転生経験のある俺の復讐録
単なる陰キャの妄想なのでツッコミどころとか無視して読んでくれると嬉しいです。復讐物って難しいです。
いきなりで悪いが、俺は転生者だ。
単なる前世の記憶持ちではない、少なくともある一定の死後以降全ての転生の記憶を持っている。というのも、ある男にたまたま見つけられて、そのまま初めての転生以降全ての記憶を持っている状態だ。その男は自らを神を超える男と称し名をワラベ・キクチと名乗った。まぁ、そんな話はさておき、俺の人生はどこかおかしいらしい。というのも、転生回数は優に30回は超えているのだが、そのうち12回はなぜか寝取られるという被害にあっていた。
というのも、最初に転生する前の人生も婚約まで交わした少女が勇者によって、回復役として連れていかれ一年後に戻ってきたときには寝取られていた。あまりのことに絶望した俺は勢い余って勇者にされたことを遺書に書いて首吊って自殺してしまったのが発端だった。
そのときだ、冒頭のワラベ・キクチが表れてそのあとのことを話してくれたらしい。俺の世界においていわゆる一方的な婚約破棄というのは重罪にあたる。もちろん女性も男性もだ。勇者は婚約者がいる女を寝取った男として国中に知れ渡り、女のほうは勘当されてその日暮らしの生活を続けていると。ぶっちゃけると娼婦になっていた。勇者のほうは寝取りの悪評が国の評判につながっては困るという点とついでに武力を持て余していたという点でそのまま極刑に処された。死んで復讐を果たすという何とも不完全燃焼を味わった。
その後いろいろあって俺は転生させてもらえるとのことだった。なんか『不死の因子』とか何とか言っていた気がするがまぁそれはいい。その後実に30を超える転生を経験しその4割をなぜか女を男に寝取られるという経験をした。そのうち半分以上は復讐を済ませた。
寝取られたと言ってもちゃんと報告を済ませてくれた分には特に咎めてはいない。問題はそれ以外だ。12回の寝取られ記録の中には勇者も元嫁もクズな場合と勇者だけがクズだった場合、元嫁がクズだった場合があった。その場合はちゃんとクズに復讐させてもらった。
最近特にひどかった寝取られと復讐について話をしようと思う。
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「――――もう、あんたに興味ないから」
その言葉を聞いたのは実に12回目のことだった。この気持ちは何度経験しても慣れない。転生というのは前世の記憶と能力を持ち越せるだけで、実際は赤子から生まれ変わるたびに『経験』は0に戻される。転生と転生の間は別にそういうことはないが、基本器の経験に感情が引っ張られる傾向がある。
「じゃ、そういうことで。まぁ落ち込むことはないさ勇者たるこの俺に負けるのは仕方のないことだ。ま、運が悪かったってことで」
なんの悪びれもせず異世界から召喚された勇者は勝者の笑みで俺を見下す。この時点で魂魄も残さず婚約者……元婚約者ごと塵にしてやりたいほど腹が立ったがぐっとこらえる。
「ごめんね。もう……お腹にこの人の子、身籠ってるの」
その言葉を聞いて、怒りよりも先に脳が先に理解不能と拒否反応を起こして膝から崩れ落ちる。
「じゃあ俺たちはこれからパレードだからよかったら参加していってくれよ。これ、特等席の招待状」
勇者は指の間で挟んだ招待状入りの封筒を俺の頭の位置に投げた。何気に地面に刺すように投げたあたり変に抵抗するとぶち殺すぞという意志を感じる。転生する力は『俺たち』共通の力だが『因子』と呼ばれる力は俺だけのものだ。その因子の力を使ってこいつを殺すことは簡単だ。だが、こいつにその力を使うことは俺の矜持が許さなかった。
そして、実に7回目ほどのこの言葉を言うのだ。
「復讐してやる…………」
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勇者のパレードにはもちろん参加させてもらった。そして、勇者の婚約発表の際に俺が元婚約者の同郷として話をすることになっている。壇上に立ち元婚約者たる俺と幼馴染との思い出を語る。
「田舎者なものですいません。このような催しに特別に招待していただけたことを非常に喜ばしく思います」
伊達に転生を重ねてきたわけではない。肉体の経験こそ失われたが魂の経験は失われてはいない。肉体的な緊張はともかく精神的な緊張はしなかった。
「そう今から6年ほど前、僕と彼女は幼馴染としてとても仲が良かったです。ちょうど勇者様が召喚される一年前ですね。僕らはお互いに愛し合っていました。冗談で婚約を交わすほどに」
