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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第59話 試練

 ヒメの決断に反対する者はいない。むしろ、やっとか、とか、ここで躊躇しなくて良かったと思っている者が大半である。

 そしてヒメ達はガルダ達の背中に乗り、忘却の都から飛び立ち、フギンの待つ真理の山嶺へと向かった。


 「しかし、あの2本の聖剣、フギンに仕える剣士の物だとして、一体どこから投げたのでしょうな」


 移動の途中、そんな会話が始まる。

 確かに、あれほどの威力と正確性は並大抵のものではない。場所の選定も大事になってくるだろうが、剣は魔王が復活してすぐに飛んできた。知っていたか、あるいは察知してすぐさま投げたか。どちらにせよ脅威である。想定できることは対策しておく他ない。


 「おそらく、真理の山嶺からだ。方向がそうだった」


 ガルダが言う。


 「今ちょうど、高い山が見えてきたけど、もしかしてあそこ?」

 「えぇ、そうよ。あの一番大きい山の頂上。それが真理の山嶺。おそらく聖剣はあそこから飛ばされたと考えられるわ」

 「そんなこと出来る奴がいるわけ?」

 「いてもおかしくはない。フギンだからな。どんな巫女、どんな剣士に従えていても、不思議には思わん」

 「ふーん、そう。あなたがそう言うなら、きっとそうなのね」


 ヒメはガルダとオコナの説明に納得する。

 既に目的の場所は見えている。

 真理の山嶺。荒涼とした大地が広がる中、突如として現れる山脈。その中央にある一際目立つ、巨大な山。この青々とした空と、白い雲を貫き、天まで届くほどの高さだ。そしてそこには、鳥達の大群が渦となってヒメ達の目に映る。

 ガルダ達は真理の山嶺、その頂上へと真っ直ぐに飛んでいく。高度が上がるにつれ、徐々に空気が薄くなり、息苦しくなる。

 そしてついに、ヒメ達は頂上へと到達した。もうそこには、同じ高さの大地はなく、これ以上の高さもない。これより少しでも上は、まさしく神の世界と呼ぶに相応しいのだろう。


 「ここがフギンのいる……」


 真理の山嶺と呼ばれる場所。そこはただの山の頂ではなかった。そこには、誰かが用意したであろう、まるで城のような建物が建っていた。神鳥は、ここから世界を見下ろしていたのか。まるで彼のための玉座のような、そんな城だ。


 「ガルダか。すぐに来てくれて助かる。もう待つのは、飽きたのでな」


 そのように言いながら、城に上空から飛来したフギンが降り立つ。


 「お互いに話すこともないだろう。すぐに退いてもらおうか!」


 ガルダがすぐさまフギンに攻撃を仕掛ける。翼によって作り出した炎をカーテンのようにフギンに向かわせる。フギンの視界が遮られたところで、ガルダはフギンに爪を立てた足で貫こうとする。

 しかしそんな攻撃は、まるで初めから知られていたかのように防がれた。ガルダが繰り出してきた足を、フギンもその足で掴んだ。


 「少し場所を変えようか。ここは私達には狭すぎる」


 そう言ってフギンは、ガルダを連れてその場から離れる。山頂から離れた、連なる山脈のどこか。


 「この戦いがどうなるかは、お前ではなく、お前の巫女次第だ。お前、いやガルダの名を冠する者では、私に勝つことは出来ない。そのように創られている」

 「やってみなければ分からないだろう。一度ガルダに勝ったからといって、調子に乗っているのか?」

 「私は常に自らを戒めているつもりだ。しかし神の定めは絶対。そのように設計され、そのように創られた以上、それを覆すことは不可能だ。例えるなら、この天地をひっくり返すような、そんなものだと思え」


 ガルダはフギンに勝てない。どこか、ガルダ自身も感じていたことだ。自らの強さを疑っているわけではないが、自分は勝利するために創られたわけではなく、自分よりも上の存在がいることは認めなければならない。そして、自分よりも上の存在が、今目の前にいる。


