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救炎のガルダ  作者: ドカン
4章 神の翼
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第57話 魔王

 「私がどうするべきか。ようやく分かったの。今までは、自分さえどうにか出来ればいい、私さえ幸せならそれで良いって思ってた。でもそうじゃないのね。自分が救われる前に、誰かを救う。そうして初めて、私は幸せになれるのよ。私は、私に出来ることをするわ。それがきっと、使命を果たすってことだと思うの」


 ヒメはシュナやガルダ、そして自分自身に語りかけるように言う。その表情は苦しみから抜け出した、覚悟を持つ顔だ。

 決して清々しいとか、すっきりとしたとか、そういったものではない。この世界は苦しく辛いものであると知り、認めた上で、それでもなお進もうと決意した顔である。


 「……何があったかは知らないが、以前に見た時から変わることが出来たようだな」

 「だから、彼女になら任せられる」

 「そうだな。私達は、これまでにしよう」


 そう言って、ベンヌは天を向く。顔を上に上げ、静かに目を閉じた。その瞬間、ベンヌとシュナは灰の柱となってしまった。


 「どうしたの!?」

 「役目を終え、自らの意思で、その魂を神に返納したのだ。この世界に留まるための姿は役割を失い、このように灰となった。本人達が望んだことだ」


 風が吹く。かつてベンヌとシュナだった灰の柱は風に押され、その場に崩れる。2人だったものは、跡形もなく消え去った。

 ヒメの周囲からは、大勢の人の泣く声が聞こえる。


 「シュナ様……。ベンヌ様……」

 「私達を置いていかれてしまうとは……」


 民衆達は、ベンヌとシュナがいなくなったことを嘆き悲しんでいる。その場に倒れるものまでいる始末だ。


 「ベンヌとその巫女は、本来この世界で活動することの出来る時間を大幅に超えていた。長く留まりすぎていたのだ。無理をして、形を保つのもやっとだったのだろう。私とお前に使命を託すことで、未練がなくなった。私にはそう見えた」

 「重いものを託されちゃったわね」


 託されたのは使命である。しかしそれは形もなく、目に見えるものでもない。しかし、シュナ達が残した民衆が、ヒメの目には使命の証のように写る。


 「どうやら終わったみたいね」


 背負うことになった使命の重さを感じていたヒメの前に、別行動をしていたオコナ、ムウ、モロ、ツナがやってくる。


 「オコナ、どこに行っていたの?」

 「ちょっと用事があってね。それを済ませてたのよ」

 「用事?」

 「えぇ」


 そう言ってオコナは、持っていたものをヒメに見せるように、目の前に置く。


 「これって……聖剣?」


 そこにあったのは3本の聖剣。どれも見たことのあるものだ。


 「そう。2本は世界樹から。そして1本はすぐそこね」

 「つまりそれって……」


 ラズとブライ、そしてゴウマの聖剣だ。それぞれ、保有者がいなくなったことでオコナ達が回収したのだ。


 「私達が持ってきた3本。ここにある1本。そしてシイトが持っている聖剣。合わせて5本……」

 「聖剣なんか集めて、何をするつもりなの?」

 「魔王を倒すのよ」

 「え、でも魔王って。あ、もしかしてベンヌがいなくなったから……」

 「そう。魔王はベンヌによって封印されていた。だけどベンヌがいなくなったことで、魔王の封印は解かれようとしているの」

 「そこまで、考えてなかった……」

 「いいのよ。魔王はいずれ復活する定めだった。仕方のないことよ」

 「魔王の封印を継続するよりも、ベンヌから使命を引き継ぐことの方が重要だ。魔王なんてものは、ただ倒せばいいだけだからな」

 「倒すって、そんなこと出来るの? ベンヌはもういないのよ?」

 「魔王はベンヌの力だけで倒したわけじゃないわ。聖剣を使ったのよ」


 人が持つことで、鳥さえ倒すことの出来る力を発揮する聖剣。何故、それがあるのか。なんのためにあるのか。今まで考えもせず、ただ鳥を倒すための道具として使っていたが、どうやら違うらしい。


