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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第56話 託される思い

 シイトがシンを討っても、ヒメの前には変わらずシュナが立ち塞がる。

 お互いに見つめ合う。このようにして顔を合わせるのは初めてだが、2人の間に無駄な言葉は必要ない。なぜなら既に2人はお互いのことを分かっているからだ。

 かつて自分が歩んだ道を進もうとするヒメを見つめるシュナ。自分が歩むかもしれない道の先に立つシュナを見るヒメ。2人の運命は交差するが、交差した線は全く異なる方向へと進む。シュナはそのことを理解し、ヒメは決意する。

 既にシュナはヒメに自分達が果たせなかった使命を託す気でいた。


 「あなたに、伝えたいことがあります」


 遠い場所にいたシュナは、ベンヌの翼に運ばれ、ヒメの近くまでやってくる。


 「この世界のことです。この世界がなんなのか、あなたはご存知ですか?」

 「知っているつもりよ。魔王によって滅ぼされた、終わりを待つ世界……」

 「それは確かにそうです。しかし、もっと根本の、魔王が滅ぼす前の、この世界の役割についてです。この世界はもともと、輪廻の果てとして用意された世界でした」

 「輪廻……?」

 「はい。生命は一度死ぬと、別の世界で別の生命となって生まれ変わるのです。そしてそれを何度も繰り返すこと。それが輪廻です。つまり、この世界とは違う世界で死んだ魂が、この世界で新たな生命として生まれ変わる。この世界は輪廻の終着。神が用意した、魂が終わる場所でした」


 生命を失った魂は、世界を変えて生まれ変わる。何度も何度も生まれ変わった先に、全ての魂は、今ヒメ達が生きるこの世界に生まれ落ちるのだ。


 「なぜ魂は輪廻をするのでしょうか。それは罪を浄化するためです」

 「罪ってなによ。人を殺したりとかすること?」

 「それもありますが、最も罪深いとされることは執着を捨てないことです。生きたいと思うことや愛されたいと思うことも罪になります」


 人殺しや窃盗、虚言といったものから、シュナの言った執着を持つことも浄化されるべき罪になる。形の有る無いに関わらず、執着を持つことは最も重い罪であるとシュナは言う。何故なのか。


 「どうして執着を持つことが罪になるの? それも一番重い罪に。何も迷惑なんかかけないじゃない」

 「執着を持つと幸福になれないからです。魂を苦しみへと貶める執着は、神にとって最も罪深いもの。私も伝え聞いたことでしかありませんが、強く否定も出来ません。むしろ納得してしまいました」


 そのように語るシュナは、ヒメから目線を外し、周囲を見渡す。そこに広がっているのは、かつて人々が賑わいを見せていた街だった場所。


 「この街はかつてこの世界が繁栄していたことの名残。ここで生を謳歌していた魂が、神のもとへ行かず、この世界に残り続け、やがてそれが重力となり他の世界の魂すら引き寄せてしまった。本来は罪を清めるべき世界で、さらに罪が重ねられていくのを危惧した神が、魔王を送り込んだのです」

 「魔王を……? でも魔王って」

 「はい。魔王は神から使命を受けたベンヌと私がこの地に封印しました。神が魔王を送り込んだのは、この世界にこれ以上魂がやってこないようにするためです。そして、残った魂を鳥によって解放、神のもとへ送る、ということです。鳥は人を襲いますが、あれは魂を回収しているという方が正しいと思います。この世界で他者の魂を奪うことが許されているのは、鳥と聖剣だけ」

 「襲っているように見えて、鳥からすれば違ったってこと? じゃあ今まで鳥にやられた人達は皆……」

 「はい。神のもとへ向かいました。神は、その魂が望む望まないに限らず、強引に全ての魂を天に戻そうとしています。人を超えた神がそう考えるのです。人は長く世界に留まりすぎたのかもしれません。還る時が来たのです。もう止めることは出来ませんよ」

 「そう……。でもあなた達は、そんな、まだ残っている人達を鳥から遠ざけてる。どうして……?」


 ベンヌとシュナは、世界の運命も、仕組みも、神の思惑も全てを理解しているようにヒメからは見える。ではどうしてベンヌとシュナは傍観者として身を引くようなことをせず、この街に残り人々を守り続けているのだろうか。


 「それは、私達の目指すもののためでもあります」

 「目指すもの?」

 「私達は、全ての魂が自ら望んで天へと還ることを望みました。願ってもないのに、準備も出来ていないのに、神や世界の都合で浄化されてしまうなんて、嫌じゃないですか」


 シュナはそう言って、ヒメに楽しそうな笑顔を見せる。鳥や神は、世界の終わりと魂の置かれた状況を理解し、ひとつひとつの魂の都合など知らないといった態度で、魂を天へと還らせ、世界を閉じようとしている。

 しかしベンヌとシュナは神のそのような態度とは全くの逆だ。むしろ神や世界の都合など知らないから、ひとつひとつの魂にとって納得のいく終わりを与える。そういうものを彼女達は目指していた。それが、ベンヌとシュナがここで残された人々を守り、共に暮らす理由である。


 「でも、私達は失敗した。神鳥フギンと、その巫女に敗れて……。彼らはとてつもなく強かった。私達では歯が立たなかったの。これから先、あなた達に待つのは、神鳥フギンとの戦い。今までにない辛い戦いになるでしょう。だけどあなたを見てるときっと大丈夫だって思えるわ」

 「そうかしら。何も特別なことなんてないけど……」

 「ううん。もう十分に特別よ。あなたには仲間がいる。それだけで、フギンへの切り札になる」

 「仲間が? まぁ、頼りにはしているけど……」

 「例えば……フギンは千里眼を持っているわ。そしてフギンは、その千里眼を使って自由に未来を見ることが出来るのよ。あなたの側にもいるでしょ。千里眼を持つ子が」

 「ナビ……」


 シュナの話によれば、フギンは千里眼を持つという。好きなように未来を見て、知ることが出来てしまえば、その時々によって最適な行動を取り、どのような戦いにおいても敗けることはないかもしれない。

 ナビもフギンと同様に千里眼を持つ。しかしナビの持つ千里眼は自由に使えるものではなく、本人の意思とは関係なく発動するものだ。


 「確かにひとつひとつの力は劣るかもしれない。だけど、あなたは向こうと同じカードを持っている。そこが私やベンヌとの違い。そして、そのカードひとつひとつが、フギンすらも超える力になる……って私は信じています。そう、だから、あなた達になら出来るかもしれない。後は、あなた達に任せます。ね、ベンヌ」


 シュナは隣にいるベンヌに呼びかける。


 「君がそれで良いのなら、僕もそれでいいよ」

 「これはもともとあなたの使命なのよ? ちょっと無責任じゃないかしら」

 「え、あぁ、いや。そんなつもりで言ったんじゃないよ。僕はただ君が満足なら、使命なんてものは」

 「ふふっ、知ってるわ。少し遊んだだけ」


 シュナがベンヌをからかう。

 ベンヌは既に使命を果たせる立場にない。彼にとって今、最も優先するものはシュナの思いになっていた。そしてシュナもそのことを知っている。知っててからかった。


 「ね、あなた達もそれでいいでしょ?」


 シュナがヒメに聞く。そしておそらく、ヒメの隣にいるガルダにも聞いている。しかしガルダは答えない。ヒメの応えを待っているようだ。


 「えぇ。もちろん。そのつもりよ」

 「ありがとう。そういえば、名前を聞いてなかったわね。私はシュナ」

 「私はヒメ。私、必ずやり遂げてみせるから」


 シュナはヒメのその言葉を聞き、満面の笑みを見せた。

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