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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第70話 痛くて悲しい

 ミュソスを置いてフギンとユメのもとに向かったヒメとガルダ、そしてツナ。

 真理の山嶺、その頂にある城のような建造物。そこに近付くと出迎えるようにフギンの姿が見えた。


 「歓迎してくれるとはな! 感激してしまうぞ!」

 「当然だろう。そこまでの輝き、この目で見ないわけにはいかないからな」


 自らの炎をさらに燃え上がらせながら叫ぶように挑発するガルダ。それに動じず、なんてことないように返すフギン。

 戦いは既に始まっているかのようだった。しかしお互いに攻撃しないのは、まだ相手の様子を窺っているからだろうか。


 「ヒメ、お前は離れているといい」

 「えぇ。そうするわ」


 ヒメを乗せたツナは山嶺の頂にある城へと降りた。

 そこに、タイミングを見計らっていたようにユメがヒメの前にやってきた。


 「また来たのかい? どうせ無駄なのに」

 「始まる前からそう決めつけるのは早いんじゃないかしら?」


 ヒメはちらっと目線を横にやる。シイトはまだ倒れたままだ。


 「そうかな? ボクと君。どっちが強いかなんて言うまでもないだろ?」

 「強さだけが全てを決めるわけじゃないわ。そもそも強さとか弱さとか、勝ち負けとか、そんなのにこだわってても意味なんてないのよ。だって目的はそこにはないんだもの」


 ヒメの目的は勝利ではない。世界を救うことだ。それはユメに対しても同じ。彼女に勝つ。それはその先へ進むために必要なことだが、あくまでもそれは、その先へ進む方法の1つでしかない。それに拘りすぎてはいけないのだ。


 「それでもだ。君が進もうとしている先へ行くためには、フギンかガルダ。ボクか君。どちらかが死ぬ必要がある。ボクが君を切り刻むだけで、ボクは君に勝てる。こんな状況からどうするっていうんだい?」


