2、お米…
「んー…」
あぁ!よく寝た。
約3日ぶりの睡眠は素晴らしいね!そういえば昨日変な夢みたけど、こんなに清々しい朝だし!大丈夫!あれ?私、昨日仕事終わらせたっけ?もしかして後輩ちゃんだけでやった!?やばい!いま何時だ!?
「お嬢様、おはようございます。体調はいかがでしょうか?」
…空耳、幻聴、私は何も聞いていない。
「お嬢様?やはりまだお加減が…」
「いえ!もう元気です!快調です!」
医者はノーサンキューです!お金の無駄になるからね!あっ返事しゃったよ…。
「それではお食事をお持ち致しますね。」
侍女さんが安心した顔をしました。
とっても嬉しそうです。返事しゃったとか思ってごめんなさい。
侍女さんが部屋から出たのをで、部屋の中にある大きな姿見の前に行ってみます。
「おぉ…」
そこには美少女がいました。
腰まで届く、青みがかった銀の柔らかそうな髪。陶器のように白い肌に、ほんのり赤い唇。そしてなにより目を引く透き通るようなアメジスト色の大きな瞳。僅か6歳にして儚さを感じさせる、年相応とはとても言えない美少女だ。
…うん、想像通り。
やっぱりアイスリだよね、これ。
彼女、アイスリ・フォルティーニは私が前世でプレーしていた乙女ゲーム、「下克上 〜恋の花を君に〜」略して「ゲコ恋」というなんとも微妙な名前の乙女ゲームの悪役令嬢だ。
ストーリーは良くあるもので、平民の主人公マリアが貴族学園に入り、貴族の子息達と恋に落ちるというものだ。マリアは魔力を持っている為平民だが貴族学園に入学する。マリアは貴重な光の属性を持っており、途中で光の精霊と契約を結ぶ。それによりマリアの価値が高まり攻略対象達と結ばれるのだ。
そして乙女ゲームといえばライバルキャラ、もとい悪役令嬢だ。その悪役令嬢こそが私、アイスリ・フォルティーニなのだ。
彼女は全てのルートで邪魔者として登場する。
そして最後には結構な確率で死ぬ。ハッピーエンドでもバッドエンドでもだ。ハッピーエンドでは処刑、バッドエンドでは暗殺が多い。良くて国外追放だ。
ゲーム内では悪役令嬢らしからぬ性格をしているのがアイスリだ。
定番の悪役令嬢といえば、主人公を直接罵ったりする。だがアイスリは一味違う。絶対に自分の手は汚さないのだ。そして証拠も絶対残さない。成績優秀、品行方正の絶世の美女。それがアイスリ・フォルティーニだ。そして主人公を陥れようとする理由は扱いやすい「駒」を失うのが嫌だからだ。彼女は誰も信用せず、公爵家という肩書きに引き寄せられてきた者達を利用する。彼女にとって周りの人間は「駒」でしかない。攻略対象達の弱味を握っていたり、なにかトラウマを植え付けたりして意のままに操っている。そして攻略対象とは必ず幼い頃からの知り合いであり、攻略対象は絶対に裏切らない駒であるのだ。だからアイスリは彼らを自分の手元に置こうとする…とゲーム内で攻略対象が語るのだ。
だがゲームについてる別紙に書かれているキャラ設定で、プレイヤー達にさまざまな憶測を繰り広げさせた。
別紙にはアイスリの過去について書かれており、プレイヤーはまずアイスリに同情した。
フォルティーニ公爵家は冷え切った家庭だった。フォルティーニ公爵は仕事でいつも家を空けており、フォルティーニ夫人はアイスリが6歳のときに病魔に侵されて命を落とすのだ。フォルティーニ夫人は元より心を病んでおり、自室に引きこもっていた。そのため存命のときにもアイスリと関わる機会は0に等しく、アイスリは人の愛情を知らずに育った。そのため幼少期から繋がりがあるのは攻略対象のみである。
…とゆうようなことを書いてあるのだ。
他の登場人物より圧倒的に細かい人物設定であり、これいる?運営さん、どうゆうつもりかな?とプレイヤーは全員思ったはずだ。
そしてアイスリの行動の理由にさまざまな説がうまれたのだ。
その中で最も有力とされた説が、執着という名の愛情故、というものだ。
幼い頃から唯一繋がりのある相手。
それは執着するには充分な理由になる。
だからゲコ恋には主人公であるマリアを応援する派とアイリス派が存在した。そして恐ろしいことにアイリス攻略ルートが欲しいと運営に訴えた強者もいるそうだ。
…そんな令嬢に転生したのか、私。
けど良いこともある。アイリスはハイスペックだったのだ!頭も良かったし、身体能力も良かった。だから私も受け継いでる…はず。
よし!ちょっと試してみよう!
私は近くにあった本を手に取る。(ちなみに文字は日本語でした。さすがゲームの世界。)
本の内容は冒険譚だった。まぁ今は内容は関係ない。最初の1ページを一度読んでから本を閉じる。そして本を閉じたまま読んだ内容を音読してみる。
「はるか昔、古の精霊のー」
…どうしよう、できちゃった。
いやいやいや、これは可笑しいだろ。いくらハイスペックとはいえ、一回みただけで500文字近く覚えるとか化物だろ。何ですか?転生オプションですか?
