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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第69話 再翔

 「理由がなきゃ、一緒にいちゃ駄目なの!?」

 「うん。そうだよ」


 ナビは至って冷静に、そしてそれが当然であるかのように答えた。


 「理由もなく世界にいていいのは今はもう人の魂だけなんだ。僕が君たちの場所へ行くためには神様に理由を伝えなきゃいけない。ガルダにもフギンにも、世界にいるための理由があるでしょ?」

 「そんな……でも」

 「ふふっ。ヒメ、神様にでも、とか、だっては通じないよ? 僕もまだヒメと一緒にいたいけど、役目は終わっちゃったから。ここまで」

 「……」

 「そんな顔しないで。大丈夫! 僕はずっとヒメのこと見守ってるから! ほら、僕、天空の竜でしょ? だから空から見てるし、寂しくなったら空を見てよ」


 別れなんて、今までいくつも経験してきた。回数で言えば、そろそろ慣れてもいいはずだ。しかしそれでも、心に埋まらない穴が空いたかのように悲しい。

 ヒメの鼻の先が赤くなってきた。

 ナビとヒメは、今まで別れてきた仲間の誰よりも一緒にいた時間が長い。長さで言えば、ガルダの次ぐらいか。初めの頃はガルダのことが嫌いだったので、仲が良かった、好きだった相手ということなら、ヒメの中でナビに勝る者はいない。


 「うん。じゃあ私、行くね」


 ヒメは別れを悲しむ気持ちを振り切り、再び前を向き駆け出した。

 そこは道なき道。それでも足を踏み出し、前へと進むことが出来る。進んで、進んで、ヒメはいつの間にか、元いた場所、山嶺から離れた名前のない場所へと帰ってきていた。

 周囲を見渡したが、やはり、そこにナビはいなかった。


 「やっと帰ってきたね、ヒメ!」


 ツナがナビのように言う。すでにどこか懐かしさを感じるような、悲しい気持ちになるような心に包まれながら、ヒメはこれからのことに目を向ける。


 「それで、フギンを倒す力、か……」


 目の前には未だに傷だらけで倒れているガルダ。フギンを倒すことが出来る、あるいはフギンに対抗することが出来るのはガルダだけだが、ここから一体どうすればいいのか想像も出来ない。


 「そうだ、ミュソスはどう思う?」


 ヒメは知恵を頼ることにした。近くにいるミュソスからヒントを引き出そうとする。


 「フギンを倒すと仰っていましたね。私も全てを知っているわけではありませんが、そうですね……何かガルダに力を与えるもの、具体的なことは何一つ言えませんが、ヒメ様はそういったものをお持ちですか?」

