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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第48話 溝を広げて

 シュナ達がそのようにしている一方で、ヒメ達も巻き込まれた後、ある程度してから目を覚ました。


 「ん……」

 「あ、ヒメ! やっと起きたね! 大丈夫だった?」


 目を開けたヒメの前にいたのはナビだ。彼もベンヌの能力に巻き込まれ、そして運良くヒメ達と合流した。

 ヒメはその場で上体を起こし、ナビの声に応える。


 「大丈夫だったように見える?」

 「え、うーん。色々あったと思うけど、また会えたから大丈夫! それとも何か良くないことでもあったの?」

 「別に……」


 ヒメはナビと視線を合わせず、ボソッとそう答えた。そしてヒメはそれ以上何も言わない。しかしその雰囲気からは、拗ねていたり、察してほしいというオーラを出している。ナビはそのことに気付いて、必死で答えを探しだそうとするも、何も分からなかった。

 そこにシイトがやってきて、ヒメに一言だけ聞く。


 「ゴウマは?」

 「死んだわ」

 「は?」

 「シンに後ろから刺されて死んだのよ」


 ヒメはさらっと、そのように言う。まるでどうでもいいことかのようだ。そうやって流そうとするヒメをシイトが問い詰める。


 「死んだって、その時君はどうしてたんだ。その場にいたんじゃないのか?」

 「いたわ。でも止められなかったのよ。ほら、私弱いし」


 軽々しく話すヒメ。興味のないことをつまらなさそうに話している時のようだ。


 「それよりも」

 「それよりもじゃないだろ」


 話題を変えようとするヒメを怒りが混ざった口調で強く止めるシイト。


 「なに?」


 緊張した空気が流れる。ヒメは不機嫌な様子を表に出し、まともに取り合う気はなさそうだ。


 「言っておくけど、悪いのは私じゃないわ。さっきもいったけど、私は弱いから何も出来ないの。悪いのはシンよ。アイツが勝手にやったの」

 「ど、どうしてシンはそんなことをしたの?」


 ずっと横で話を聞いていたナビがヒメに聞く。ナビは何も知らない。自分が拐われる前の、仲間だった時の様子だけなら、どうしてそのようなことが起こったのか、推測することすら出来ない。


 「さぁ? 何か嫌なことでもあったか、それか嫉妬とかじゃない? 2人とも私に気が合ったみたいだし」


 ヒメはそのように語る。自分が見たこと、してきたこととは全く異なる嘘だ。しかし今のヒメに嘘をつくことへの躊躇は微塵もない。

 今のヒメにあるのは、誠実さや真実を語ろうとすることではなく、自分が助かることや自分を満足させようとする心だけだ。満足するのに最も手っ取り早いのは、自分が努力することよりも他人を蹴落としたり貶め、相対的に自分の価値を上げることである。死んだゴウマもヒメに従ったシンも、今のヒメにとっては自分のための道具にすぎない。

 ヒメが嘘をついているということをナビもシイトも知らない。知るわけがない。シイトは心の中で、ゴウマを殺したシンを憎み始めていた。


 「それで、ゴウマの最後は?」

 「覚えてないわ。あの時は精一杯だったし。そこまで気を回せなかったのよ」

 「なら覚えてることでなんかないの?」

 「ないわよ、そんなの。ていうかもういい加減にして。気持ち悪い。何度も質問ばっかしてきて、うざいのよ」


 そう言ってヒメが会話を打ち切る。シイトは何も言えず、そのまま黙ってしまった。しかしそれはヒメの言葉に従ったとかそういうことではなく、彼のヒメに対する、怒りや呆れといったものからだ。


 「ねぇ、それよりも」


 そしてヒメは別のことに目を向け始めた。周囲にいる民衆である。元々ベンヌのもとにいた者達だ。

 様々な者がいる。年齢も見た目も、表情も。しかし全員に共通している点もある。みすぼらしいことである。汚れた肌、ボロボロの服、痩せ細った体。ヒメ達と比べ、その姿はとても貧しく映る。