国民の見ている中でさらっと婚約の話をした。6年ほど前と言ってもお互いの齢は12歳。この世界ではそろそろお互い好きな人ができてもおかしくはないし早いところでは婚約しているのも珍しくはない。
「それからいろいろあって勇者様が召喚され彼女が癒し手としての加護を受け取り僕はとても心配になりました。生きて帰れるのかとか、お互いの将来のこととかですね」
勇者たちはお互いにぎょっとしている。動けないだろう。魔法で暗示をかけさせてもらったぞ。動こうと思っても動けないそんな程度のものだ。あとは警備兵に取り押さえられるまでは話し続けられる。実際まだ子供の頃の話だ。気の早い奴だと笑い話で済む前座程度の話だ。
「お互いに文通をしようと言って僕は彼女を見送りました。最初の二年ほどはよく文通できてました。魔王軍の幹部を倒しただのなんだの。僕にはよくわかりませんでしたが彼女の活躍を誇りに思っていました。それが三年目からだんだん返事が遅くなり、四年目には何通かに一回ほどしか返事が来なくなっていました」
国民がざわつき始めていた。国王様が余計なことを言うな見たいな目で見ている。やめるわけないだろ馬鹿じゃねえの? 転生した中でニホンという国にも一度だけ転生したことがあったがあそこでは婚約の一方的な破棄は詐欺として扱われることがある国だった。あそこまでとは言わないが相手が勇者だから我慢しろというのは問屋がそうと卸しても、俺が納得できない。
「そして先日、魔王討伐という大任を果たし私のもとへ彼女が帰ってきました。すると彼女は僕に『勇者のご寵愛に預かった子供もいる』という嬉しい知らせも受けました。こんな嬉しいことがありましょうか。世界を魔王の脅威から救った勇者様のご寵愛に授かりその証をこの世に生み落とせることを喜ばしいでしょう」
ここら辺は自分の心を抉りながら話していたので若干鼻声だ。
「勇者様万歳! 僕は喜んで彼女を差し出しましょう! 婚約は一方的に破棄されましたが彼女は僕よりも勇者様がふさわしいです!」
そういって大きく拍手をする。しかし、ここにいる国民は拍手こそしたものの勇者とその婚約者に白い眼を向けるものばかりだった。
「以上です」
その夜、俺は暗殺された。ですよね~。
しかし、ここからが本当の復讐だ。
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「久しぶりだね。その若い恰好ってことはまた処刑されたの?」
「いや~、また寝取られちゃってさ」
「君本当によく寝取られるね。……僕が言うのもなんだけど」
ここは時空のはざま。俺たちは死後一度ここに集まり好きな時に転生できる。ここでは器――肉体に縛られることがないため、今までの転生の中での好きな姿になれる。俺はまだこれからすぐ転生する。この格好は恨みを忘れないためだ。
「すぐ転生するの?」
今はなしているこいつは、俺の4回目の転生の時に貴族だった俺の婚約者を寝取ったやつだ。このときはこいつは俺という婚約者がいるということを知らず、後々それが知れた時に一緒に婚約者に制裁を加えたやつだ。これは婚約者がひどかったのでこいつには拳一発で済ませた。死んだ後にこいつがいたときにはビビったがどうやらこいつも因子持ちだったらしい。
「ああ、今回はとびっきりの復讐だ」
「転生しても復讐を続けるの?」
「なんか知らないけど腹が立ったから復讐する」
「君も陰湿だね」
「仕方のないことだ。しかも寝取ったやつに至っては俺を貴賓室に招いて夜に暗殺したからね。ぜってえ許さねえわ」
「まぁ……頑張って」
苦笑しながら奴は言う。
「ああ、行ってくる」
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俺が転生先に選んだのは、元婚約者のガキだ。
長子だ。厳密には長子ではないのだが。長子の魂は俺が丁重に別の人生を歩んでもらっている。だが魂のない肉体だけの存在である子供は死産した。勇者と婚約者はひどく落ち込み、時に喧嘩もしたが無事その後俺を出産した。
俺があれだけのことをしてやったのに思いのほかいい生活をしていたのに腹が立った。結局、人の婚約者を寝取っておいてお咎めなしでのいい生活は許せないという国民のおかげで名誉大臣から上位騎士としての生活を歩んでいるらしい。しかし、それでもいい暮らしというのは許せなかったのでまずはこの家庭を壊そうと思う。
