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オルネフォルの軌跡  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅲ
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7




「主な内容としては、人間の進化、それに付随する物質界の歴史の研究だね。行動科学や進化心理学、比較心理学などを用いて、人間をよりよいものにする為に人間を研究している。そしてそれを元に、物質界の未来を予見しようとしているんだ」

「未来の予見は、予言能力を持つ方ができるではないですか」

「彼らは、“現時点から予測される未来”を予言している。だが施設では、“現時点から分岐を遂げた結果に訪れる未来”を予測しようとしているんだよ」


 天使の中には、過去・現在・未来に精通した者が何人か存在している。ベリエルが言ったように、未来の予言も可能だ。しかし彼らには制約があり、予言した未来は誰にも漏らせない。

 だから施設では人間の思想や行動学を独自で研究し、現在の人間が未来にもたらす影響を、予言の天使ができない分岐まで予測しようとしている。更には、分岐のその先まで。それによって、修正が必要とされる箇所が訪れる前に解決策を見出だせると推測しているのだ。


「難しいことをされているのですね」

「近頃は、また別の研究しているようだけれど」

「別の研究?」

「何か実験を始めたようだよ」


 知りたいのはそれだと察知したベリエルは、聞き出そうとする。


「一体どんな実験を?それも人間に関わることですか?」

「それは流石に言えないな。守秘義務があるからね」


 聞き出せそうな雰囲気だったが、流石に無理だった。しかし、ベリエルは諦めない。


「アブディエル様がよく来ていらっしゃると噂を耳にしましたが、主導でされているのでしょうか」


 それは突っ込み過ぎだとハビエルは小声で注意をするが、二人の会話は続いた。


「まぁ、そうだね。ヨフィエルと仲良くやっているようだよ」

「ザフキエル様は、一緒にやらないのですか?」

「私はあまり興味がないんだ。それに、ここだけの話、あの二人とは思想が違うからね。実は一緒にいるとストレスなんだ。ウリエルといた方が精神的に健康だよ」


 ザフキエルは肩を竦めて言った。ウリエルの側にしゃがみ込むと、「花は穢れないし健気だよね」と無言を貫くウリエルに話しかけた。どうやら、アブディエルとヨフィエルの二人とは一線を引いているようだ。


「ご一緒に議会を運営している方からそんなことを聞くなんて、意外でした。ルシファー様からもお三人はよく一緒にいらっしゃると窺っていたので、仲がよろしいのかと」

「それは勘違いだ。ルシファー様もアブディエル様に疑念を抱いていたようだけれど、私はそれは間違ってはいないと思う」

「それは……」


 それまで笑顔を絶やさなかったザフキエルの表情が、雲が光を遮るように変化する。


「君たちにも言っておく。彼を信用しない方がいい。私も信用していない」


 光を遮ったのは灰色の雲だった。二人を見上げたザフキエルの瞳は、冷やかなものだった。




 別れ際にルシファー様にも宜しく伝えてくれと言われ、居館に戻った二人は、ルシファーにザフキエルから得た情報を報告した。


「別の研究か……一体何を始めたと言うのだ、アブディエルは」

「他にも数人に聞いてみましたが、何も掴めませんでした」

「流石は秘密主義組織。ルシファー。前に秘密主義が過ぎるって言ってたけど、褒めるべきなのかもね」

「そうかもな。だが、ザフキエルがアブディエルを信用していないのは本当に意外だ」

「あんなことを言ったのは、アブディエル様の実験をあまりよく思っていないからなのでしょうか」

「だったら、ザフキエル様が情報提供してくれる可能性は?こっちの事情を話せば、ひょっとしたら」


 ベリエルは議会内部に協力者を得られる期待をするが、ルシファーはすぐに否定する。


「いや。それはないだろう。冷静に物事を見極める奴だ。恐らく今は、アブディエルに従っているつもりだろう。離反の準備が整っているのなら、こっちの質問に素直に答えている筈だ」


 まだ議会は新体制になったばかりだから、アブディエルの才量を見極めているのだろうと、ルシファーは言った。

 取り敢えず今回は、あの無名の書状の内容が本当だったことが裏付けられた。しかし、ここからが難関だ。真相を掴むまでは時間がかかる。そして時間をかけていれば、こちらの動きがアブディエル側に知られてしまう。それを念頭に置き、慎重に調査を継続しなければならなかった。


 調査は困難を極めた。危険を恐れながらハビエルたちは実験の詳細まで辿ろうとするが、掴んだ糸の端の先が見つけられない状況が続き、溜め息が増える一方だった。その間にも、アブディエルの実験は順調に進んだ。




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