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1-5 陽気な担任

二カ月ぶりの更新。


これからまた頑張ります。

 

 入学試験から1週間後、豹牙は再び仙石魔導院の地に足を踏み入れていた。

試験を終えて、帰路に着くと隼牙に不思議な顔をされた。隼牙の話しを聞くと、どうやら不合格を取り消すとの通知が家に入っていたらしい。ブルーな気持ちで帰宅した豹牙の心は180度打って変わり、口には出来ない喜びを感じていた。

それから今日まで院内の寮に荷物を持ち込み、あらゆる準備を進めているといつの間にか1週間が過ぎてしまっていたのだ。豹牙の登校は今日からなので問題は無いのだが、クラスでの最初の自己紹介はどの様にするのか等をシュミレーションする暇が無かったのが問題だった。


「俺が風薙豹牙だーーーは、ちょっと偉そうだな……いや、まぁ俺は偉いんだけどな?」


 ぶつぶつと自己紹介の言葉を呟きながら、職員室の方へと向かう。だが、仙石魔導院の広大な敷地の中から職員室を見つけるのは容易い事では無かった。特にーーー


 方向音痴の豹牙にとっては。


「不味いな……ここどこだ?」


 地図に書かれた職員室へと向かって歩いていたのだが、全く着く気配が無い。無数の建物と入り組んだ通路が元からの豹牙の方向音痴を更に発揮させてしまっていたのだ。

指定された時間までもう直ぐ。折角、眠い目を擦ってまで早起きした自分の行いがこのままでは水の泡になってしまう。豹牙は地図を手で握り潰すとポケットに入れ、無我夢中に走り出した。


「地図が俺を惑わせるなら見なけりゃ良い話だろ!」


 自分は天才なのかと惚れ惚れしながら豹牙は元の道を戻っていくが、地図を使って辿り着けない豹牙が地図無しで着くわけがなかった。


「はぁ……はぁ……何でだよ。何でどこにもねぇんだよ!」


 全速力で走り続けた豹牙の体力は底をつき、肺が痛む。朝からとんでもない空回りをしてしまった。

歩く気すら湧かなくなった豹牙はその場に尻をつけて座り込む。仮に着いた時にどの様な言い訳を述べようか…と考え始めるが、疲れ切った体がそれさえも拒んでくる。そんな疲労感から何も行動起こせずにただ座り込むだけの豹牙の耳にとある声が聞こえた。


「……ん?お前は……」


 声の聞こえる方へと顔を向けると、そこに居たのは豹牙の試験を担当し、そして不合格を突きつけたーーー多田久志。その人だった。


「あんた……何でここにいるんだ?」


 豹牙は睨むかの様に多田を見つめた。何せ今はこうして仙石魔導院に通う事になったが、その前に不合格にしたのは多田。いくらあの時の多田の言葉を理解していたとしても、落とされた事に不満が無いわけではない。

多田はそんな豹牙の目を見ると、呆れる様にため息を吐いた。


「そりゃあ、俺はここの教員だから居るのは当たり前だろう?」


 多田が「確かに」と納得する豹牙を見て更に呆れると、豹牙は思い出したかの様に多田に答えを求めた。


「そうだ……何で俺、受かったんだ?」

「……あ?お前……あいつのお陰で不合格を免れたんだろ?」

「あいつ?」


 多田の言う「あいつ」が豹牙には分からなかった。この学園に豹牙の知り合いなんて1人も居ないし、前に話した千田香澄や荒木白王、黒影の2人は共に不合格になった。その他に豹牙の関わった人物なんて誰も居ない。ましてや、豹牙の不合格を取消せる程のお偉いさんなど以ての外だ。


「てかお前……今日登校日なのに何してんだ?」

「あ……そう言えばそうだ!」


 多田のその言葉で豹牙は一気に忘れていた窮地を思い出す。多田に会ってしまった事でついつい忘れてしまっていた。


「し、職員室ってどこだ?」

「職員室?そんなのそこ右に曲がって、目の前にある建物の中にあるぞ?」

「そ、そうか!悪い……ありがとな!」

「あっ……おいっ!」


 多田が声を掛けるが、豹牙の背中が一瞬で遠のいてしまう。


「……明神(あいつ)の知り合いじゃねぇのか?」


ーーー

ーー


 多田の言われた通りに走った豹牙は何とか時間ギリギリで間に合う事に成功し、職員室にいた教員に案内された。

案内された先は、目の前に大きな黒い扉だけが存在して居るのみで周囲には特に何も目につくものは無かった。その扉の中央部には大きく「学院長室」と書かれており、豹牙の背中が一瞬で直線に伸び切ってしまう。

