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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第65話 闇の中を進め

 「試す? 私が、皆を使って……。でも、もし間違いだったら」

 「そんなことないよ。間違いなんてないし、もしあったとしても、それでどうにかなるわけじゃない」


 その救済の方法を間違えたところでどうにかなるわけではない。間違えたら次に進めないだけの、試し得のようなものだ。であれば、やるしかない。

 しかしヒメはやはりその方法も分からない。より考えを詰めていかないことには分からないことだ。天空の竜はそんなヒメに助言をする。


 「ヒメは救われた?」

 「私?」

 「僕が見ている限りだと、ヒメはどこかが変わったように見えるんだ。そう、例えばベンヌと戦ってた時とか。それまでのヒメも好きだったけど、どこか迷いを持っていて、今のヒメが救おうとしている「苦しみ」を抱えた人のようだったよ。そんな時からヒメは変わっていった。だって今、あの時のような気持ちじゃないでしょ?」


 今のヒメにも迷いはある。しかしそれはあの頃とは違うものだ。あの頃、ベンヌと戦う以前。ずっとガルダに振り回されていた頃。

 どうして今のような心を持てたのか。それはきっと、いや、絶対に。あの何もない空間の中で、幼いガルダと出会ったから。もっと言えば、あそこで誰かの人生を歩んだからだ。自分とは違う誰かの人生を歩み、悩み、苦しんで、そして向き合うことで答えを得ることが出来た。その上に成り立つ今である。


 「今の私は、救われているのかしら」


 どうなのだろう。確かに、楽にはなったのかもしれない。どこか心が軽くなって、次へと進めている、そんな感覚だ。

 だけど、これを「救われている」というのとは違う気がする。じゃあ「救い」とは、なんなのだろうか。


 「私、まだ救われてないんじゃないかしら」

 「じゃあ「救い」ってなに?」

 「それは」


 ここでふと、ユメの言葉を思い出した。そもそも巫女とならなければ、巫女としての苦しみなどなかったという言葉。そんなことは何度も思った。しかしそこで気付く。「始まり」がなければ「苦しみ」が生まれることもない。この世に生まれることがなければ、この世で苦しむこともなかった。魂が無ければ、魂が苦しむこともない。

 「苦しみ」を無くすことが「救い」ならば、全ての始まりである魂が無くなってしまえば、救われるのではないだろうか。


 「魂があるから、魂が苦しむことになる。魂を無くせば、苦しみも無くなる。でも、どうすれば……」

 「それはね、魂を遡って過去を清算すればいいんだ」

 「過去の清算?」

 「そう。その魂の記憶を共有して、君も同じ道を歩くんだ。同じ記憶を持つことは、魂を溶け合わせる、同化させること。そして抱えた魂を持って、君自身が救われればいい」


 記憶の共有、魂の同化。それはすなわち、人々の人生をヒメも歩むということ。


 「君の目の前にある魂に触れれば、それぞれの人生を歩むことが出来る。君はまるで本人になったように、いや、本人になって人生を歩むんだ」


 ミオ、リリィ、シュナの魂が目の前には並んでいる。3人の魂に触れ、彼女達がどんな道を歩んできたのかを知らなければならない。

 ヒメはゆっくりと近付き、ミオの魂に触れた。




 ミオはもともと裕福な家に生まれた一人娘だった。社会的地位のある、厳格だが頼りがいのある父。美しく優しい、良妻賢母な母。その他にも親戚達からも愛され、幸せな生活を送っていたように人々の目には映っていた。

 実際ミオも幸せだったし、それで良いとも思っていた。しかしいつからか、ある程度成長し、段々と少女という言葉が相応しくなくなってきた年頃。彼女の視野が広がるにつれ、自分がどのような立場に置かれているのかが分かってきた。

 裕福ではあるものの、周囲からの期待とプレッシャーをかけられる。それに応じた、狭い進路や未来。誰もが羨むような、良い未来が用意されていた。しかしどこか納得のいかない、曖昧な、漠然とした不安が消えなかった。将来の相手とかそういうのも、何人か用意された。しかし自分で決めることは出来なかった。周囲が決めたんじゃない。ミオ本人に、意思決定の力がなかったのだ。これでいいのだろうかなんて、そんなことばかりを思う日々が続いた。だがそれでも、自分から何かをすることなんてなかった。

 そして、いつの間にか世界は滅んでいた。自分はまだ何も決めていない。何もしていない。そんな無念、心残りが、彼女の魂をこの世界にとどまらせた。

 しかし待っていたのは、何も変わらない自分。誰かに言われ、誰かに決められ、自分では何も決められない、そんな自分自身だった。気付けば彼女はいつの間にか巫女になり、いつの間にか倒されていた。


 「結局、何も出来なかった」


 そんな思いだけが、未だ魂を形作っている。




 「……これ……」


 ヒメが帰ってきた。ミオの人生を歩み、そして終えて。


 「どうだった?」

 「ミオ、こんな気持ちだったのね」


 ヒメの目の前からはミオの魂が消えていた。ヒメがミオと記憶を共有したことによって、魂が同化したのだ。ミオは今、ヒメの中にいる。


 「ミオとはあんまり話さなかったからなぁ。でも体感、すぐだったね。戻ってくるの。自分で決めない人生って、あんまり語ることもないしね」

 「冷たいことを言うのね」

 「正直って言ってよ。でもそうだと思うよ。これで良かったって思える人生って、自分で決めたこととか、自分がやりたいこととか、そういうもので出来上がってるんじゃない?」

 「そうかもね。でも、それだけじゃないかもしれないわ。与えられたことをしっかりとこなしたり、色んな人達と出会うことも、きっと良い人生のエッセンスだと思うわ」

 「うわ! エッセンスなんて言葉、ヒメから聞くとは思わなかったなぁ」

 「なんだと思ってるのよ! まぁ、ミオの記憶から借りたようなものなんだけどね。凄く勉強が出来てたのよ」

 「ふぅん。あ、次いける?」

 「もう少し浸らせて……。これでも人生を一度歩んだのよ? 色んなことを耽る時間があっても良いはずよ」

 「うーん。まぁそれならそれで良いよ。ここは時間とかないし」

 「……ここにもないのね」

 「むしろ時間がある場所の方が珍しいっていうか。ほら、時間って一方通行でしょ? 世界は回ってるからね。あっちにぐるぐる、こっちにぐるぐる。ない方が都合が良いんだよ。というか、今の発言でヒメがどこに行ったことがあるのか大体分かっちゃった。なるほどねぇ」


 ニヤニヤする天空の竜。あまりヒントになるようなものはなかったと思うが、それでも彼女は分かってしまったようだ。


 「なによ」

 「別に? いいんじゃない? どこでも、誰と何を話しても。まぁ、どんなことを話したのかは分からないけど、励まされたのかな?」

 「なんでもいいんでしょ。というか、耽させてよ。まだ受け止めきれてないんだから私は」

 「はーい」


 ミオの人生を終えたヒメ。あの時、ヒメはミオだった。ミオがミオであることを、自分が自分であることを疑う、なんてのはまずあり得ない話で、だから帰ってきた時、自分がヒメという人間、魂であることを忘れていたことに気付いた。それが他人の人生を歩むということ。これが、救いへと繋がる道。

 ミオの、恵まれていながら、満足ではなかった人生。苦しみ、悩み、迷い続けた在り方。巫女となっても最後まで救われることのなかったそれは、ヒメの魂の一部となって、これから先へと進まなければならない。

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