 そして、その姿を見たヒメはその心の中で自然と彼らを見下していた。


 「話は済んだか」


 そこにガルダが首を突っ込んでくる。

 ヒメは何かを言おうとしていたようだが、ガルダが出てきて引っ込めた。


 「ベンヌによって面倒なことになってしまった」

 「良かったじゃない。あなた戦ってて押されてたし、寿命が伸びたわよ」

 「私達が死ぬことはない。そのことはお前を分かっているだろう」

 「ただの比喩よ。いずれにせよ負けそうだったじゃない」

 「私は負けなどしない。あと少しで勝てそうだったところを、ヤツが引き延ばしたのだ」


 実際、ガルダとベンヌは互角の戦いを繰り広げていた。周囲にどう見えていたかは知らないが、ガルダにも勝機はあった。

 プライドも含めてガルダがベンヌに勝てそうだったと言ったことに、その場にいた民衆達は反対の声を上げる。


 「ベンヌ様が敗けるはずがないだろう!」

 「そうだベンヌ様は無敵だ!」

 「とっととやられろ、害鳥!」


 民衆達は恐れを知らないかの如くガルダに好き勝手言う。誰か1人が言ったことがエコーのように広がっていき、やがてそれは熱気となって場を包んだ。

 当初はヒメも笑っていた。ガルダが馬鹿にされ、その光景が面白くてならなかったのだ。

 しかし段々と鳴り止まない民衆達の声がうるさく、そして迷惑になってくる。ヒメは勢いよく立ち上がり、民衆に向かって怒鳴った。


 「うるっさいわね! 言いたいことは言ったでしょ!? いい加減黙りなさいよ!」


 急に怒鳴ったヒメに戸惑う民衆。彼らは周囲の人々と顔を合わせ、あれはなんだとざわつく。


 「なんだアイツ……。急にデカイ声出しやがって」

 「あれは俺達に言ってるのか?」

 「誰だよアイツ……」

 「巫女、なんじゃないのか?」

 「さっきのもあの燃えてる鳥を庇ったってことか?」

 「だとしたらシュナ様と同じ」

 「バカ! あんなのがシュナ様と同じなわけないだろ!」


 民衆はその時、初めてヒメのことを認識した。それまでは視界の端っこにいるような小娘でしかなかったが、ヒメが何者なのかが彼らにとって分かった瞬間、それは視界の真ん中にまで来るようになった。

 そうなると、民衆の間には自分達の知っている巫女であるシュナとの比較が始まる。もちろん民衆達にとって付き合いの長い、そして良く知っているシュナの方がヒメよりも良い巫女である。ヒメが民衆達に対していきなり怒鳴ってしまったことも良くなかった。

 自然と民衆達の間にはヒメに対する反発、強い不満や不信感が湧いて出てきた。

 そんな民衆に、ヒメも不満を抱く。怒りと言ってもいい。さらに人々の間から聞こえるシュナに対しても、勝手な人物像を描き、勝手に怒りを覚える。


 「そう、シュナ……。きっとろくでもない女なんでしょうね。あんた達も洗脳でもされてるんじゃないの? それか都合良く使われてるのよ。そうでもなきゃ、あんた達みたいな汚らしい連中なんかとまともに付き合ったりなんてしないわ」

 「なんだと……!」


 ヒメは民衆に向けてシュナへの勝手な想像を語り、さらに人々を扱き下ろす。

 民衆はそれを言われて、より強く怒りを抱く。

 ヒメと民衆の間には、もはや埋まらないような深い溝が出来上がってしまっていた。

 やがて民衆達の怒りの声は大きくなり、民衆達が我を忘れるほどにまで強くなる。もう誰にも止められない程に大きくなったのではないか、と思われた、そんな時、ガルダの叫びが響いた。


 「いい加減にしろ! 見苦しいぞ!」


 真っ赤に燃え、周囲の温度を上げるほどの炎を繰り出すガルダ。それを見て、その場は先程までが嘘のように静まり返った。

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