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1-3 白王と黒影

3話です。


活動報告書きましたので良かったら見て下さい


「えっ……かすり傷だけ?」

「う、うん。かすり傷だけ……」


 目を点にしている豹牙に見つめられる香澄の顔から段々と申し訳無さが滲み出してくる。この試験においてパートナーの魔法は大きく左右されるもの。香澄の魔法は治癒魔法と聞いた豹牙としてはこの上ないベストパートナーだっただろう。後付けの言葉が無ければーー


「かすり傷って、具体的にどれくらい……?」

「紙で指を切ったりしたくらいなら……」

「……」


 香澄の追い討ちをかけるような言葉が豹牙の気力をごっそりと削ぎ落として行く。まさか、この風薙豹牙が入学をする前から学校を去ることになるなんて…


「で、でも! 豹牙君の足を引っ張らない様にはするから!!」

「いや……まぁ、うん……頑張って?」

「そ、そんな! さっきの自信はどこにいったの!?」


 自信を失い、脱け殻状態の豹牙を必死に香澄が励ましている中で他の生徒達は魔法をぶつけ合っている。既に地に体を預けている者もいれば、お互いに傷を負いながらも闘う者もいた。


(このままじゃマズイよ……!)


 焦る香澄は更に激しく豹牙の体を揺さぶったり、叩いたりするが、それでも豹牙の正気を失った様な眼は変わらない。


「か、豹牙君ってばぁ……」


 このままじゃ本当に危ない。入学出来ないのは嫌だがそれ以上に何もせずに終わるのはもっと嫌だ。

 自分のせいで豹牙がこんな事になってるのは百も承知。それでも闘うことの出来ない香澄には、豹牙の力が必要だった。

 もしこの状態で誰かに目をつけられたらーー


「そこの少年少女!」

「ひっ……!?」


 飛んできた声の方を香澄が振り向くと、そこには銀髪の男2人が立っていた。似た様な顔立ち、身長、体格から兄弟か双子だろうか。いかにも良い所育ちの佇まいである。


「な、何でしょうか……?」

「何でしょうか。なんて一つに決まってるだろう! 僕達と闘ってもらおうか!」


 過去最高にタイミングは最悪。豹牙がさっきまでの威勢の良い様子ならどうにかなったかも知れないが、今はもう香澄の方が闘えるんじゃないかと思わせる程に萎れている。


「ち、ちょっとだけ待ってもらっても……?」

「む?何故だ?」

「こ、この人がお腹を下していて……とか、なんて?」


 苦し紛れの時間延ばしにしても言い訳があまりに酷すぎる。こんな者で騙せる者がどこに居るのだろうか。


「ふはは!この僕を前にしてお腹を下すとは何たる軟弱者だ!」


 居た。少なくとも目の前に。


「兄ちゃん見てよ。どうみても腹痛というよりも気を失ってる感じだよ」

「ん。確かに言われてみればそうにも見えるな」

「いや、そうにしか見えないよ普通……」


 弟の方がどうやら兄よりも優秀な様で、少し間抜けな兄を持った事へなのか、弟は小さな溜め息を吐いた。


「とは言え、それでもこの様な場でしっかりと気を持てぬ様な軟弱者はこれから先、この魔導院で生きて行けるわけがない! この荒木 白王(あらき びゃくおう)が成敗してやる!」


 すると荒木白王と名乗る男は手に少し白気味の電気を流し始めた。横に弟の方も手に黒い雷を帯びさせ始めた。


「か、雷?」

「そうとも。この僕……白王の聖なる雷と弟の黒影(こくえい)の影なる雷」

「僕と兄さんは2人で1つの魔法を繰り出す。だから今回の2人1組は僕達にとっては都合が良いんだよね」

「う、嘘でしょ……」


 香澄がじりじりと引き下がる間にも2人の雷の激しさは増している。すると香澄の背が豹牙の体にポンとぶつかった。それと同時に荒木兄弟が香澄達へと飛び掛かってくる。


「女性に手を出すのは世のルールとして如何なものだが、この場では仕方がない……まずは1人だ!」

「っ……!」


 香澄は眼をギュッと瞑った。闘う魔法を持たない自分には避ける事も出来ない。ただ、せめて、豹牙だけでも無事な様に身を呈した。彼の足を引っ張らない様にするには自分がいない事が一番効率が良いに決まってる。


「動かない事を評して一瞬で終わらしてやる!」


 そう言った白王だが、彼らの攻撃を食らったのかどうかを香澄は数秒経っても分からなかった。


「……え?」


 瞑っていた眼をゆっくりと開くとそこには、白王達と香澄の間に風の壁が現れていた。


「に、兄ちゃん」

「……何だこの風は?」


 突如現れた風に荒木兄弟は警戒している。もうすぐあの女性の体に攻撃が当たる所で発生したのだ。

偶然ーーーなんてことは無いだろう。この場で作り出す事が出来るのは自分と黒影を抜いた2人。しかし、女性の方は眼を瞑り、受身の形を取っていた。そうなると絞られるのはただ1人ーー


