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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第50話 心が流れ着く場所

 「少しは落ち着いた?」


 シンの頭を膝に乗せていたシュナが、シンに顔を覗き込みながら聞く。

 シンはここでしばらくの間、シュナに介抱されていた。それはとても心地よく、落ち着いたというのも少しだけなんかじゃなく、気持ちの良い朝ぐらいの、これ以上ないほどに心と身体を休めるものだった。

 そのシュナの自分に対する献身的な態度に、シンは頬を赤らめながら感謝を伝える。


 「……ありがとう」


 その後、シンはシュナの膝から起き上がる。


 「母さんのもとに帰らないと」

 「帰ってしまうのですか?」

 「……嫌なの?」

 「確かに寂しいわ。でもあなたが帰りたいと言うなら私はそれを見送るべきだと思う」

 「なら、どうしてそんなに悲しそうな目をしてるの?」

 「……それはね、あなたが辛そうな顔をしているからよ」

 「僕が?」

 「えぇ。まるで、母親のもとへ帰りたくないって言ってるように見えるわ」

 「そんなことないよ……。そんなこと……」


 シンはヒメのことを思い出す。自分は母親のもとへ帰らなければならないはずだ。それなのに、帰りたくない? そんなことないはずだ。だけど、それを自信をもってはっきりと言えなかった。


 「あなたにとって母親ってなに?」

 「え?」

 「産んでくれた人? 育ててくれた人? 認めてくれた人? 受け入れてくれた人? それとも、愛してくれた人かしら?」


 まるでシンの中にある不安を見透かすように、シュナはシンに問う。


 「私はあなたを愛しています。私では、あなたの母親にはなれませんか?」


 その一言がシンの心にとどめを刺した。

 シンはシュナに目一杯抱きつき、押し倒す。


 「きゃっ」

 「僕、もうどこにも行かないよ。母さん」




 「ん……」


 ヒメは再び目を覚ます。目に写る景色はさっきまでいた場所ではない。ナビも、シイトも、ミュソスも、誰もいない。ただどこまでも続く真っ白な空間。ここは一体どこなのだろう。

 そのようなことを考えていると、頭の中がすうっと冷静になり、自分がしたことを思い出してしまう。


 「そうだ……私……」


 酷いことをしてしまった。人を見下して、馬鹿にして、騙して、利用して、そして殺した。

 どんどん自分が嫌になってくる。もういっそのこと、死んでしまいたい。


 「どうやったら死ねるのかしら」


 その場に仰向けになり、考える。しかしいい考えが出てこない。ここには何もない。だから死ぬことも出来ない。

 ……もしかしらここは死後の世界なのかもしれない。あの時民衆にボコボコにされて自分は死んでしまい、そしてここに来た。それなら納得がいく。


 「死んでも私は私のままなのね……」

 「あなたはまだ死んではいませんよ」

 「え?」


 その声に反応して、すぐさま立ち上がり、横を見ると、人と同じくらいの大きさの鳥がそこにいた。


 「ガルダ?」


 その翼が赤く、そして燃えている。しかし小さいし、顔付きもどこか幼い。それでも分かる。目の前にいるのはガルダだ。


 「よく分かりましたね!」


 ヒメは固まる。目の前にいるガルダは、自分の知っているガルダとは違う。姿も雰囲気も、何もかも。


 「本当にガルダなの?」

 「はい! 本当ですよ! そしてあなたは、未来の私の巫女ですね?」

 「未来? じゃあ、ここは過去なの?」

 「具体的には違います。ここに時間は存在していません。もっと言えば、ここはあらゆる時間と繋がっているのです」


 ガルダが何を言っているのか、ヒメには分からなかった。急にそんな話をされても困る。


 「例えるなら時間は川です。そしてここは川の沿岸のようなもの。あなたがここにやってきたのは、魂が時間の流れから逸れてしまったからでしょう」

 「そう。よく分からないけど、皆とは違う場所に来てしまったのね」

 「はい、その理解で大丈夫です! さすが、私の巫女ですね!」

 「それで私は」


 そこまで言って、自分が言おうとしていることが自分にとって真実なのか疑わしくなった。

 言おうとした言葉は、「どうしたら帰れるの?」だ。しかし、ヒメは本当にそれでいいのかと思ってしまった。もし帰ったとして、またあの中にいなければならないのか。苦しみの中に身を投じることに不安を感じる。

 それを見かねたのか、ガルダがヒメに助け船のように言葉を出す。


 「帰らなきゃいけないけど、帰りたくない、って感じですか?」

 「どうして分かったの!?」

 「え!? 合ってたんですか!? やったぁ! あ、いえ、これは救世の鳥として当たり前のことです! 人に寄り添い、人の心を理解する。それが出来ず、救いなんて言葉を口には出来ません」

 「そういう力があるの?」

 「うーん。どうなんでしょう。これが僕だけのものなのか、それともあって当たり前のものなのか、僕には分からないんですよね。なにせずっと1羽だったもので。あ! もう1羽じゃないですよ! あなたが来てくれたので! でも僕の見立てでは、この力は僕だけのものではないようです」

 「え?」

 「多分あなたにもあります。となると人に本来備わっている力なのかもしれませんね」

 「人に? そんな特別なもの何もないわよ」

 「いいえ! あります! この力は心に寄り添い理解する力です! 僕はあなたと出会って確信しました!」

 「そう……」


 いつもと違うガルダに調子を狂わされる。性格はだいぶ異なるが、やはり見た目の違いも気になる。どう見ても幼いのだ。

 ヒメの知っているガルダではないのだろう。


 「あなた、本当にガルダなのよね?」

 「はい! ガルダですよ! 誰に言われたわけでもありませんが、自分がガルダであるとはっきりと分かります!」

 「私の知ってるガルダとは違うんだけど、どういうこと?」

 「それはきっと、先程もお話した時間の流れによるものだと思います。あなたは流れる時間のどこかからやってきた。そして、あなたの知る私も、あなたと同じ時間の中にいるのでしょう。だけど僕は、時間の外側にいます。僕はこれから、使命を果たすために時間の流れの中に身を投じるのです」

 「じゃあやっぱり、昔のガルダってことなのね」

 「時間が存在しないのはこの空間だけですから、一度外に出て流れに身を任せてしまえば、過去とか未来とかそういうことになってしまいますね。……あ、そうだ! どうやったら帰れるかって話でしたよね! あれ? 帰りたくないんでしたっけ?」


 頭にハテナを思い浮かべたように首を傾げるガルダ。それを見てヒメは少しばかりの笑みをこぼし、自らの気持ちを吐露する。


 「帰らなきゃいけない気はするの。私は巫女だし、その、使命とかもあるわけだし。でも、帰りたくないの。皆に酷いことしちゃったし、辛いこととかもたくさんあったし」

 「なら帰らなくてもいいんじゃないですか?」

 「え?」

 「ほら、行ったでしょう。ここに時間はないんです。だからここでいくら立ち往生してもいいんですよ。いつでも元いた時間へと帰れます」

 「そっか……」

 「それに、心が訴えてくることが間違っているとは思いません。嫌なら嫌でいいですし、嫌でもやらなきゃならないなら、嫌じゃなくなるとか、やる気になるとか、そういう気分になるのを待ってもいいんじゃないですか? ここなら、いくらでも待てますよ」

 「そう……」


 ヒメはその場に座り込み、心を落ち着かせる。少し、ゆとりが出来たようだ。


 「他に何か聞きたいこととかありますか? なんでもお答えしますよ」

 「そうね、なら」

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