第7話 もう1人の巫女
「君が!?」
ヒメとブライの前に現れた銀髪の女性は、2人が探していた巫女であると自ら名乗った。確かにドレスという服装、雰囲気からはその気配を感じさせる。しかしブライは、確証を得られていないと、目の前の女性を疑う。
「何か証拠のようなものはあるか? 巫女だと信じられる証拠がほしい」
「待ってブライ。巫女って、そんな簡単に名乗ることの出来るものじゃないのよ。だから......」
「彼女は本当に巫女、ってことか。君がそう言うなら、そうなのかもな」
ブライは仲間の言葉を疑ったりしない。ヒメの言葉もブライは信じる。
それに、巫女だと勝手に名乗ってもメリットは少ない。鳥に任じられたといっても、名誉でもなんでもなければ、むしろ責任と仕事を押し付けられただけのようにも見える。わざわざ名乗るものでもないのだ。
「分かった。君が巫女なら、頼みがあるんだ」
「なんでしょう?」
「俺達は、人々を鳥の支配から解放するためにここに来た。この縄張りの人達も解放したい。だから、巫女である君に、この縄張りの人達を導いてほしいんだ」
ブライの言葉を聞いて、巫女は少し驚いた顔をした。しかしすぐに平静な顔に戻り、少しの間だけ沈黙した。何かを考えているようだった。
「......分かりました。あなた達が許可なくここに侵入してきたことは見逃します。しかし、私が人々を導くというようなことはしません」
「鳥が怖いのか?」
「仰ってる意味が分かりません。そもそも、私はあなた達を信じていません。例えあなた達が本当に人々の解放を目指しているのだとしても、2人だけで出来るとは考えられない。それよりも、あなた達がどこか他の縄張りからやってきた鳥の刺客であると考えた方が納得がいきます」
目の前にいる巫女の女性は、突き放したような言葉を吐く。鳥の刺客であると疑われたブライの手は、固く握りしめられていた。怒りなのか、悔しさなのか。あるいはその両方なのかもしれないし、そのどちらでもないのかもしれない。
しかしブライは、胸の奥から来るその感情を抑え込む。出会ったばかりの相手に、全てを理解しろと求めるのは、あまりにも欲しすぎている。それよりも、目の前の巫女は自分達がこの縄張りにいることを見逃すと言っていた。今はそれで十分だとすべきだと、勘が伝えている。
「確かにそう見えても仕方がないな。それでも見逃してくれるのか?」
「別に、何が起ころうとも私には関係ありませんから」
「そうか。もし気が変わったら、また会おう」
それだけ言うと、ブライはその場から飛び降りて、一気に縄張りの一番下まで向かった。
「ちょっ、ブライ!?」
ヒメはあまりにも突然のことに、その場に置いていかれてしまった。思ったらすぐに行動に移すところは実に彼らしい。しかし、周囲に止める仲間がいなければ、1人だろうとお構いなしに次へと行ってしまうのだから、巻き込まれる側になってしまうとどうしようもない。
ブライは、この縄張りにいる人々を逃がすために既に動き始めてしまった。そして残ったのは、ヒメとこの縄張りの巫女である。
「ねぇ、私も巫女なんだけど、聞いてもいい?」
目の前にいる巫女の表情が変わる。驚きと共に目を見開き、口を開ける。
「......なんでしょうか」
「あなたは、どうして巫女になったの?」
「どうして、ですか。自分からなりたくてなったわけではございません。私を巫女に選んだ鳥は、コイツでいいか、と言って、気付いたら、私は巫女になっていたのです」
「そう......」
「あなたは? あなたはどのようにして巫女になったのですか? 私は自分以外の巫女に出会ったのは初めてで、普通はどのように巫女に選ばれるのかが分からないのです」
「私も、私以外の巫女に会うのは初めて。ここに来たのも、あなたに会えるかもしれないって思ったから......。会えてよかった。苦しいのは私だけじゃなかったのね」
ヒメは、巫女を少しでも知りたいと思って、ここへ来た。ブライや革命隊、タレスには無理を言ったかもしれないが、来た甲斐ならあった。目の前の巫女は、毅然とした態度で振る舞ってはいても、自分と同じ、巫女という立場に迷う存在だったのだ。それだけで、ヒメの心は孤独感から少しだけ救われたような気がした。
「やっぱりあなたも、苦労しているのですか?」
「苦労......。そうね、そうかも。私が巫女になったのだって、アイツが私達のいた場所をメチャクチャにして、私の大事な人を殺して、それなのに私を勝手に巫女にして。だから、憎くて仕方ないの」
「大変だったんですね......。私、ミオと申します。私でよければ、同じ巫女として力になります」
「私はヒメ。ありがとう。でもあなたも大変でしょ?」
「あなたに比べればどうってことはありません。それに私、人助けが好きですから」
ミオは微笑みながら、ヒメにそう言った。今まで堅苦しい態度だったミオの笑顔が眩しい。
「立ったままもなんですし、部屋に入って。少ないけど、お茶もあるの」
「本当に!? 実はもうクタクタなのよね。甘えさせてもらうわ」
巫女である2人は笑い合いながら、ミオが出てきた部屋の中へ場所を移して話を続ける。ミオは客人であるヒメをもてなすために、あまり多くはないが、お茶とそれに合う菓子を用意した。
「ねぇ、もしかしてこれって南から来たやつ?」
「えぇそうよ。よく分かったわね。お気に入りなの」
「やっぱりそうなのね。私もこれ好きだったんだけど、しばらく口に出来てないわ」
「どうして? やっぱり鳥のせい?」
「うん。それまではたまにやってくる商人とかから買ってたんだけど、アイツが来てから商人も来なくなったし」
「ヒメが巫女をしてる鳥ってどんな鳥なの? アイツっていうけど、それだけじゃよく分からないわよ」
「とにかく嫌な奴よ! 傲慢で自分勝手、私達のことなんかどうなってもいいとか思ってんのよ! それに、私はアイツに大切な人を殺されたし......」
「嫌なこと思い出させちゃったかしら......。それなら、ヒメの大切な人って、どんな人?」
「恥ずかしいけど、ラズっていう名前で、いつも私のことを気遣ってくれて、頼りになる人だったの。あーもう! 私ばっかり聞かれてるみたいで嫌! そういうミオはどうなの!?」
「わ、私!? 私はそんな、人に言うほどのこととか何もなかったし......」
「別になんでもいいの! ほら、好きな人とかいないの?」
「え、えぇー。いないよ、ほら、私は巫女だし。巫女になる前も地味だったし」
「じゃあ好きなタイプとかは? どんな男が好みなのよ」
「えー。うーん。あ、私を巫女じゃなくしてくれる人!」
「ブライだ!」
「誰それ? もしかしてさっきの?」
「そうそう! さっきの! 私を置いて1人で行っちゃった奴! ブライならミオを巫女じゃなくしてくれるかもよ?」
「気になってたんだけど、なんなの、あの人」
「革命隊っていう組織のリーダーなんだって。良い人よ」
「革命隊?」
「そ。鳥に支配されてる人達を助け出すんだって。私もつい最近知ったの」
「ヒメは、この支配から逃げ出したいの?」
「えぇ! もちろん! ミオもそうでしょ?」
「私は......。あ! 来る!」
ミオは座っていた椅子から立ち上がり、急いで部屋の外へ出た。
「ちょっとミオ! どうしたの、急に!?」
「ごめんなさい。ここまでみたい」




