1-2 思わぬ展開
2話です
「それにしてもこの学園ってどこまで広がってんだ……?」
かれこれ15分は歩いているが、どこが何なのか分からないほど建物は並び、道路は舗装され商業施設も入ってる。正直、学園というよりも町と呼ぶ方が正しいだろう。
当てもなく彷徨う豹牙だったが、見ると同じ制服を着た人達全員が同じ方向へと歩いているのに気が付いた。
「これに付いていけば何とかなるかな」
その群れに入り込み、行方の分からない場所へと向かうがそれにしても広い。これは当分の間は道に迷うだろうなと思いながらもあらゆる方向から来る生徒たちと合流した。目の前にはまたしても大きな建物が建っており、天井部分には大きな文字で「会場」と書かれていた。
「げっ……入学式ってここでもあんのかよ」
嫌な顔を作りはするも、参加しなくては自分がどこのクラスなのかも分からなくなる。渋々、大きな建物の中へと入りまず最初に映りこんだのはあのパンフレット同様に夥しい数の生徒たちが席に陳列していた。
「おいおい……この中で100人だけとか勘弁してくれよ……」
立ち尽くしていても仕方が無いのでとりあえず空いている席に座るが、妙に緊張して体が変な感じがする。座った席からまた立つのも周りの迷惑になるし、かと言ってじっとしているのも今は少し耐えられない。すると横にいた女の子も見た感じ震えているように見える。今までは、一般人としか関わることが無かったので遠ざけていたが、魔導士同士なら問題ないだろう。これを機に友達作りでも始めようか。
「……なぁ、あんたもここに入学するんだよな?」
「……へっ!? あ、う、うん! そうだけど……そ、それが何か?」
「なら同級生同士仲良くしようぜ? 俺は風薙豹牙。よろしくな!」
「あ……うん。私は千田香澄。よろしくね」
「ところでさ……ん?」
折角、会話が弾んできたところなのに会場の電気が消されて、場内が暗くなる。ここからお偉いさんの話を長々と聞かされる羽目になるんだろうから、少しばかり仮眠でも取ろうと目を瞑るがその瞬間会場の司会者が発した言葉は豹牙の眠気を覚ますには十分な言葉だった。
『只今より、入学試験を行いますので生徒の皆さんは係員の指示に従って各自、指定の場所へと移動してください』
場内がざわつき始める。それもその筈、これを入学式と思っていたのだからその反応は至極当然だ。
「え……入学試験って、え? 私達ってまだ入学すらしてなかったって事!?」
「そ、そのようだな……」
学院の人たちが順に指示していて、遂に豹牙にも指示が飛んでくる。
「そこからそこの席の人までは陽炎閣へ移動してください」
ぎりぎりで千田香澄と同じグループになれた豹牙はひとまず他の人たちについていき、陽炎閣へと向かう。
建物の見た目は綺麗だし、いい感じにお洒落な感じも出ている。そんな建物の前にはちょび髭のすこし意地悪そうな顔をした男が立っていた。
「俺がお前らの入学試験を担当する多田久志だ。よろしくな」
多田は陽炎閣に割り当てられた生徒たちの数を確認すると説明を始めた。
「この入試は担当官によって試験内容が異なる。共通の条件は半分だけ合格させる事…だ」
「は、半分……だけ?」
千田香澄の顔が一気に青ざめる。まるでもう既に結果が分かっているかのように。
「俺はややこしい試験は嫌いなんだ。お前らここにいる全員で200人か…」
少しだけ多田は考えるように黙り込むと直ぐに話を再開した。
「お前ら二人一組になり闘い、100組中50組を合格にしよう。ただし組む相手は自由だが何の魔法を使うかは互いに教えてはダメだ。良い魔導士と組みたくなるのは必然だからな」
多田の突き出した条件に周りの生徒はざわつき始める。
この試験で試されるのは如何に自分の魔法と組む相手の魔法が優秀かどうかにかかっている。組む相手の魔法が弱ければ自分に掛かる負担は大きくなる。相手の魔法を直前まで分からないのは運次第という試験内容。
「中々、ギャンブル要素が強いじゃねぇか……」
「……それじゃあ1分でパートナー探して組め」
多田の言葉と同時に生徒たちが動き出す。皆少しでも強そうな見た目の人間を捜しているのだろう。
「ここに風薙豹牙がいるっていうのによ……」
「あ、あの風薙君…良かったら組まない?」
声を掛けてきたのは千田香澄。先程、会話をして声が掛けやすかったのだろう。
「良いぜ! この風薙豹牙に任せときな!」
「本当!? ありがとう!」
「あ、俺のことは下の名前で呼んでくれ」
「う、うん。分かった……豹牙君」
香澄に下の名前で呼ばせるのには訳がある。何故か昔から「風薙」と呼ばれるのには抵抗があった。何だか自分を呼ばれてる気がせず、無視をしてしまう事が多々あったからだ。まぁ、だからと言って下の名前で呼ばせるほどの仲の友達は居なかったのだがーー。
多田は時計を確認し、1分が経ったところで笛を鳴らして組んだ者同士で並ばせた。
「左から順に1番な自分の番号覚えとけよ」
「ってことは……俺たちは27番か」
「が、頑張ろうね!」
「じゃあ始めてくれ。はいスタート!」
多田が急に笛を吹き、試験が始まる。それはつまり、ここでようやく千田香澄の魔法を知ることが出来るという事だった。
「お前、どんな魔法使うんだ?」
「わ、私は傷を癒すことが出来るの!」
「おぉ、治癒魔法か! 戦いにおいて貴重だし、ツーマンセルなんてお前、この場で一番の当たりくじじゃねぇか!」
「で、でもね! 1つ問題があって……」
「何だ?」
「私、かすり傷程度しかまだ直せないの!!」
「………え?」