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1-11 圧倒的な差

11話です


凍える制裁ブリザード・ジャッジメント!」


 渚がその名を叫ぶと、豹牙の視界に白い霧が見えてくると同時に自分の肌が、その場の空気の冷たさを明快に分かり始めた。

 先程の攻撃で作られた氷の壁越しに渚と対話する。


「本当に涼しくしてくれるなんて、随分と敵思いなんだな」

「えぇ……敵に優しくするのも1つの戦略でしょう?」


 渚の実際に語る言葉とその意味は真逆。ただ豹牙を舐めているだけだ。それに対して、豹牙は軽い舌打ちで返す。


「けっ……綺麗事言いやがって」


 言うが早いか、豹牙はもう1度自分の腕に風を纏わせると目の前の隔たりである氷の壁を殴りつける。


「っらぁ!」


 殴りつけた壁につく傷は見えるか見えないか程のダメージで、変わらず豹牙と渚の境界線の様に構え続けている。


「……懲りたら?貴方も壊れない壁を殴り続けて手を痛めたくないでしょ?」

「うるせぇな。こんなの屁でもねぇに決まってんだろ!」


 渚の言葉に歯向かう様に壁を連続して殴り続ける月光閣に響き渡るのは当然、豹牙の壁を殴りつける音のみ。


「……はぁ」


 それをただ見続けるだけの渚は小さくため息を吐き、間所の方へと視線を移す。


「この戦いに制限時間はあるの?」

「ん?いや、制限時間は特に設けていないよ」

「そう……ならーーもう飽きたわ」


 渚はもう1度、未だ壊れる事を知らぬ壁を殴り続ける豹牙に視線を戻す。そのまま先程と同じ様に両手を外側に広げると誰に向ける事なく呟いた。


「そろそろ頃合いね……」

「……あ?」


 渚の言葉に豹牙が反応すると、彼女はそのまま広げられた手を握った。それと同時に先程まで白い霧だったものが急速に固まり始めていく。


「な、なんだ?」

「元々、貴方に期待はしていなかったけども……まさかここまで期待外れだとはね」

「何だと……?」


 挑発かーーそれとも本音なのか。渚の言葉に怒りを露わにした豹牙が、今までで1番大きな風を纏った腕で壁を殴りつける。

 すると、先程までビクともしていなかった壁がまるで、ガラスの様に綺麗な光の反射を豹牙に見せつけながらバラバラに砕け散っていった。


「おら……! どうだっ!」

「……これで満足したかしら?」


 自慢気な顔をしながら言ってくる豹牙に対して、渚は変わらない、静かな表情で声を発する。


「貴方の敵は私じゃなくてこれ()なんでしょ?」

「……っ! てめぇ!」


 壁が壊れた今、豹牙と渚を邪魔する障害物は無い。豹牙は戦う前、女だから戦い難いと考えていた自分をどこに消し去ったのか、自分の100%の力で渚を目掛けて拳を振るった。

