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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第55話 罪と向き合え

 「……」


 そしてヒメは目を覚ます。ここはさっきまでの場所じゃない、元いた世界だ。


 「ヒメ!」


 ナビが目を開けたヒメを見て、喜び叫ぶ。

 ヒメを包んでいた微かな炎は、勢いよく燃え上がり、ヒメの傷を瞬く間に治した。


 「す、すごい……」


 メラメラと燃えていた炎は、ヒメの傷を完全に治した後、何事もなかったかのように消えた。

 ヒメはその場にいたナビを抱き抱え、頭を撫でると同時に感謝を伝える。


 「ナビ、ありがとう。ずっと側にいてくれてたのね」

 「ん、うん。そうだよ。でも別にこれぐらいどうってこないよ」

 「ううん。そんなことない。そしてごめんなさい。あなたにも、酷いことしちゃった。皆にも、謝らないとね」

 「なんか、今のヒメ、いいね。好きだよ、僕」

 「ふふっ。私も」


 そのように談笑しながら、ヒメは自分の手に何かがあることに気付く。握られたその手を開くと、そこにあったのは小さな瓶。


 「アムリタ……。あれは夢じゃなかったのね……」


 その手にある聖油アムリタを見て、ヒメは幼いガルダとの事が夢でないことを理解し、そして静かに再び決心する。


 「行きましょう、ナビ」

 「? どこへ?」

 「戦いの場へよ。そこで、私は私に与えられた使命を果たさないといけないのよ」


 そう言って、ヒメは立ち上がり、ガルダとベンヌのもとまで赴く。

 戦い続けるガルダとベンヌ。そこにヒメとナビがやってくる。


 「ガルダの巫女……!」

 「ふん……。ヒメ……!? これは……!」


 ヒメの存在に気付くベンヌとガルダだが、ガルダはまるでヒメにその目を釘付けにされたかのように、ヒメの方を力強く見続けた。

 彼の頭の中に、今までになかった記憶が流れる。ヒメを見たことで、自らの幼かった頃の記憶が甦ったのだ。

 ガルダはすぐさまヒメのもとへ飛び、彼女の近くにその翼を下ろす。


 「ヒメ……」

 「思い出したのね。私はついさっき会ったところだけど」

 「そうか……。あの時のお前は今の……。思わぬ僥倖……。いや、これも運命か」

 「運命……。えぇ、きっとそうね」


 ガルダの隣に立つヒメの顔は、晴れ晴れとしており、今まででは考えられないほどに清々しい。その変化にガルダも気付く。


 「ふっ、いい顔をしている。迷いのない、美しい顔だ」

 「口説いてるの? 別にいいけど。まぁ、私は? 昔のあなたの方が好きだけどね。いいのよ、口調を戻しても」

 「……また今度にしておこう。ふざけている場合でもないしな」

 「恥ずかしがっちゃって。でも本気よ? これからの私はずっとね」


 ガルダとヒメは軽い冗談を交わしながら、ベンヌの方へ向き直る。

 何かが変わった。そのことをベンヌも感じ取っていた。


 「先程までとは違う……。一体何が……」

 「きっと答えを見つけたのよ。私達と同じか、それとも違うものかは分からないけれど、あの人達にとって答えといえるものを」

 「シュナ……」


 ベンヌの隣にはいつの間にかシュナが立っていた。

 シュナはヒメを見る。そこにかつての自分を写し出すかのように、懐かしむかのように見つめる。


 「清々しくて、立派な顔……。あれがガルダの巫女なら、きっと……」

 「まるでかつての君を見ているようだよ。敵ながら素晴らしいと言わざるを得ないかもな」

 「いいえ……。あれは昔の私以上よ。私以上の、折れない心、燃え尽きることのない熱い気持ち……。何よりも大事だった……。でもあの人達なら、きっと大丈夫ね」


 シュナはまるで、ヒメの姿に見惚れているかのようだった。シュナの目には、今の自信に満ちたヒメが美しく映る。