教員が扉をノックすると、奥から野太い声が扉越しに聞こえ、ゆっくりと扉が開かれていく。


「……あれ?お前ら?」


 扉が開き、最初に目に入ったのは3人の人物。それも、全員が豹牙の覚えのある者達ばかりーーー


「あ、豹牙君!」

「ふっ……ようやく来たか、風薙豹牙!」

「一週間ぶりだね」


 千田香澄、荒木兄弟の3人だった。


「おぉ……!お前らどうしてここに?」

「私達も豹牙君と一緒で追加入学になったんだよ」


 もう会う事が出来ないと思っていた3人ともう一度会えた事に興奮する豹牙と同じくらいに、香澄もまた嬉しそうな表情で豹牙の質問に答えた。

その横で白王が腕を組み、偉そうに何かを豹牙に言っていたが豹牙はそれを無視して、豹牙は院長室にある様々な物がある中で自分を含む4人の前に座る人物に目を向けた。


「お戯れはそこらで終わりかい?」


 豹牙の視線に気づいたその人物は、座っていた席を立つと4人の前へとゆっくりと近づき、歩みを止め口を開いた。


「どうも初めまして。僕は風薙豹牙君と千田香澄さんの担任をさせてもらう間所遥(まどころはるか)と言います」


 間所遥と名乗る人物はそう言い、豹牙と香澄の手を取り、満面の笑顔を作った。


「え……担任の先生?」


 香澄が目を丸くする。それを見た間所は「うん」とこれまた元気に頷いた。


「ここ院長室だろ?院長はどこだよ」


香澄が聞きたかった事を豹牙が代わりに聞くと、間所は「ついて来て」と言い、豹牙と香澄の手を引っ張る。それに白王と黒影も付いていくが、2人もあまり状況を理解出来ていない様に豹牙には見えた。


ーーー

ーー


 豹牙達が間所に手を引っ張られて来たのは、この前の陽炎閣ととても似た形をした建物の上階。


「ここは月天閣(げってんかく)。君達が破壊した陽炎閣とはまた別の建物だよ」

「「うっ……」」


 豹牙と白王に間所の言葉が突き刺さる。間所はそれを見て、クスクスと笑う。それが故意の発言だど言うのはその場にいる誰もが容易に理解出来た。


「皆、下を見てごらん」


 間所が指を自分達がいる場所よりも下を指差す。豹牙達は言われた通りに自分達の前にある手すりから体を突き出して下を見下げた。

そこには溢れかえる程の人間が居た。

 全員が同じ服を着ている事からここの生徒だと言うのは分かるが、その数はざっと見ただけで数千人は居るだろう。


「すげぇな……これが仙石魔導院の全生徒か」


 豹牙の手すりを掴む手が少し強くなる。自分はこの中で頂点に立つ為にここに来たのだからーーー


「何言ってるの? これで全員じゃないよ?」

「え?」


 間所の言葉に豹牙は抜けた声を発してしまう。


(これで全員じゃない? いやいや、軽く数千は居るぞ? 下手すれば万を超えてるかも……だぞ?)


 豹牙は少し唇が乾いているのに気づいた。開いた口が塞がらないとはこの事なのだろう。


「いやいや、仙石魔導院って1万人のうち100人しか卒業出来ねぇんだろ?」

「そうだよ?」

「え、じゃああんたの言ってる全生徒って何だよ?」

「豹牙君……卒業出来るのはって話であって、全生徒で1万人なんて誰も言ってないと思うよ」


 思い出してみると確かにそうだ。

 隼牙も確かに全生徒で1万人なんて一言も言ってない。


「じゃあ……全生徒は一体いくら居るんだ?」


 震える口で間所に聞く。それを面白がっているのか、間所は満面の笑みで答えた。


「4万人!」


 震えるのが口だけでは無くなってきた。先程までやる気に満ち溢れていた為に強く握っていた手は吹き出す手汗でベタベタである。


「だ、大丈夫? 豹牙君?」


 香澄が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「全く……それすら知らないなんて、君はやっぱり愚か者だね!」

「に、兄ちゃん……辞めなって」


 白王は香澄とは逆で豹牙を馬鹿にしているが、今の豹牙に白王の声は届いていなかった。


「ところで今から何をやるんですか?」


 香澄が間所に聞くと、間所は「よく聞いてくれたね」と言い、ステージのある方へと指を向けた。


「あそこに大きな椅子が7つあるだろう?」

「は、はい……」


 間所が指差す場所には確かに大きな椅子が7つ並んでおり、左に3つ、右に3つ、中央に一際大きな椅子が1つあった。


「今から行うのは、ここに居る数千人の新入生と現・七英傑が初めて対面する式さ」

「な、七英傑!?」


 反応したのは白王だった。


「お、いい反応だね。七英傑に思い入れでもあるのかい?」

「はい!七英傑は僕の憧れの存在であり、地位です!」

 

 白王の目は、いつもの自信ありげな表情とはまた違った意味でキラキラとした目をしながら熱く語っていた。そこに、いつの間にか平常運転に戻っていた豹牙が7つの大きな椅子を見つめる。


「七英傑ってどんな奴らなんだ?」


 間所も豹牙の見つめる七英傑の椅子を見つめながら語り始めた。


「七英傑って言うのはね、この仙石魔導院の上位7名にだけ与えられる称号でね。その7人はこの魔導院におけるあらゆる権利を持っているんだ」

「ん? それ前に聞いた気がするな…」

「僕が言ったんだよ! もう忘れたのか!?」


 白王が豹牙を指差して怒る。七英傑の事になるとすぐ怒るなぁと豹牙は心の中で思ったが、それを口にすればまた突っかかってくるので留めておいた。


「……やっぱ、強いのか?」


 簡単な質問。しかし、豹牙にとっては1番大事な質問だった。

それに対して、間所は今までのどの質問よりも早く答えた。


「強いね。 他の生徒とは桁が違う」


 その一言で豹牙や香澄。そして白王までもが唾を飲み込んだ。先程まで揚々としてた間所がこの一瞬だけ、本気の眼差しで答えているように見えたのが、更に豹牙達の体を硬直させる。


「さて……始まるよ」


 そんな豹牙達を気にもせずに、間所はステージの方をへと目を向けた。

それに連れて、豹牙達もステージへと目をやる。


 先程まで、数千人が話していた為に賑やかだった空気は一気に静かになり、大会場にアナウンスが流れた。



『七英傑の入場ですーーー』


活動報告更新しました。


次回も見て頂けたら幸いです

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