転生して半年はいろんな意味で苦痛だった。自分の愛した人が自分以外の男とくっついて子供までできて、俺のことがなかったかのようにふるまわれたのだ。その女の母乳をすすらねば生きていけないのだという肉体的な無力感は非常に苦しかった。胸が張り裂けそうだった。
たまに勇者である父親が俺の顔をいとおし気に見つめてくる顔が非常に気持ち悪かったので幼児の体で耐えられる出力最大級の魔法を不意打ちで顔面に食らわせてやった。顔面が大やけどして癒し手である元婚約者は勇者のやけどを癒そうとしたが、こっそり魔法で妨害してやったので顔のやけどの跡が消せなかった。ざまぁだ。しかも幼児ということもあってあまり厳しくは怒れない。そういうことを繰り返してきたため勇者はだんだん鬱気味になっていった。4歳くらいまで事故を装って魔法の暴発(故意)を繰り返した。
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10歳になるころには騎士としての仕事に支障が出るレベルに精神を病んでおり国民から税金泥棒とまで呼ばれるようになった親父様の背中はひどく滑稽だった。そんな税金泥棒はいくら勇者とは言えど法と規律には逆らえずどんどん降格していき今までのような生活はできなくなっていた。
母親である元癒し手も癒しの雰囲気はどこへやら。常にイライラしている。
そんな中親父様が遂に落ち目になった勇者ということで腹を立てて酒場で一般人と喧嘩を起こした。騎士の称号すらはく奪され勇者には何も残らなくなった。
そんな中俺は11歳で学校で高等教育を首席で修め、下位ではあるものの騎士の仕事に就いた。親父様(笑)と癒し手(笑)は俺が養っている。もちろんこれでもだいぶんすっきりしていたのだが、せっかくなのでまだいろいろやっていこうと思う。
外では優しく、内では激しく。
俺は癒し手(笑)と親父様(笑)を虐待していた。俺は治癒の魔術で癒し手であった母よりも高度な魔法を使い、剣術で勇者であった親父様よりも圧倒した。これで家庭とプライドもずたずたにしてやった。精神はまだ壊しようがある。そう思いありとあらゆる手段を尽くす。
壊して治して。肉体的に暴力を振るいながらそれを魔法で癒し、痕までなくしてこういうのだ。
「ごめんなさい。お母さん。ちょっとイライラしてたんだ。もう二度とこんなことをしないから許して」
ニホンで経験した完全なるDV男のセリフを母に使い、俺に依存させる。
この世界では子供の成人年齢が低いこと、出産年齢も低いことから子供が成人してもそこそこ若い親というのは多い。上の子が成人したから昂って次の子供を作るなんてことも珍しくない。俺は非常に不快ではあったが、俺に依存した母と時に体を重ねることもあった。器の関係上非常に不快であったが、まぁこれも復讐と考えればどうということはなかった。それを親父様に見せつけた。
これで準備はすべて整った。最後に精神の奥底まで壊して壊して壊しつくして、俺は自殺をする。これで俺の復讐は成る。そして次の人生ですべてを忘れて生きていきたい。
「よぉ、元勇者。『久しぶりだな』」
ここで、このタイミングでネタ晴らし。すべて仕組んだことだと気づいたらどうなるだろう。怒るか、呆れるか。それともあの時の俺のように膝から崩れ落ちるか。
「お、おい何を言っている?」
「おいおい、心が病んでも頭の奥までおかしくはなってないだろ? ちゃんと耳かっぽじってろよ。久しぶりだな元勇者。俺だよ俺」
「えっ……どういうことなの……」
「異世界の勇者。お前よくのうのうと生きてられるよな? 俺が養ってやってんのに何もしていないどころか俺からすべてを奪って堂々と生きてるお前が父親面してるの最高に腹が立つ。あの夜お前が侍女に持ってこさせたワインに毒盛ってたの気付いてなかったと思ってるの?」
「何の話なの……あなた?」
「ち、違う! 何の話だ! 俺はそんなこと……「しただろ?」」
「侍女殿は簡単に話してくれたよ。なんていったって、あいつは俺側だったからなぁ」
「どういうことだよ……」
「そりゃ相手は勇者とはいえど寝取られた男がパレードの特等席に呼ばれてあの思い出話に花を咲かせて何とも思わないやつはいないって話だよ」
俺は元勇者に詰め寄る。身長は俺のほうがやや小さいがそれでも十分に圧力を加えられる。こいつを壊してやらなければ気が済まない。
「侍女殿は俺にこう言ったぜ? どうかお逃げくださいってな」
「本当なの!? ねえ嘘だって言って!?」
「わ、悪い……許してくれ……。お前があいつだっていうなら謝る。だから許してくれ……」
「悪いと思ってんなら最初からするなよ糞が!」
