1-10 漣 渚
10話です。
七英傑の部屋を去り、今は聖達の後ろをついて行く。途中途中で、七英傑を見かける生徒達が何やらざわめいたりしていたのを見かけた。そして、その後ろをついて行くと豹牙にも当然、注目は浴びた。
七英傑達について行き、5分と言ったところか。豹牙が連れてこられたのは入学試験の時の陽炎閣と同じ様な形ーーしかし、こっちの方が重たい雰囲気を醸し出している。
「ここは?」
陽炎閣と大きさは変わらない。聖はその建物の扉に鍵を差し込むと、両手で踏ん張って開けようとした。しかし扉な錆びついているのか、なかなかうまく開かない。
「おいおい……聖どけよ。俺がやるから」
「あ、本当?ありがとう」
痺れを切らした爆庵が、聖に変わって扉に手を掛ける。すると、先程までの聖は何だったのかーーいとも容易く、扉は開いた。
「いやぁ……ありがとう爆庵。僕ももう少し力をつけないとね」
「本当だぜ。力が無いのは朧だけで充分だ。な、朧?」
「いやいや、僕は握力30はありますよ!」
「僕だって35はあるぞ!」
聖と朧の醜い争いが始まる。それにしても、七英傑と言うのはここまで身内でフレンドリーだとは、豹牙は思ってもみなかった。もっと、お互いを牽制しあって、自分の上にいるヤツを倒そうと思ってるのかと豹牙は考えていた。それにしても、先程からの聖に対しての接し方が酷い。第一席ーーこの学園のトップでありながら、1番弄られている。そのキャラは見た目的にも、絶対に轟爆庵だろう。
「さ、入って入って?」
苦笑していた豹牙の背中を聖が押して行く。されるがままに入った扉の錆びついた建物の中は、扉とは大違い。最近建てられた様な綺麗さを豹牙に見せつけていた。
「随分綺麗だなここ」
「でしょ? 先月に改修したんだ」
本当に最近だった。
「ここは昔から英傑戦のみを行う場所。通称ーー【月光閣】」
「月光閣……なんか陽炎閣に似てんな」
「確かにそうだけど、ここは本当に授業などでは使わないからね。手入れをあまりされないから風化してたんだ」
そう言って聖は豹牙にある物を手渡す。
「何だこれ?」
渡されたのは小さな石。ただうっすらと光を放っている。
「それは生命石。簡単に言えば死なない石だよ。英傑戦だって魔法と魔法のぶつかり合いだからね。死ぬ可能性も少なくない」
「いや、本気は出すけど幾ら何でも殺さねぇよ」
その言葉を聞いて、聖は目を点にする。
「いや……これは君にしか渡してないよ?」
「は? それってどうゆう……」
「彼女が君を殺さないか心配なんだ」
「なっ!?」
たとえ七英傑とは言えども、自分の事を舐めすぎだ。豹牙は苛つく感情を抑えるのに精一杯。それを見た聖が一瞬、頭を下げた。
「君に失礼な事を言ってるのは分かる。だが、渚の魔法はそれ程までに危険なんだよ」
そう言われては豹牙も納得出来ないわけじゃない。激昂する気持ちをゆっくりと静かに抑えつける。
「審判は僕がやるよ」
「ひぇ……!」
そこに颯爽と現れたのは間所遥。全く存在に気づいていなかった豹牙はいきなりこの場に居なかった人物の声と登場に、素っ頓狂な声を上げてしまった。
その恥ずかしさを軽く咳払いして、誤魔化す。
「何でアンタがやるんだよ」
「この英傑戦は挑戦者側の担任がやる事になってるんだ。君の担任は僕だからね」
間所はそう言って胸を張る。特に張れる事は何も言ってないし、やってもいないが。
「あまり自分の生徒贔屓な判定はやめて下さいね?」
「大丈夫だよ。そこは安心してくれ明神君」
「失礼……昔、前例があったもので」
いつも笑顔な間所が一瞬、睨みつける様な目で聖を見たのは豹牙の見間違いだろうか。既に、間所の顔は普段通りの陽気な雰囲気に戻っている。
「じゃあ……始めようか。そこで隠れてないで君達もこっちに来なよ!」
聖は扉の方へ向かって声を掛ける。豹牙も、それを見て扉の方へと顔を向けると、そこからゆっくりと出て来たのは豹牙の見覚えのある人物達。