 ユメの言う通り、ヒメが圧倒的に不利なことに変わりはない。ヒメが勝つことに拘らなくても、ユメが勝つことに拘った瞬間、ヒメは敗北してしまうだろう。


 「……やれるものならやってみたら?」

 「……言ったね? 後悔、しないでよ」


 ユメは剣を1本抜き、瞬く間にヒメの心臓を突き刺した。


 「あぁぁぁ……!」


 ヒメが痛みに悶え、抑えきれない声を上げる。


 「あーあーあ。だから言ったのに。あんな挑発なんてしちゃってさ」

 「……うっ……。それは、どうかしら……」


 痛みの中、ヒメは口を開く。そのことにユメも驚きを隠せず、僅かに戸惑いを見せる。目の動きや剣を握る手など、細かなところからユメの感情が分かってしまう。


 「別に、これぐらいの痛みなんて大したことないわ……。今まで、何回も経験したもの」


 今まで何度も死ぬほどの思いをし、今まで何度も実際に死ぬ体験をした。今さら痛み程度でどうにかなるなんてことはない。


 「痛いものは痛いわ。でも、この程度なんだって、分かる。それに私は、ガルダの巫女よ。だから死ぬことなんてないわ。何度だって甦る。あの暑苦しい炎みたいにね」


 そのように語るヒメの身体からは炎が燃え上がる。炎は上へと上り、ユメの顔を焦がそうと手を伸ばすかのようだ。


 「うざったい炎だなぁ……。ここは比較的寒い場所だから、最初のうちは暖かかったんだけどね……。君も炎も、ここまでくると邪魔でしかないよ。……ん?」


 ユメに纏わり付くような炎は、次第にチラチラ、そしてキラキラと輝き始め、揺らめく炎の中に、何かを写し始めた。


 「これは……まさか!」


 ユメは炎の中に写るそれを見て、すぐさま下がろうとする。しかしヒメに刺さった剣が抜けず、動きが乱れる。


 「どうして抜けない!? ぐぁッ!?」

 「ここまで来たんですもの! 最後まで一緒にいてくれるかしら!?」

 「グッ……! うゥ……!」


 ヒメの身体から出る炎が、聖剣とユメの手を掴む。炎はユメを離すことなく、そのまま炎の中には何かが写り、映像のようなものが流される。


 「……なんでこんなものが……」


 そこに写るのは、傷だらけの少女。ユメの過去。

 ユメの家はそこまで貧乏でもなかったが、裕福でもなかった。親からは様々な期待をされて育った。金と時間と、愛情をかけられて育った。しかし親はそれらに見返りを求めた。


 「ユメちゃんなら出来るわよね? お母さん達を喜ばせてね?」


 ただ、ユメはそこまで優秀ではない。全ての期待に応えられたわけではなかった。学校のテストとか、習い事とか、受験とか……。あれをやれ、これをやれと言われ、ユメなら出来るとかそんなことを言われ、そしてやってみて、出来たこともあったが出来なかったこともあった。

 出来なかった時に返ってきたのは期待を裏切った失望の眼差し。例え期待に応えられても返ってくるのは、さらにハードルの上がった期待。


 「えぇ~意外。ユメなら出来ると思ったんだけどなぁ」

 「これが出来たんだがら、こっちも出来るよね。期待してるよ!」


 やりがいとか嬉しさとかそんなものは一切ない、言ってしまえば期待に追われる日々。心と身体を磨り減らしながらひたすらに言われたことをこなす日々。失敗が許されることのない、綱渡りの毎日。「もう疲れた」。そんなことを言える性格でも、雰囲気でもない。だけどもう、疲れた。

 そうなってくると段々と期待に応えられなくなってくる。せっかく良い大学に行って、良い会社に入って、仕事も頑張って、スキルの取得とか自分磨きとかもやったのに、何もかも上手くいかなくなってくる。

 もっと上手くやれると思ったんだけどなぁ。

 それは誰の言葉だったか。身近な人の言葉か、ユメの評判を知っている人か、あるいは自分でそう思っていただけか。それとも、誰かがそう思っているんじゃないかとユメが勝手に想像しただけか。

 今となっては分からないが、とにかく、ユメの心には深く刻まれた言葉だ。


 「私、何やってんだろ……」


 それからは、まるで自分が抜けてしまったかのような、そんな日々だった。抜け殻となってしばらく。どれだけの日々が経ったかは分からないが、身近な人達、家族とか友人とかから、「結婚したら?」などという言葉を投げ掛けられるようになった。

 すごく嫌だった。今までこんなにも頑張ったというのに、こんなにも努力してきたというのに、それらは全部無駄だったんだと、ただそう思わされた。この人達にとって、私の努力なんてものは大したことがなかったんだ。そこまで価値のあるものじゃなかったんだと言われているような気がした。


 「結婚とか嫌なんだよね」


 そう言うと大体「どうして?」と聞かれる。それに対してはだってそうでしょって言いたくなる。言いはしなかったけど。周囲の女性、母や友人なんかを見ていたら結婚がどういうものなのかよく分かる。女ってだけで家事をさせられて、子供を産ませられて、それを育てなきゃいけない。子供なんてどうなるのか分からないのに、少しでも上手くいかないと母親のせいになる。自分もそうなるのだと嫌でも気付かされる。

 だけど、それが次にユメにかけられた期待であることは分かっていた。

 だから結婚した。

 相手は見合いで親に薦められた、とくにこれといった特徴もない、なんとなく優しそうな、眼鏡をかけた、お洒落の欠片もない、真面目だけが取り柄みたいな男。年は同じくらいだが、気さくに話しかけてくるでもなく、こちらを気にかけてくる優しさと媚びへつらうことを取り違えてそうな奴。

 良い奴でも悪い奴でもなかったが、まぁ、扱いやすくはあった。

 あんなことを言われるまでは。

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