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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第51話 真実

 「ずっと気になっていたの。私が見た記憶ってなに?」

 「記憶、ですか?」


 ヒメはあの廃墟と化した街で頭の中に流れてきた記憶が残っていた。今とは違う生活、今とは違う風景。そして苦しみ。ヒメを苦しめたあれは一体なんだったのか。


 「それを見た場所は?」

 「えっと、確か忘却の都とかなんとかって」

 「ソドムですね。あそこには確かに多くの思いが残っていますね。でも記憶を見る、なんてことはないと思いますよ? 他に何かしたんですか?」

 「他……。そこではとくになにもしてないわ」

 「じゃあそれ以外の場所です。例えば、記憶の海とか」

 「そこなら行ったわよ。それで、確か魚を食べて……。そういえば頭痛がしたのもその時からだったかしら」

 「ならそれで決まりですね。そこであなたは何かしらの記憶を得た、もしくは記憶の下地を得た。そしてソドムへと行ってしまったことによって、過去に生きていたあなたに似ていた人間の記憶が入り込んでしまったんです」

 「似ていた人の記憶? じゃああれは、過去に実際にあった出来事ってこと?」

 「はい」

 「でもあの中じゃ、今と何もかもが違っていたわ。人の暮らしも、思ってることも、そう、後は鳥がいなかったわ! 全然いなかったの! そんなのおかしいわ!」

 「おかしくはありません。それは実際にあったことです」

 「本当にあったっていうの? あんなに違ったのに……」

 「気になりますか?」


 ヒメが見た記憶が、ヒメが生きる世界にどう繋がっていくのか。ヒメにはまるで分からないが、その点と点はどうやら線で繋がるらしい。

 そして、目の前にいる幼いガルダは知っている。


 「えぇ。何があったの?」

 「いいでしょう! お教えします! まずはあちらをご覧ください!」


 そう言ってガルダが翼で指した方向には空中に映像のようなものが流れてだした。


 「なにこれ」

 「ここから外の世界で何が起こったのかが分かるんです! だからこれを見れば、あなたの知りたいことをすぐに知ることが出来ます!」

 「そんなことが出来るのね……」

 「言ったでしょう。ここは世界の外側だと。窓越しに覗くような感じです。ではさっそく見てみましょう!」


 そう言ってガルダが映した光景は、ヒメが記憶の中で見たものと全く同じものだった。今では考えられないような輝く街。誰もがお洒落に着飾りながら、人混みの中を歩く。


 「そう、これ。これよ! 私が見たのは!」


 興奮しながらヒメが言う。言っても伝わらないだろう頭の中にあるものがそのまま出てくれば、驚きもする。


 「そしてあなたが見た記憶というのは……そうですね、目を閉じて念じてみてください」


 ヒメはガルダに言われた通り、目を閉じて、見た記憶を思い出すように頭の中で念じる。すると映像が切り替わったかのように、映し出される光景が1人の女性を中心としたものになった。


 「もう目を開けて大丈夫ですよ。あなたが見たのはこの方の記憶のようですね」


 そこにいたのは、完璧ではないにしてと少し整った顔の若い女性だ。茶色い髪の毛にそれなりに手入れされた肌。流行りというわけではないが、簡単に着こなせる無難なシャツとズボン。どこにでもいるような普通の女性だ。


 「これが……これが私が見た記憶の……?」

 「はい、どうやらそのようです」

 「でも、私が見たのは、もっと私にそっくりで……」

 「この方は色々とトラブルを抱えているようですね。家庭のことや異性のこと、子供のことなど。後は定職に付けていませんから金銭的な問題もあるようです。見た目に関しては、あなたが入れ込みすぎたのではないでしょうか? 外からこの方を見る、というよりまるでこの方になったようだった、みたいな」


 ヒメは黙ってしまった。確かにあの時はまるで自分が、この映像の中の世界で様々な苦しみを抱えながら生きていた。感情移入、あるいは錯覚していたのかもしれない。


 「そしてそのまま仲間のもとへ戻り、あなたは記憶に影響されたまま、周囲に当たってしまった」

 「皆には、悪いことしちゃったわね……」


 再び罪悪感に苛まれる。悪いこと、どころではないが、他にどう言えばいいのかも分からない。


 「まぁ、とにかく、これでお分かりいただけたでしょう? あなたが記憶の中で見た世界は本当にあったんです」

 「そういえばそんな話だったわね。それで、ここからどうやって私達が生きている世界に繋がるのかって……。ちょっと気分が沈んじゃったけど……」

 「ちょっとどころではない気もしますが……。まぁ、沈んだということはそのうち浮かんでくるものもありますよ! というわけで、話の続きです!」


 ガルダは気分を切り替えることをヒメに強いたりはしなかった。優しいのか、放任的なのか、とにかくガルダは話を続けた。


 「あなたが見た記憶は、あなたが生きている世界の約150年程前になります。その間に世界は一旦滅んで、あなたが生きている世界のような形になったのです」

 「……ちょっと待って。その、150年程前ってなに? それは何かを表してるの?」

 「……あぁ、そうでした。もうその時代には時間を数えないんでしたっけ。夜もないですもんね」

 「夜?」

 「世界には昼と夜というものがあったんです。昼には世界が明るくなり、夜には世界が暗くなるんですよ」

 「え!? 世界が暗くなるの!? どういうこと!?」

 「そのままの意味ですよ。空が暗くなって何も見えなくなるんです」

 「見えないって、それじゃあ、その間は何をしてるのよ」

 「眠るんです。横になって、明るくなるのを待つんです」

 「なにそれ……」


 初めて知る概念を飲み込むことの出来ないヒメ。空と世界が暗くなってしまう、そんなことは考えたことがなかった。


 「ちょうどあなたがここで目を覚ましたような、そんなことを以前の世界で人々は定期的に行っていたようです」

 「大変なのね」

 「ただ、あなたがいた世界でも時間は流れています。あなたが巫女になってから、大体2週間程、ですかね」

 「2週間……」

 「0…1。これが1秒。そして60秒で1分。60分で1時間。24時間で1日。7日で1週間。4週間で1ヶ月。12ヶ月で1年。大体そんな感じです。長いのか短いのかは感じたままでしかありません」


 色々なことがあった。思えばちゃんと休めていない気もする。2週間というのがどれぐらいなのか、ヒメにはなんとなくだけしか分からない。あっという間な気もするが、手に入れたものや失ったものを数えれば、決して短いとは言えない期間だったからだ。


 「また話が脱線してしまいました……。とにかく、150年程前です。世界が一度滅びました」

 「無くなった、ってこと?」

 「はい、そうです。まぁ具体的に言うと街などは残ったりしたんですが。人間が絶滅したことを世界が滅んだと表現しました。世界には人間が満ち満ちていたので」

 「満ち満ちていたって、どれぐらい? 1000人とか?」

 「いえ、約100億人です」

 「ひゃっ……!」

 「それはもう世界中にいましたよ。世界を埋め尽くすほどだったので、人間達がこの世界から脱出しようとかなんとかって……。まぁ、その前に滅んだんですけどね」


 今は見る影もない人類の繁栄。世界は以前、人類の支配によって成り立っていたのだ。


 「人類が絶滅したのは先程も言ったように約150年前。ある日のことです。いつものように夜が明けようとした頃にそれは始まりました。人類は7日で滅んだのです」

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