 「君の巫女は既に答えを見つけ、私達はその壁となる。君が越えるのではなく、彼女が試されているのだ。ここで戦ったところで、自分の弱さを自覚させられるだけだぞ、ガルダ」




 一方で、残されたヒメ達。


 「フギンがいなくなった……! でもどうすれば……」

 「なら、相手、してもらおうかな」


 城の奥から、カツカツと音を立てて逆光の中、誰かが歩いてくる。

 逆光が収まり、その者の姿が分かる。シュッとした身体。涼やかな顔つき。肩まで伸びた美しい黒髪。軽く、しかし身体の大事な箇所を確実に守っている簡単な鎧。そして、左右の腰に掛けられた2本の剣。

 誰もが美しいと思う、まさしく美男子だ。


 「もしかして、あなたが剣士?」

 「うーん。そうだね、そうとも言える」

 「なら僕が相手だ」


 シイトが前に出る。手には剣を持って構える。すぐにでも戦える態勢だ。


 「ヒメ。君は今の内に巫女を探せ。フギンかいない今がチャンスなんじゃないのか?」

 「! そうね! そうするわ!」

 「その必要はないよ。何故なら巫女はここにいるからね」


 フギンの剣士がそのように言う。


 「え!?」


 フギンの剣士の言葉を聞いた全員が驚く。「巫女はここにいる」。その言葉の意味。ここにいるのは、ヒメとここまで来た仲間。そして、目の前にいる剣士だけ。他には誰もいない。


 「つまり、ボクがフギンの巫女ってことさ」


 目の前の剣士がそう言い放つ。


 「紹介が遅れたね。ボクの名前はユメ。この2本の聖剣の使い手。そして、神鳥フギンの巫女……。さぁ、ガルダの使者達。ボクと思う存分、語り合おうじゃないか」


 ユメと名乗ったフギンの巫女が微笑んだ瞬間、その場にとてつもない威圧感が走った。

 ヒメは怯み、目をつぶってしまう。ヒメが目を開けると、そこにはユメに剣を振るうシイトと、それをなんなく受け止めるユメの姿があった。

 剣の、金属と金属が打ち合う音が、城の中に響く。何度も何度も、もう何度目かも分からないほどの速さで打ち合う剣。全てシイトからの攻撃。しかしユメは一切その姿勢を崩していない。


 「こんなもの? 残念だなぁ。これじゃあ本気も出せやしないよ。少年」

 「本気? ずっと守ってるだけの奴が言う言葉じゃないね。出せるもんなら出してみたら?」


 シイトがユメに挑発をかける。しかしユメは顔色一つ変えずに、まるで面白がるように、あえてその挑発にのってきた。


 「いいの? じゃあ、出しちゃおうかな。……よっと」


 瞬間、ユメはシイトの背後に立っていた。そして剣をシイトへと振り下ろす。


 「ッ!」


 咄嗟にシイトは後ろへと振り向く。だがシイトはユメの攻撃を防ぎきることが出来ず、肩から胸にかけて大きく斬られる。


 「シイト!」

 「ぐっ、う、ぁ……!」


 シイトは斬られた場所から溢れる血を抑えるように手を当て、その場に膝をつく。


 「本気を出していいって言うから出してあけだの……。それを言っていいのは、相手の本気を受け止められる奴だけだよ」


 ユメの「本気」という言葉は伊達ではなかった。ここまでヒメ達と共に戦ってきたシイトを一撃で戦闘不能にまで陥らせてしまったのだ。


 「さて、これで邪魔者はしばらく動けそうにないね。それじゃあ、本命だ」


 そう言って、ユメはヒメのもとへと歩く。カツンカツンと、ユメの足音が一定のリズムでヒメに近付いてくる。


 「ヒメ、ボクとゆっくり話をしようよ」

 「あなたと話すことなんて何もないわ。そこを退いて。私達はフギンを倒すの」

 「そんなの後でいいよ。それに、フギンを倒すんだったら今ここでボクを殺せばいい。それが出来ないのは何故?」

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