 かつて自分達が犯した失敗と、辿った末路。決してそうはならないだろうと感じさせるほどの、強い姿。

 一方で、ヒメもまた、その目で初めてベンヌの巫女であるシュナを見る。


 「あれが相手の巫女……。隣の鳥と一緒に魔王を封印したっていう」


 シュナがヒメを強く美しく見たのとは対照的に、ヒメはシュナのことを弱々しく見ていた。まるで何かを諦め、それでもなお縋るようなそんな姿。燃え尽きた、まさしくそれを体現したような姿に見えていた。それでも、ヒメは目の前に立つ巫女が何をしてきたのかを知っている。その功績に対する尊敬は持っていた。


 「あれを越えなきゃ、この先はやっていけない。そういうことよね」

 「あぁ、そうだ。そのためにここにいる」


 かつて使命を果たすことの出来なかった鳥。それに負けてしまうようでは、ガルダはガルダの名が持つ使命を果たすことは出来ない。

 両者がにらみ合い、そして戦いが始まろうとしていた時。

 ヒメの後ろから何者かがヒメに対して剣を振り下ろした。


 「シン!」


 それはヒメのもとから離れ、シュナのもとにいることにしたシンだった。彼の振るった剣は、ヒメの顔を掠める。

 シンの顔からは怒りと絶望に染まったことが感じ取れる。決して激しい感情ではなく、静かで、しかし重厚な感情。

 それが自分のせいであるとヒメは理解した。斬りつけられてなお、シンの方を向き、今の自分の気持ちを伝える。


 「ごめんなさい。あなたには、酷いことをしてしまったわ」

 「今更……!? そんなんじゃ、何も良くならないよ!」


 シンは再びヒメに対して剣を振るう。勢いよく振り下ろされる剣の軌道は、ヒメを真っ二つにする容赦ない線を描こうとしていた。

 しかしそうはならなかった。


 「シイト……」


 ヒメとシンの間に割り込んだシイトがシンの剣を止めた。シイトはシンの剣を振り払い、攻勢に出た。

 シイトはシンを圧倒する。


 「ぐっ……!」


 シンはシイトに手も足も出ず、まともに攻撃することすら出来ず、守ることで必死だ。シンのその目には悔し涙のようなものが流れている。


 「なんなんだよ……! なんなんだよこれぇ……!」


 こんなはずじゃなかったというようなシンの、振り絞って出した声。

 しかしシイトはシンのその言葉、その様子に目も繰れず、同情して手を抜くこともなく、ただひたすらシンを攻撃していく。その剣先には、普段の彼にはない怒りが乗せられていた。一言も発さずにただ目の前の敵を倒すことに集中する。

 そしてついに、シンが防ぎきれなくなったところに、シイトが容赦なく一撃を入れた。


 「うぁぁ……!!」


 シンの胸にシイトの剣が刺さり、大きな傷を作る。シンは痛みに悶えるが、そんなものはただの隙でしかない。さらにシイトがシンを剣で斬りつけ、いつしかシンの声も聞こえなくなった。

 シンは死んだ。その場に倒れ、ようやくシイトの攻撃は止んだ。


 「はぁはぁはぁ……」


 息を切らすシイト。

 倒れたシンのもとにヒメが駆け寄る。誰がどう見ても死んでしまったシンの目には涙が溢れていた。それを見て、ヒメは自分がしたことの罪深さと重さを知った。


 「ごめんなさい……。シン……。私が、あなたをちゃんと見ていれば……。愛していたら、こんなことには……」

 「今更……だね」

 「えぇ……。許されないことだって、分かってる……」


 シンはただヒメに見てもらいたかった。愛してもらいたかったのだ。しかしヒメがそれに気付いた頃にはもう遅かった。苦しみの記憶に支配されていた頃のヒメに、そんな余裕はなかったのだ。だがそれは決して言い訳になどならない。シンはそんなこと知らなかったのだから。


 「言っておくけど、君を助けたわけじゃないよ。ゴウマの仇を討った。それだけ」

 「えぇ、そうね……」

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