思わず放った魔法が親父様の足元に着弾する。あまりの温度に床が溶岩のように発熱しながらわずかな光を発しながら液体のようにドロドロになっている。
「えっどういうことなの? えっ?」
「よぉ、糞アマ。俺を捨てて勇者と嘲笑うのは楽しかったか?」
「何を言ってるの? あなたはいったい何を言ってるのかわからない? 母さんにもわかるようにちゃんと説明して?」
「お前をこの人生で母親だと思ったことは一度もないよ」
「でも私はあなたを捨ててなんかないわ」
「そりゃ、勇者の息子としての俺の話だ。俺が言ってるのはその前の話。そう、例えば元婚約者の話とかな」
「でも、あの人はもう死んでるはずでしょ?」
「そうだよ。さっきも言ったようにそこの元勇者が謀ってな」
「う、嘘よね? 嘘だって言って! あいつはもう死んだの! 死んだ人間は生き返ったりしない!」
異世界や転生と言った概念を持たない彼女は理解しづらいようだ。だが、確実に自分の都合の悪いほうに事態が動いているのは感じ取ったようだ。
「そうだな。だから俺はあんたの息子として生まれ変わったんだよ。すべて壊すために」
「ひっ。……違うの! 最初は無理やりだったの。それが一回で……」
「時期が合わねえんだよ!」
そういって、近くにあった椅子を蹴る。達磨落としのようにきれいに足一本だけ折れて椅子が倒れる。
「お前空白の6年間、特に後半2年間からだよなぁ勇者とデキてたの。勇者が魔王討伐の報が届いたのが四年目で魔法討伐の半年後だ。その後一年半の間にほとんど手紙寄越してこなかったよなぁ!?」
つまりこいつはやるべきことを終えてあとは帰ってくるだけの状態のときに届いていた手紙をほとんど無視していた。仮に違うのだというのであれば手紙を送るべきだった。長旅の疲れがあるというのであってもこの世界の郵便なんて届くのに結構かかる。数か月なんてざらだ。だから疲れがたまっていただけの理由は通らない。
「まぁ仮に無理やりだったとしてだ。その後俺に一言も相談もなく捨てたよなぁ 帰ってきてすぐ、『もうあなたに興味ないの』だぁ? はっ! お前らそろってクズだな!」
「そ、それよりもお前がなんで俺の子供になってるんだよっ。なんでだ!?」
「あぁ? この世界で慣れすぎてニホンの生活忘れたのか? 転生ものとかお前のところの十八番だろ?」
「お前……まさかっ!」
「気づいた? 俺は何度も何度も転生してる。お前のところのニホンにも転生した。あっちは浮気や不倫だってたたかれることだって理解してるのに、 猿なの?」
「なんでこんなことをする! こんなことしたって何にもならないだろ!?」
「一度でも誠実な態度を見せてくれたらパレードであんなことしなかったし、子供も流産しなかったし、この復讐もなかったよ」
「酷い……ひどいよ……こんなことするなんて……」
癒し手(笑)が泣いている。これから中年に差し掛かろうというおばさんの少女のような仕草は普通に嫌悪感がわく。
「お前には今一番言われたくないな。そのセリフ。人を捨てておいて言うことじゃない。まぁ、やりたいことをやってすっきりしたし、これくらいにしておこうか」
「ゆ、許してくれるのか?」
「何言ってるんだよ馬鹿じゃないか? 許すなんて一言も言ってないぞ?」
「えっ?」
「俺は復讐をなした。だからもうここにいる意味はないんだよ」
「お前、何を!」
「さ よ う な ら 。 く そ っ た れ」
俺は内側から爆発した。内臓は飛び散り骨だけきれいに残して肉片をあたりにばらまいで死んだ。通常ではありえない死にざまを目にした人間の精神はかなり疲弊する。今この時まで頑張って精神をすり減らしてきた甲斐があった。すでに限界を超えた二人の精神は、俺の肉体的な死と引き換えに完全に崩壊した。
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「っていうのが今回の復讐だ」
「君は本当に人間?」
「何度か魔族側も経験したけど基本人間と変わらなかったな」
「君のその異常な行動力。気を付けたほうがいいよ」
「ああ、ほどほどにする」
そういって奴は別の世界へ行った。俺もそうだが、この『俺たち』の中で一人称が「俺」と使うやつは陰湿な奴が多い。同じ恨みでも見返すか、俺のように復讐するかといった具合にだ。大体は見返す側を選ぶ。だから何か関係があるわけではないのだが。しかし、次こそ幸せに暮らしたい。
晴れやかになった気持ちで俺は一度記憶をここに置いて別の世界へ転生することにした。
短編の復讐物ってヘイトが溜まらないので読みづらいと思いましたが復讐物に影響されたので一晩で描き上げましたので投稿します。