「…」
チート過ぎる。
私、チート過ぎない?これ私だよね?この能力、学生時代に欲しかった…!!
あぁ、こうなれば魔法も使ってみたい…!!
転生オプションなのか何なのか知らないけど、なんかチート級ぽいし!せっかくのファンタジーだし!!
この世界の魔法の仕組みは単純だった。
魔力を持つ者は、その適正に応じた属性を持つ精霊に力を借りる。そのためには精霊召喚をする必要があるのだ。精霊は魔力の波長や質などで力を貸すか決める。魔力の波長にはその人物の人柄が出るとされており、質は基本的には潜在魔力量と比例している。潜在魔力量が多ければ多いほど質が高いのだ。あぁ、気になるなぁ!私の魔力はどれ位なのかなぁ!
と、私がウズウズしていたらドアがノックされました。
「お嬢様、お食事をお持ちしました。」
あっ、お食事が届きましたね。
ドアが開いた途端、いい匂いが漂ってきます。
「まだ熱いので火傷にお気をつけください。」
おぉ!
やっぱり熱で倒れたのでお粥かな?こっちの世界に来て初ご飯です。お腹減りました。
「…」
麺でした。
いや、当たり前だよね。だって中世のヨーロッパだもん(多分)。米はないよね。そりゃそうだよね!…何気、転生して1番効いたかもしれません。だってさ、私、日本人だし。日本人は米でしょ!私、社会人になってから基本3色おにぎりだったんだよ!会社ですぐ食べられるし、何より米だし!それくらい米オンリーの食生活してたんだよ?急に麺とか食べたら…こう、腹にきそう。
こういうところには日本のゲーム感出さないのね…。確か貴族学園の制服はバリバリ日本のブレザーだったのに…!他は中世のヨーロッパの服っぽいのに、何故か制服はブレザーっていう流石日本のゲームがご飯には反映されないのね…!!
あっ、けどこれもこれで美味しそう。
これは普通にパスタって感じだ。けど病人にトマトパスタ…?結構きつくない…?私は元気だからいいけど、本当にしんどいときに出されたら、内心キレるよ?
そういえば侍女さんにお礼を言うの忘れてました。
「ありがとうございます。えーと…」
まずいです。
名前がわからないです。
アイスリの多分専属侍女の名前なんて出てこないよ!えーと、とか言っちゃったし!仕事でやったら終わるやつだよ!!
「ネロでございます。」
静かに答えてくれました。
ネロさん、カッコイイです。
「…ありがとうございます、ネロさん。」
「敬称と敬語は必要ありません。ネロとお呼びください。」
うっ…!
年上の人を呼び捨てにするのとか、苦手なんだよなぁ…。
けどネロさん、って呼ばれたら立場的に微妙なんだろうなぁ…。
「で、ではネロ、と呼びますね。…敬語は、その、まだ許して下さい…?」
じっとネロを見つめます。
うぅ、恥ずかしい。
ネロが大きく目を見開きました。ネロは昨日は反応いいなぁと思ったけど、今日はずっと無表情だったので驚きました。どうしたんでしょうか…?
「…はい。」
ちょっと間が空いたけど了承貰いました!
少し気が楽になったしそろそろ食べよう。お腹鳴りそう。
…普通のトマトパスタでした。
普通の、は誤りですね。すっごく美味しいです。パスタに文句言ってすいませんでした。
け、けど私は米を求める…!!
ん?そういえば私、6歳です。
そしてアイスリの母親が死ぬのもアイスリが6歳のときだよね?え?もしかしてアイスリママまだ生きてる!?
もう亡くなってたらすごーく気まずいけど、ネロにきいてみちゃおう。
「ネロ…お母様はどうしていますか?」
ネロが気まずげな表情をします。
ごめん、ネロ。
けど人命がかかってるんだ!…てかネロかわいいなぁ。黒髪ですごく安心する。元の世界では黒髪ばっかりみてたから。まぁそれ抜きにしても美人さんだ。多分年は12歳くらいかな。この世界の成人年齢は18だし、魔力持ちか貴族でも下級貴族は長子以外は働いている年齢だもんね。
「…奥様は本日も自室におられます。」
あっ質問してたの忘れてた。
ネロが頑張って言葉を考えてくれてたのに…私無いわ。なのにネロに見惚れてたとか!何やってんだ私!
…って、お母様生きてるんだ!?
なら助けるべきだよね?確か病んでるんだよね、お母様。なんでかは知らないけど。じゃあ理由を探って病み期から抜け出させなきゃいけないのか…。カウンセリングってどうやるんだろ…。
とりあえずやってみるしかないか!
食べたらお母様の自室に突撃してみようかなぁ…。
まぁとりあえず目標は決まりました!
第一にお母様を病み期から救い出すこと。次に精霊召喚をすること。そしてお米を必ずみつけましょう!
え?フラグ回避はどこ言ったんだ?
やだなぁ、してるじゃないですか!お母様を助けることはフラグ回避にも繋がります!
攻略対象とのフラグ?
うーん、それはまだ出会ってないし、アイスリって言っても中身は私のですしまだいいでしょう!
ご覧頂きありがとうございました!