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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅲ
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「ボクは君が考えてることがわからないよ。同意して調べてるのに、突然関わらない方がいいなんて言って。アブディエル様の次に厄介だ」

「すみません」


 シェハキムの片隅を歩きながら、ハビエルはベリエルに小言を言われた。自分でも、行動と発言が矛盾しているのはいかがなものかと自覚している。

 優先したいのはルシファーの願いの方だが、アブディエルの実験も気にかかり放っておけないと思うのも正直なところだった。しかし、身内に疑念を抱かせてしまっては、ハビエルまで極秘調査をされてしまいそうだ。


「そう言えば君さぁ。また人間みたいな言い方したよね」

「そうでしたか?」

「ほら。ルシファーはアブディエル様の親じゃないって。ボクらには“親”っていう概念は根付いてないからさ」


 天使は神から生み出されたが、天使にとって神は親とは全く別の存在だ。天使にとって神は、崇める存在であり従属する対象。故に、親のように身近な存在ではない。そんな風に見る前に、畏怖の念を抱いてしまう。


「あぁでも、権天使だもんね。人間の真似事が好きな集団に属してるなら、そう表現することもあるか」

「そうですね。あはは……」


 そんな天使もいるんだ。

 ハビエルはその辺りの事情を知らなかったので、話を合わせて苦笑いした。

 権天使は職務上、人間と接触することが多い。物質界の国や都市の支配者を支えることが役目となっているのだが、接触し過ぎる為に色々と影響され、人間の真似事で“家族ごっこ”をするようになってしまった。なので周囲からは人間かぶれと言われ、白い目で見られている。

 天界に来てだいぶ経つけど、天使に関する日々の見聞が恐ろしいな。純真無垢だと思ってたのに、結構込み入った事情があるみたいだし。元々あった常識は何だったんだろう……無事に帰れたら広めるべきなのかな……いや。やめとこう。夢の中の話だろって相手にされないよな。

 それからも聞き込みを続けるが、相変わらず成果は上がらなかった。もういっそのこと覚悟を決めて研究施設に近付こうかと、本気か冗談か判断できない調子でベリエルが言うと、ハビエルは突っかかりそうになりながら止めた。

 そうして途方に暮れそうになりながら庭園内を歩いていると、ハビエルは何かを踏んだ。


「わっ」

「え?」


 ハビエルが踏んだのは、薄汚れた緑色の布だった。その布は大きな塊に被さっていて、正体が一瞬わからなかった。すると頭頂部が動き、布の下に皮膚が見えたかと思うと、緑色の目が二人に向けられた。


「あっ。ウリエル様!」


 ハビエルは謝りながら慌てて足を退けた。しゃがみ込んでいたウリエルは、またオリジナルの方法で植物の手入れをしていたようだ。

 外衣を踏まれたウリエルだが、無礼だと怒るでもなく、二人に気を留めるとこなくまた花と向き合う。


「……うん。びっくりしたね。でも、しょっちゅうあることだから」


 二人のことは見えていないふりをしたかのように、花と会話を始めた。無視をされたハビエルとベリエルは対応に困惑する。

 いつも一緒に手入れをしているというザフキエルは、今日は姿がない。折角邪魔がいないので、ハビエルは話しかけてみる。


「あの。ウリエル様。少しお聞きしたいことが」

「ムダだよ。きっと何も話してくれないって」

「でも、この前は話を聞けなかったし」

「この方は植物以外興味ないよ。行こう」


 収穫に期待しないベリエルは、先に歩き出してしまう。彼の言う通りで、ハビエルが話しかけても見向きもしない。

 しかし話が聞きたいハビエルは、留まるかベリエルを追いかけるか逡巡する。すると。


「さっきの話?うん。ザフキエルが言ってたんだ。その実験を物質界で試すんだって、言ってたらしいよ」


 ウリエルと花の会話を聞いたハビエルは、側にしゃがんだ。


「ウリエル様。それって、アブディエル様がやった新しい実験のことですか?」

「ちょっと。何やってるの」

「もしかしたら、ウリエル様が何か知ってるかもしれないです」


 初めての収穫が期待されると聞いたベリエルは戻って来て、ハビエルと一緒にしゃがみ込む。


「ウリエル様。ザフキエル様から何を聞いたんですか。実験が物質界で試されるって、本当ですか?」


 ハビエルが少し食い気味で聞くと、ウリエルは口を噤んでしまう。ハビエルでは頼りないと、今度はベリエルが穏やかな口調で話を聞いてみる。


「ルシファー様が、議会と物質界のことを案じておられます。この場で聞いたことはルシファー様以外の誰にも話しませんので、ご安心下さい。だから、何か知っていることがあったら教えて頂けませんか」


 しかし、ベリエルが猫を被って聞いても、ウリエルは口を噤んで沈黙を続ける。ザフキエルから口止めをされているか、全く話を聞いていないかわからないまま、二人はウリエルの口が開くのか開かないのかをじっと待った。

 ウリエルは花を見つめ続ける。可憐な花に目で話しかけているように。

 そして二人が諦めかけた時、のんびりとした調子でウリエルは話し始めた。




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