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クビカリサマ  作者: RAIN
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クビカリサマ

―――『園断村に伝わるクビカリサマの伝承』より―――



 これは、とある村落で村人から(ろう)神社と呼ばれる神社に昔から伝わる民間伝承である。


 (ろう)神社では昔、クビカリサマと呼ばれる神様を祀っていたそうだ。


 至極(しごく)物騒な名前の神様であるが、この名前には理由がある。

 

 手始(てはじ)めにクビカリサマについて説明しよう。



 クビカリサマという名前は、喉まで出かかっている本音をクビカリサマが首から上を借りることで代わりに相手に伝えてくれることから付けられた名前だと言い伝えられている。

 つまり、クビカリサマは思いを代弁してくれる神様という訳だ。


 また、一説にはクビカリサマではなく軛離様(クビキリサマ)が本来の名称であるとも言われている。


 『自由を束縛もの』という意味である『(くびき)』から『離れ』させてくれることから、元々は縁切りを司る神様が、時間の流れと共に言葉の代弁を司る神様になったのではないかと考えられている。


 いずれにしても、人間関係に悩む人たちが古くから救いを求める信仰の対象であったのは確かである。


 また、クビカリサマの御神体として神社には、幾重にも縄が巻き付けられた木像が祀られている。

 この木像は苦悶の表情をしており、顔と両手以外の全ての箇所を厳重に縄で縛られており、その姿は手の生えたダルマの様にも見える。


 何故このような姿をしているのか。


 所説あるが、御神体としてクビカリサマを祀ると同時に、神社に繋ぎ留めておくための(まじな)いなのではないかと言われている。


 それはまるで、クビカリサマが好き勝手に暴れない様に抑えつつ、救いを求める人々に神様として祀られる様に意図して作られた様にも見える。


 多少不気味な感じのするクビカリサマではあるが、それでも年間約三百人程の参拝者がこの神社に訪れており、境内には今でも沢山の絵馬が掛けられている。

 また、近年ではこの神社の近くで行われる様になった祭りの影響もあり、緩やかではあるが参拝者も増加傾向にある。



 今現在(いまげんざい)も救いを求める人々の拠り所としてこの神社は存在している。


 また、宿願成就の際には絵馬と共に■ ■ ■を奉納する必要がある。


 (うし)ろ暗い思いを断つために必要なおまじないであり、必ず行わなければならない。


 (しん)じる信じないは個人の自由であるが、神様へのお願いは面白半分に行ってはいけない。

 

 (ろく)でもない目に遭いたくなければ、クビカリサマにお願いする際には次のことを気を付けて欲しい。

 


 まず始めに、クビカリサマにお願いする際には言葉を伝えたい相手がいない場所で行う必要がある。

 そうしなければ、代弁を行ってくれる神様であるクビカリサマに願いが届かないからだ。


 次に、その言葉が相手に届いた際にはその言葉を必ず記録に残しておかなければならない。

 紙に書いたり、携帯電話などのメモ機能に残しておいても良く、言葉を予め書いて置いても良い。

 これは、記録に残しておかないと、クビカリサマが直接来てしまうためだと言われている。


 そして最後に、クビカリサマにお願いした後に起きた結果に対して言い訳をしてはならない。

 特に『そんなつもりはなかった』『冗談だった』などという言葉を口にしてはいけない。

 嘘の気持ちを代弁させたことに怒ったクビカリサマが現れて、首をねじ切られてしまう。

 

 特に近年ではパソコンや携帯電話などで気軽に匿名のメッセージを送ることが出来る様になった。

 そのため、本人が知らぬ間にクビカリサマにお願いをしてしまっていることがある。

 全ての人の前にクビカリサマが現れることはないが、特に悪質な者の前には来てしまうことがある。



 実際にクビカリサマに遭ってしまった者たちの話によれば、クビカリサマは突然目の前に現れたそうだ。

 

 その容姿は御神体のように、巨大な達磨に近い姿をしていたらしい。

 苦悶に満ちた様に見える表情で、右目はくり抜かれた様に空洞だった。

 荒縄から僅かに覗く皮膚は腐ったような色をしており、巻き付く荒縄から赤黒い液体が零れ出ていた。

 両腕は大人の胴体よりも太く、表面には血管のようなものが浮かんでいた。


 そして、クビカリサマは空気が震えるような声で『クビカルカ? ソレトモ、クビキルカ?』と質問をしてきたらしい。

 その時に何も答えられなければその場で首をねじ切られてしまうそうだ。


 その現場を目撃した者の話によると、質問に答えられなかった者がクビカリサマの太い両手によって念入りに首が千切れるまで回し続けられたらしい。


 もしも、クビカリサマに遭ってしまい、死にたくないと思った時。

 その場でクビカリサマに■ ■ ■ ■と書かれたものを見せれば一度だけクビカリサマは見逃してくれる。

 だが、それを怠ればクビカリサマに首をねじ切られる運命を辿るしかないだろう。


 何故この文字を見せるとクビカリサマが許してくれるのかは、未だに解明されていない。

 だが、解明のために故意にクビカリサマを呼んでみようと考える者はいない。

 過去に研究のためにクビカリサマを呼ぼうとした者は相次いで不審な死を遂げているからだ。

 あるいは、クビカリサマを故意に怒らせることがクビカリサマの逆鱗に触れる行為なのかもしれない。


 言葉には魂が宿ると言われているが、それは時代が変わっても同じである。


 顔が見えない相手に対してでも、自分の言葉が相手を傷付けていないか振り返ってみる必要がある。

 自分がすること全てが正しいとは限らないし、相手がすること全てが正しいとは限らない。


 仮に悪いことを咎める場合であっても、相手への行き過ぎた報復の報いは自らにも帰ってくる。

 もしかしたら、知らぬ間に心無い言葉で誰かを傷付けているかもしれない。


 そして、顔を隠して平気で人を傷つけるような者の前にクビカリサマは必ず現れるのだろう……。


 あるいは、既にアナタの後ろにクビカリサマが来ているかもしれない……。

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