 しかし、またしても触れる直前で障害物(氷の壁)が立ちはだかる。


「ほら……まだ1度も私に攻撃をしてこないじゃない」

「それはお前がこんなもん(氷の壁)作るからだろ!」

「そんなの、他の英傑なら容易く壊すわよ?」

「ーーっ!」


 渚の言葉に声を詰まらせる。


「もう少し……そうね。その壁を1発で壊せる力を身につけてから来なさい」

「な!?ふざけんな! まだ終わってねぇだろ!」


 今度は腕に纏う様な事はせず、単純に突風なんて言葉じゃ甘い程の勢いを持つ風を渚に向けて解き放とうとするーーが、いつまで経っても風は渚へと吹かない。


「……は?」


 何度、いつも容易く起こせる風を起こしてみても、反応を示さない。

 焦りの表情へと変わり始める豹牙。


「は……は? 何で出来ねぇんだよ! くそっ!」


 諦める事なく続ける豹牙。しかしそれでも尚、いつも当たり前の様に出来た魔法が使えなくなっている。

 何が起きてるか分からず呆然と立ち尽くす豹牙はそれと同時に自分の体のある異変に気付いた。


「……あれ?」


 体が動かない。ついさっきまで普通に動いていた体に力が伝わらない。握ろうとする手は開いたまま、進もうとする足は止まったまま。


「ど、どういう事だよこれ……?」



「ほら、やっぱりね」


 西園夢葉が、同じ事を繰り返すが何も起こらない豹牙を見て吐き捨てる様に言った。


「な、何で? どうしたの豹牙!」

「どうして何もしねぇんだよ!」


と、時雨と金丸が驚愕の顔で豹牙を見つめる。


「渚の魔法の所為だよ」

「え?」

「彼女の魔法は酸素を氷に変える魔法」

「空気中の酸素を?」

「そう……つまり密室のこの月光閣で全ての酸素を氷に変えたら、(豹牙)は息すら出来なくなる」

「そ、そんな魔法……って」


 聖の説明に、香澄は喉を震わせる。


「だが、渚がそれをした場合の為に生命石を持たせたんだけど……まさか別の方法で無力化するとはね」


 聖の言葉に反応したのは香澄達ではなく、身内の爆庵。


「聖、それって一体どういう事だ?」

「恐らくだけど……彼女は豹牙君の血液中の酸素を凍らせてる」

「な!? そんな凄い事出来んのかあいつ!」


 開いた口が塞がらない爆庵。西園夢葉は「馬鹿ね」と一蹴すると、動かない豹牙を見て語り始める。


「血液中の酸素が氷になるのはつまり酸素が不足するって事。そうなるとその酸素で動いている各器官が正常に働かなくなる」

「そ、そんな!それって危険じゃ!?」

「そうね。脳は正常に動かないし、肺も同じ様な症状になって息も苦しくなってくる。更には魔力の循環もおかしくなって上手く扱えなくなってしまう……今頃、かなり体がおかしいと感じてるんじゃない?」

「ひ、豹牙君……!」


 ここでこれ以上の事だろうと、これ以下の事を言われたとしても、香澄にはどうする事も出来ない。だからこそ、ひたすら無事である事を祈るしかなかった。ただただ立ち尽くすだけの豹牙を見つめながらーー



「っく……!」


 息が上手く出来ず、視界はかすみ始める。あれだけ涼しさを感じていた感覚器官も、麻痺してしまっているのか何も感じない。


「……それ(生命石)があるから死にはしないわ。だから、私達に挑もうとするその無謀な考えをここでへし折ってあげる。しっかりとね?」

「っが……く、く、っそ……」


 何も出来ない豹牙の前に無防備で立ち尽くす渚。

 本来なら絶好のチャンスなのに、今は何をどうする事も出来ない。

 かすんでいた視界は更に悪化し、遂には目の前の渚が2人、3人と見え始める。感覚としては、指先はもう有るのか無いのかさえ分からない。


「っぁ……」


 何もせず、只々見下す様に豹牙を見る渚。

 必死に崩れ落ちそうになる体を踏ん張り、下から睨みつける豹牙の目も、遂に息の出来ない苦しさに耐えきれなくなる。

 かすみにかすんでいた視界は遂に、豹牙を闇へと包み込み。それと同時に豹牙の意識は、豹牙の意識の世界から切り離された。


そんな朦朧とした意識の中で最後に聞こえた気がしたのは、間所の「終わり」と叫ぶ声と、自分の声を叫ぶ【誰か】の声だったーー



「お疲れ、渚」

「……聖」


 英傑戦終了後、誰も居ないと思っていた英傑室で聖だけが彼自身の椅子に座って待ち構えていた。


「鮮やかな勝利だったね。完勝とはあの事を言うのかな?」

「別に……入ったばかりの新入生に勝ったところで大した事ないわ」


 そう言いながら渚は、自分の椅子付近に置いてあった鞄を手にした後、一拍置いてから話を続けた。


「でも……素質はあるんじゃない?」


 その言葉を聞いた聖は「でしょ?」と言い、渚に笑顔を返した。渚はそのまま席を立ち去り部屋の外へと出ようする。聖はそれに対して一瞥したが、何の返事も無いままに彼女は扉を閉めてしまった。

 それがわざとなのか、気づかなかったのかは渚にしか分からない。


「豹牙君……今回の事で、君は一体何を感じたのかな?」


 聖以外に誰もいない英傑室で、聖はふと手元にある書類に目を通した。


「……そう言えばこの時期だったね」


 聖は一度だけ窓の外へと視線をやると、最後の人として鍵を閉め英傑室を後にした。



 1人、夕方の陽に当てられていた渚は数時間前の豹牙との戦いを思い出しながら歩いていた。


「……貴方に1つ嘘をついたわ」


 場所が学院生が運ばれ、さっき豹牙が運ばれた医療棟の横だったのは偶々なのだろうか。渚はそっちを向いたまま、独り言の様に呟いた。


「あの氷の壁を壊した事があるのは、まだ聖と廻だけよ。例え……何回も攻撃してようやく壊したとしても大したものだわ」


 それだけを言うと、再び彼女は止めていた足を動かし始めた。


今回も読了頂きありがとうございます!


さて遂に七英傑の1人目と戦った訳ですが強いですね。これより上の聖と廻はどんな強さなのか!


次回の更新は12/14(木)16時頃です。


次回も是非読んで下さいね!

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