「あはは……バレちゃってたね」
「ったく時雨がでかいから……」
「はぁ!?」
香澄、金丸、時雨。先程、豹牙を快く英傑戦に出送ってくれた者たちだ。
「お前ら何で……」
「いやぁ、豹牙君と七英傑の闘いが気になっちゃって」
代表して香澄が答える。金丸達も同じ様な意見なのだろう。とことん豹牙に優しい者達だ。
「折角来たんだあそこで一緒に見ようよ」
「え!?」
聖の誘いに反応したのは金丸。聖が【あそこ】と指差す2階の場所には漣 渚以外の英傑メンバーが揃っている。
「いやいや……俺達にはまだあそこは早いって言うか……何と言うか……」
「はいはい!行こう行こう!」
「え!あ、ちょ!?」
曖昧な返事で返す金丸を無視して、聖は金丸達を英傑メンバー達の元へと引きずっていく。しかし言葉では嫌がる金丸だが行動には移さず、何なら笑顔である。憧れの存在とお近づきになれるんだから、きっと幸せなんだろう。
「さて始めようかな……2人とも準備は良い?」
聖達が二階の席に座るのを確認すると、豹牙と渚に告げる。
「勿論!」
「私も大丈夫よ」
2人の返答を確認すると、間所は片手を天へと上げーー
「試合はどちらか一方が戦闘不能。もしくは降参した時に終了としますーーでは、始め!」
勢い良く振り下ろした。
◆
「君達はどっちが勝つと思う?」
豹牙達を上から見る英傑メンバー。その中で聖が、香澄達に問うた。
「え……? それは豹牙君に勝ってもらいたいですよ」
「あぁ……俺もそうは思ってるが相手が相手だからな」
「確かにいきなり第三席はキツイわよね」
3人とも勝ってほしいとは言うが、「豹牙」とは言い切らない。香澄だけは豹牙の魔法とその強さを知ってる。しかし、金丸と時雨はそれすらも知らないのだ。
「豹牙君は風の魔法だよね?」
「え、はい。そうですけど……」
聖はじっと豹牙を見つめる。
「ならこの勝負……既に決まったわね」
「え?」
聖の横にいた西園夢葉の言葉に反応する香澄と、その言葉に首を縦に振る他の英傑メンバー達。
「さぁ……豹牙君。君にとって1番の外れクジとどう戦うんだい?」
聖のその言葉と同時に、下の階にいる間所の腕が振り落とされたーー。
◆
「っしゃあ! 行くぜ!」
豹牙は風を巻き起こし、手に纏わせると正面から渚へと突っ込んで行く。
「……」
立ったまま、防御も回避も何もしない渚。
(ここで加速してタイミングを狂わしてやる!)
走る豹牙は足元からも風邪を巻き起こし、その勢いを利用して加速する。もう渚まで数メートル。今から防御に入っても、今の豹牙のスピードには追いつけない。豹牙は大きく振りかぶり、渚へと拳を繰り出しす。そこでゴンと鈍い音がした。
手応えはあったが、しかし妙に硬い。人を殴った際の手応えとは程遠い。
まるで壁を殴った様な感触だったーー。
そこで大きく殴り掛かった反動で下を向いた豹牙は自分の顔をゆっくりと上へと向ける。そこで豹牙は目にした物を見て、納得がいった。あの手応えの正体がーー。
「……なるほど、あんた氷の魔道士か?」
豹牙の目の前に映っていたのは、渚へと届く数センチ手前で発生していた氷の壁。
「えぇ……そうよ。冷たいのはお嫌いかしら?」
渚は開始直後から1つもポーズを変える事なく、豹牙の問いに返答した。
「いや? これから暖かくなって来るから、丁度冷たいのが欲しかったところだ」
「そう……なら良かった。あなたの希望通りにしてあげるわ」
渚は発生させた氷の壁をそのまま豹牙の攻撃を遮る為に残しておくと、そのまま両手を外側に向けた。
「凍える制裁!」
読了頂きありがとうございます!
昨日、12時に更新と言ったのに2時間遅れました。
携帯のバックアップに失敗してしまい。一から書き直す羽目になっちゃいました。すいません…
さて、10話でようやく魔法バトルになりました。
渚ちゃん。僕のお気に入り♡
次話は今日の20時頃と更新予定です。
次も是非読んで下さいね!