 「神が魔王を倒すために与えた、いわば神の剣。それを7つに分けたものが、この世界では聖剣と呼ばれているのよ」


 かつて聖剣は1本の剣だった。ベンヌはそれを使って魔王を封印するに至った。聖剣はその後、7本に分けられ、現在のように各地へと散らばっていたのだ。


 「で、その魔王はいつ頃復活するの?」

 「すぐよ」

 「え?」

 「すぐに復活するわ。ベンヌがいなくなったんですもの。長く待てる性分でもないし、意気揚々とやってくるんじゃないかしら」

 「それってどこから」


 ヒメがさらに質問をしようとした瞬間、地面が揺れ、街の廃墟が次々と倒れ、瓦礫と化していく。ヒメや民衆の足元からは小さな羽音が段々と大きくなり、亀裂の入ったじめんから、隙間を縫うように手のひらサイズの小さな虫が大量に出現した。

 その虫達は、群れを成し、まるで黒い竜巻のようになる。


 「これが魔王……!?」

 「いいえ! こんなのはまだまだよ! 本当の魔王は」


 次の瞬間、数本の竜巻の中央から、地面から這い上がるようにして巨大な手が現れる。細く、刺々しい、3本の鉤爪を持った手だ。

 そして、魔王がその姿を見せる。ヒメが幼いガルダと映像で見た姿そのままだ。まるで竜、異形の竜とでも呼ぶべき姿からは禍々しさを感じる。


 「魔王ベルゼブブ! 理性なき醜い怪物! 考えなしに出てきてくれたことに感謝するぞ!」


 ガルダはそのように叫び、魔王との戦いが始まった。

 ガルダの炎が、魔王へと浴びせられるが、周囲の、虫によって形作られた竜巻によって阻まれる。

 オコナ達も戦いに加わるものの、その小さな虫が集まって出来た群れには、巨大な鳥の攻撃はあまり有効であるようには見えない。


 「グゥ、グァァァァァ!!」


 魔王が叫び、暴れる。その場の全てを破壊し尽くそうとする光景に、民衆はただ怯えることしか出来ない。


 「ひ、ひぃぃぃ!」


 ある者は逃げ、ある者はその場で立ち竦み、ある者は頭を抱えて伏せている。それぞれが目の前の恐怖に対してなす術もなく、ただ襲われるのを待つことしか出来ない。

 ガルダの炎が魔王と、その周囲の虫を飲み込んでいくが、次から次へと現れる虫達に、たとえ効いていたとしても状況を優位に進めていけるほどの力はない。

 まるで世界の終わりを見ているかのようだ。


 「そうだ、聖剣は……」


 ヒメが周囲を見る。オコナ達が置いた聖剣がそこにはあった。ヒメはその中から聖剣を1本だけ取ろうとする。


 「痛っ!」


 しかし、聖剣に触れたヒメの手に、痛みが走る。まるで聖剣がヒメが触れるのを拒んでいるかのようだ。


 「どうして……」

 「聖剣は選ばれた者にしか扱うことは出来ないの! それは人も鳥も関係なくね!」


 オコナがヒメにそう説明する。


 「そんな! だったらどうしようもないじゃない!」


 この場で聖剣を持っているのはシイトだけ。そのシイトは、何も言わずに戦ってはいるものの、やはり限界はある。


 「シイト1人じゃさすがに……!」

 「聖剣がここに揃っていることが重要なの! そうすれば、聖剣はもとのような力を発揮出来るはずよ!」

 「揃ってるって、聖剣は7本あるんでしょ!? ここには5本しかないじゃない! 残りの2本は!?」

 「分からないわ! それだけしか見つけられなかった! だから、それでもやるしかないのよ!」

 「どうにかって……。せっかく使命を継いだのに……生きる意味が、見つかったっていうのに……」


 魔王への対抗策が万全ではない状態での戦い。

 ヒメはここで終わるわけにはいかないと思いを抱くが、だからといってこの状況を打開出来るわけではない。

 そこに、空から巨大な影がやってきた。

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