「……この風は君の仕業かい?」


 問う相手はただ1人。今まで一言も発して居なかった人間。女性の後ろに居た男ーー


「誰だ……俺の事を軟弱者って言ったやつは」

「ひ、豹牙君……?」


 雰囲気が違う。それは脱け殻状態だった時と比べても、それよりも前の威勢のよかった時やそれより前の気さくだった時の彼とも違う。また別の何かーー


「僕だよ。君がそうに違いないと思ったからね」


 白王が豹牙の問いに答える。


「……そうか。お前が俺に言ったのか」

「何か問題でもあったかな?」


 白々しく言う白王に豹牙はゆっくりと近づいていった。豹牙が歩く度に風は吹き荒れ、白王は飛ばされないように足を地に突き刺す様に立っている。


「俺を誰だと思っている……軟弱者なんて名前じゃねぇぞ」

「癇に障ったのなら失礼。取り消させてもらうよ……なら君の名を問おう」


 豹牙はしばらく無言のままで白王に近づくと、目の前まで近づき、更に彼の顔の前まで自分の顔を寄せた。

 睨みを効かせるかの様に白王と眼を合わせる豹牙。白王もそれにびくともしない。


(なんか、今の豹牙君……ちょっと怖い)


 香澄は微かに震える体を抑えるように右腕を左手でギュッと握った。


「俺は風薙豹牙。この魔導院でてっぺん(頂点)を取るつもりだ」

「っ……! ふっふっふっ……あはははは!」


 豹牙の言葉に突如として笑い出す白王。


「と言う事はこの世で1番の魔導士になるつもりなのかい!?」

「別にこの世とか魔導士とか何でも構わねぇよ。俺が居るこの場所で1番強くなれたら何でも良い」

「……なら君はあの【七英傑(ななえいけつ)】を倒すつもりかい?」

「は?何だ七英傑って?」

「「「えっ……」」」


 その場に居る豹牙以外の全員が声を揃えた。


「か、豹牙君。七英傑を知らないの?」

「お、おう……何だよお前ら全員呆けやがって」

「き、貴様……七英傑を知らずによく一番などと口に言えたな!」

「えっ?」

「七英傑と言うのはこの仙石魔導院の中での上位7名にだけ与えられる名誉中の名誉だぞ! その7人はこの魔導院におけるあらゆる決定権を保持していて、彼らの言う事は絶対! その代わりに我々、普通の生徒の模範となる事を定められているんだ!!」


 白王が怒涛の勢いで話し出し、その勢いに豹牙は思わず身を引きはするものの、白王の言葉にあった上位7名という言葉が豹牙の耳に引っかかった。


「じゃあ、そいつらをぶっ飛ばしたら俺はこの魔導院で1番になれるのか?」

「端的に言うとそうだね。でも僕に及ばない君には無理だろ。僕でも勝てる自信なんてありもしないのに」

「……あ?誰がお前より下なんだよ」

「君以外に誰がいるんだこの場に?」


「「あ?」」


 豹牙と白王の両眉間には(しわ)が寄り、互いにメンチを切っている様にしか見えない。「ちょ、ちょっと…」と慌てる香澄に、無言のまま呆れている黒影。それに気づいていない2人。


「そう言えばこれは試験の途中だったな。丁度いい……どちらが上かここで決めようじゃないか」

「おう、上等じゃねぇか。ぶっ飛ばしてやるよ!」


 白王は腕に雷を、豹牙はそれに対抗する様に腕に竜巻の様に回転した風を纏い互いに構える。


「ちょ、兄ちゃん!俺が居ないとーー」

「邪魔するな黒影!こいつの思い上がった考えを僕1人で叩き直してやる!」


「豹牙君もあんまり無茶したら…!」

「うるせぇ!これは俺とあいつの喧嘩だ!」


 黒影が白王に声を掛けるが、完全に熱くなっている白王には意味が無く、同じ様に豹牙も熱くなっており、香澄の話など聞く耳さえ持ち合わせている状態では無かった。


「はぁぁぁぁぁっ!」

「この、クソ野郎がぁぁぁぁぁっ!」


 互いに真っ正面からぶつかった拳は激しく音を立てて、爆風を巻き起こす。その爆風は辺りにいた生徒たちをも巻き込み、陽炎閣の建物にまで被害を及ぼしていた。


「このっ!」

「しぶとい奴だな!」


 ぶつかり合っていた右手とは逆で空いていた左手にも風、雷を纏わした両者がまたしても左手同士をぶつけ合う。

 その衝撃は先程と同様に激しく音を立て、爆風を呼び、同じ様に建物にまで被害を与えた。


 唯一違ったのは煙が巻き立つ中で、立っていたのが1人だった事ーーー



「ざまぁみやがれ!良いとこ育ちの坊ちゃんが!!」


 多田は豹牙1人だけが立っているのを確認すると声を張り上げる事もなく発した。


「はい。試験終了ね」


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