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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第68話 いつか来る日のために

 ベンヌは悲しそうな顔をシュナに見せた。務めを果たすことが出来なかった。シュナを苦しい目に合わせてしまった。自分に絶望した、そんな顔。

 役目を失い、灰となった翼は神に見捨てられたことをこれでもかと自覚させる。

 シュナも、平気な顔をしているが何も感じていないわけではない。もともと主人公になりたいという夢があった。別に今でもその夢が消えたわけではない。ただまぁ、自分が主人公の物語は、これで終わりかぁ、とそんな気持ちにさせられたぐらいだ。


 「ねぇ、ガルダ。あなたには悪いかもだけど、これでも良いかなって、そう思ってるの」

 「……」

 「だってあなたとの旅は本当に良いもので、ずっとこの心が踊っていたの。あなたと出会う前の人生も、それはそれで良かったけど、あなたとの冒険ほどじゃなかった。私ね、ずっと物語の主人公みたいになりたいって、そう思ってたの」

 「……初耳だな。でも、僕はそんなんじゃなかった。君を、主人公にしてあげることも出来なかった。物語の主人公は、もっと華やかで、もっと光輝いているものだろ?」

 「うん。でもいいの。たとえ少しの間でも、私の夢は夢じゃなくて、本当なったのだから。だから私は、それで満足。すごく満足」

 「そっか。……きっともうすぐ、次のガルダがこの世界へやってきて、そのガルダも、僕と君のように巫女と契約をするだろう。そして、僕たちが出来なかったことをするかもしれない。……主人公は、きっとそっちだね」

 「それ本当? なら、楽しみが増えたわ。その人たちと会えるかしら?」

 「あぁ、会えるよ。次のガルダは、僕たちを倒しにくるよ」

 「ふぅん。なら間近で見れるってことね。ふふ、本当に楽しみになってきちゃった」

 「前向きだな、君は」


 ベンヌは呆れたように笑う。そこには先ほどまでの悲壮な顔はどこにもない。そして、ここからはヒメ達に話したような、それはそれで、また別の物語が始まったような感じだった。

 それらも全て含めて、そう、私の人生は、きっと良いものだったんだ。読み続けるのが止まらなくなるような、そんな物語だった!




 そしてヒメはゆっくりと目を開く。


 「さてと、どうだった?」


 毎度の如く、天空の竜がヒメに問いかける。覚悟していたシュナの人生。しかしそれは、ヒメが想像していたようなものとは大きく違っていた。


 「どうって……。そうね、なんか、こう、思ってたものとは違ったっていうか」

 「幸せそうだったね!」

 「え、えぇ、まぁそうね」


 シュナの人生は不幸だったのではないかと決めつけていた自分を恥ずかしく思うヒメ。


 「人は見かけによらないものね……」

 「ね、なんかあんな、私可哀想です感出しといて結構エンジョイしてたよね」

 「あな、ったねぇ! 私が言葉を選んだっていうのに……!」

 「思ってはいたんだ……」

 「いや、思ってた人生と違ったっていうのはシュナだけじゃないのよ。ミオもリリィも、私が思ってたような子たちじゃなかった。見ただけじゃ、会っただけじゃ、仲良くなっただけじゃ、何も分からないんだなって、そう思ったのよ」


 楽しそうに生きている人が辛い思いをしていたり、苦しい人生を送っていそうな人が幸福の中にいたり。人の人生、人の時間は、簡単に想像出来るものではないし、想像通りのものでもない。人が相手の立場に立って物事を考えることが出来ないのは、それが難しいからである。だから、人の気持ちを真に理解するためには、その人となって、その人の人生を送る必要がある。それが真に人に寄り添うということであり、それが人を救うということである。

 しかし普通の人間にそんなことは出来ない。しかし神にならば出来る。

 ヒメは今、神の力の一端を手にしたのである。本人にそんな自覚など全くないが、これでヒメは本当の意味で、後戻りが出来なくなった。そして、天空の竜の目的も達成されたのである。


 「うん。ヒメがそう思えたのなら、もういいかな」

 「え?」

 「一応聞くけどさ、ヒメはこれからこの世界に残った魂全部を救ってくれるってことでいいんだよね?」

 「え、えぇ。そのつもりよ。でも、その前にフギンをなんとかしないとだけど」

 「フギンならどうとでもなるよ。そこは飽くまで通過点。本当に大事なのはそこからだからさ」

 「フギンを倒すことが通過点って……。確かにそうだけど、でも」

 「フギンを倒す力をヒメはもう持ってる。ほら、いつかどこかで、誰かからあれを貰ったでしょ?」

 「少しぐらい具体的に言いなさいよ……」

 「えへへ、ごめんね。でも、僕でもちょっと追いかけられない場所だったからさ。だからそれを、ガルダに渡せば、あとはガルダが勝手に倒してくれるよ」

 「そんな大事な物を、私はもう持ってる? ねぇ、なんなのそれ」

 「じゃあ後は頑張って探して! 大丈夫! ヒメなら大丈夫だから!」


 天空の竜は急に態度を変え、若干焦るようにしてヒメの背後に回り込み、ヒメの背中を押す。


 「ちょ、ちょっと! 急になんなのよ!」

 「んー! 時間切れ! 本当はもっとゆっくり話したかったけど、もうここまでみたい!」

 「時間切れって……」

 「結構無理して会ってるんだよ! 本当はこんなことズルすぎて駄目なんだから!」

 「は!? ズル!?」

 「そうだよ! だって、あの天空の竜が! わざわざこんなところまで連れてきて! 救世の予習させるなんて普通はないよ!」


 本来、人と竜が出会うことはない。竜とは人よりも世界や神に近い、超自然的な存在である。全ての人間の前に等しく姿を現すならまだしも、特定の個人に対して過度に肩入れしたり、力を貸すことは人が人の持つべき以上の力を手にすることになり、非常に危険なことだ。そのため、神の法により禁忌とされている。

 今ヒメの前にいる天空の竜は、本来であれば禁忌とされていることを神の目を掻い潜ることによってヒメをこの場に呼び出すことが出来ているのだ。そのため、神にバレるまでがタイムリミットであり、ヒメと天空の竜に与えられた時間である。


 「勝手に連れてきといて勝手に戻すとか、勝手過ぎるんじゃない!?」

 「でもここでやること、もうないでしょ!」

 「……確かに。それもそうね」

 「でしょ」

 「うん」

 「だから早く帰って! それでフギン倒して世界救って!」

 「注文が多いわね……! まぁ全部やろうと思ってたことだから別にいいけど!」


 そしてヒメは天空の竜に押されるまま、その場から前へと踏み出す。そこは地面もなく、道もない。何もない、ただただ無限に広がる大空だが、ヒメは自然に前へと進めていた。


 「そのまま真っ直ぐ進めば帰れるから!」


 後ろから天空の竜の声が聞こえる。

 ヒメは振り向き、手を振ろうとするが、天空の竜の隣には、見慣れたナビの姿があることに気付く。


 「ナビ……」


 ナビは天空の竜と共に、こちらに対して手を振っている。


 「ナビ! どうしてそこにいるの!? あなたも私とこっちに」

 「ごめんねヒメ。僕の役目はもう終わり。だからこれ以上は一緒にはいけないや」

 「役目?」

 「うん。ほら、僕は竜の分身じゃない? もともと役目があって、地上に降りたんだ。いつか使命を果たす巫女をここに呼ぶっていう役目がね。で、もうそれは叶ったから、だから僕の役目は終わったんだ」

 「でも、いいじゃない。一緒に行くことぐらい」

 「無理だよ。だって理由がないもの」

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