじゃないかと」

「だから争いが増えたのも不思議じゃないという、君の考えなんだね」

「あくまでも素人の推測ですが」


 方法までは推測できないし心理学に精通している訳でもないので、本当に素人の想像に留まってしまうが、「たがが外れる」という言葉のようになってしまったのではと思った。

 ベリエルは腕を抱き、珍しくハビエルに感嘆する。


「へぇ。そんなことまで考えられるんだ。君って案外凄いね」

「いいえ。そんなことは」

「そんなに人間に詳しいってことは、」


 言葉の脈絡を想像してハビエルはギクリとする。心臓も急に激しく脈打つ。


「アブディエル様と一緒に、研究してるんじゃないの?」

「し、してませんよ。そしたら俺、スパイじゃないですか」


 人間なんじゃないかと言われると思っていたので安堵する。目の前にいるのが人間だなんて、流石にそこまでは考えられないだろう。スパイ容疑もそれはそれで厄介だが、ベリエルからの嫌がらせはもう慣れっこなのでハビエルは気にしなかった。

 二人は、情報を提供してくれたウリエルにお礼を言おうとした。ところが、そこにウリエルの姿はなかった。目の前にいたのに、いつの間にかいなくなっていたことに二人共気付かなかった。

 花がウリエルに生まれ変わったという都市伝説を思い出す。あれは、本当なのだろうか。ウリエルがいなくなったことに気付かなかったのは……。

 二人は顔を合わせると、可憐に咲く花々を見つめた。




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