 「ガルダに力を……あっ」


 ハッとヒメが思い出す。幼いガルダから貰ったもの。


 「聖油アムリタ……」


 ヒメはポケットに入っていたアムリタを取り出す。手のひらサイズの瓶に金色の油が入れられている。美しく滑らかで、ヒメはアムリタに目を奪われていた。

 その隙に、瀕死の状態であったガルダがクチバシの先をアムリタを持っているヒメの手へ当て、彼女からアムリタを奪う。


 「あっ! ちょっと!」


 ヒメがそういった時には既に遅く、ガルダはアムリタを瓶ごと飲み込んでいた。

 ゴクン。アムリタがガルダの喉を通って身体の奥底までいく音。その音の一瞬後に、ガルダの身体から突如として炎が勢いよく燃え上がった。


 「う、あ、あぁぁぁぁ!」


 ガルダは大きな唸り声共に、全身を真紅に、そして大きく燃え上がらせる。そして、そのさらに巨大となった炎の翼を羽ばたかせ空を舞い、ヒメ達の前へと降り立った。


 「これがアムリタの力……。お前が忘れているんじゃないかと不安だっだが、思い出してくれたようでなによりだ」

 「使い方が分からなかっただけよ! あなたから貰ったものだけど、その時に教えてくれれば良かったのに」

 「来るべき時に私のもとにあればいいのだ。使い方など教える必要もないだろう?」

 「そうよね! だってあなたがただ飲み込むだけだものね! そんなのいらないわよね!」


 ヒメは手にしていたアムリタの、いたってシンプルな使い方に驚きつつ、それをガルダにいじられたことに腹を立てる。


 「ふっ、顔が赤いぞ。どうした?」

 「別に! ちょっと熱いだけよ!」


 今のガルダは凄まじく熱い。その熱さ、その輝きはまるで太陽のようである。

 ヒメの顔が赤いのも、ガルダが放つ熱の影響もあるが、彼女の中に恥ずかしさと照れが混ざっていることも嘘ではない。


 「……それで、どうなのよ。フギンには勝てそう?」

 「あぁ、この力からは無限の可能性を感じる。今ならフギンにも敗けることはない」


 ガルダから絶対の自信を感じる。彼から放たれる覇気はそれを疑わせることなく、ガルダのその姿を見たヒメも、ガルダのことを信じられた。


 「さぁ、行くわよ! 今度こそフギンとユメに勝つんだから!」


 ヒメが意気込みと共に始まりの合図を出す。そこにいた者達のほとんどは頷き同意を示すが、1人だけそれに乗れない者がいた。

 ミュソスだ。


 「申し訳ありません。私はここに残ってもいいでしょうか?」

 「ミュソス……。理由を聞いてもいいかしら?」

 「あなたに渡した本を私も読んでいたら、懐かしい日々と仲間のことを思い出してしまいまして……」

 「もっと、話していたくなったのね」

 「えぇ。そうなのです。申し訳ありませんがここからは」

 「大丈夫。私達だけで行くわ。それにあなたは、ただ賢いだけの人。何か特別な力を持つわけでもない、ひ弱な人。たくさん助けてもらったけれど、きっとこの先あなたを必要とすることなんてないわ」


 ここまで共に旅をしてきた仲間であるミュソス。ソロンと入れ替わるようにして仲間になった。ムギン、ベンヌとの戦いの中で多くの助言をくれたが、それが必要とされることはおそらくもうないだろう。これからの、辿り着くべき場所まであとわずかとなった時に賢者はもはや必要ではないのだ。

 そしてそのことをミュソスも理解している。自分は力にはなれない。それなら、ヒメが成すべきことを成すまで、自分は好きなことでもしていよう。そう思ったのだ。


 「初めから、最後まであなたに付いていこうなどとは思っていませんでした。自分はそこまでの人間ではありません。むしろ、ここまで来れたことが奇跡のようです。ありがとうございました」

 「……感謝すべきは私の方よ。今まで本当にありがとう。あなたから教わったこと、絶対に忘れないから」

 「あなたがフギンを倒し、この世界の魂を救われること。ここからでも十分見ることが出来るでしょう。この身体で近くにいることは出来ませんが、心はあなたの側にいます。あなたなら大丈夫だ」


 ミュソスの言葉にヒメは頷く。ミュソスの静かな激励がヒメの背中を押す。もう出会った時のようなか弱い少女はそこにはいない。

 そしてヒメはツナの背中に乗り、ガルダと共にフギンとユメのいる戦いの場へと再び赴く。


 「私の背には乗らないのか?」

 「熱くて無理よ。そういうのはもっと冷めてから言って」

 「ははは。難しい話だ」


 軽い冗談を交わしながら、2羽の鳥と1人の少女が飛び立つ。

 もはや何も気にする必要のない戦いは、今までにないほどに激しいものになるだろう。

 ミュソスは飛び去っていくヒメ達を見送りながら、今は遠くなってしまった過去に思いを馳せる。

 いつだったか仲間達と語り合ったこと。人の苦しみとか魂の救済とか。考えは浮かぶものの、それ以上さきはなかった。自分達に人も世界も救うことは出来ないからだ。しかし目の前に輝く光は違う。自分達が出来なかったことを成し遂げようとしている。


 「それをこの目で見れるなんて、こんなにも幸せなことはないよ」

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