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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第47話 戦士の休息

 ガルダとベンヌは激しい戦いを続ける。ガルダがベンヌを爪で掴んでいるが、その状態であってもベンヌは力を込め、能力を発揮する。


 「うぉぉぉ……! オラァァァ!!」


 周囲の地形が変わり始める。しかもそれは、ヒメやシンを移動させた時とは比べ物にならないほどのものだ。全てが灰に包まれ、街の姿そのものが変わっていく。


 「なによこれ!? どうなってるの!?」

 「母さん!」


 シンがヒメを掴もうとする。しかし、間に合うことなく、2人は再び灰に飲み込まれた。




 「ん……。これは……」


 目を覚ましたのはシュナ。周囲を見渡すと大勢の人々が倒れていた。


 「ベンヌ、あれを使ったのね……」


 シュナがこういったことを経験するのは初めてではない。何度かある。そのため、既に慣れてしまっていた。


 「ベンヌは大丈夫かしら」

 「僕ならここだよ。それより民達を巻き込んでしまった。倒れているようだが、彼らは大丈夫だといいんだが」


 シュナは再び周囲を見渡して、人々の様子を確認する。その中で既に動いているものがいた。


 「それならどうやらソロンが民をまとめているみたいよ」

 「そうか、彼が。彼も巻き込んでしまったのに……。やはりソロンは頼りになるね」

 「でもやっぱり数が少ないわ。半分ぐらいしかいないんじゃないかしら」

 「そうか……。ではもう半分は向こうか……」


 ベンヌが使った技。あれはベンヌでさえも制御することの出来ないものだ。周囲の地形を操り、思うように世界の姿を作り替える。しかしそこにベンヌの意思は僅かに挟むことしか出来ない。それは単純なものほどよく、先ほどのものは、2つの陣営に分ける、という程度のものだった。

 陣営を分けることは出来たものの、色々と不都合も生じている。


 「向こうに行ってしまった人達が心配だわ」

 「大丈夫だよ、シュナ。あれでも僕と同じ「ガルダ」だ。そこまで酷いことはしないよ」

 「だといいけど……」


 シュナは陣営を分かち向こうへ行ってしまった人達、ガルダのもとに送られてしまった人々のことを心配する。ベンヌは大丈夫だというが、ここに来てからガルダのしたこと、そしてなによりも敵という変わらない事実にシュナの不安が消えることはない。


 「それよりも「獣」の方だが……」

 「いない、ようね」

 「千里眼はどうだ? あれが使えるかどうかで大きく変わる」

 「駄目だったわ。分からないなりに色々と試してみたけど、何も見えなかった」

 「そうか……。それが、神の意思か。シュナ、すまない。どうやらここまでのようだ」

 「謝らないでベンヌ。まだ終わってなんかないわ。だって私達は生きているんですもの」

 「……そうだったな」


 ベンヌとシュナはお互いに見つめあう。そしてお互いに微笑み、お互いに小さく頷いた。


 「おい!」


 ベンヌとシュナの間に割って入るように、怒鳴り声が響く。そこにはシンがいた。どうやらヒメ達とは分かれ、ここに連れてこられてしまったようだ。


 「お前達が悪だな!? 母さんをどこへやった!?」


 シンはベンヌとシュナに剣を向け、問い詰める。いつでも斬りかかることの出来る間合いと、何をしてもおかしくはない様子に、周囲の人々は不安そうに見ている。


 「聖剣をもつ騎士か」


 しかしベンヌとシュナは全く焦ることも怯えることもなく、ただその場に立ったまま冷静に、取り乱すことなくシンを見る。


 「落ち着いて。冷静になって話しましょう?」


 シュナはそのように言い、シンに近付いていく。


 「来るな! お前達と話すことなんて何もない! 母さんはどこだ!」

 「あなたの母親はここにいないわ。でも無事だから、安心して」


 シンに拒絶されても、シュナは歩み寄ることをやめない。


 「来るなって言ってるだろ!」


 シンは剣を振るった。そして剣は、目の前まで来ていたシュナの顔を掠め、シュナの頬からは血が流れる。

 しかしシュナの血はすぐさま白い灰となり、頬の傷も何もなかったかのように無くなった。

 シュナはシンの剣が握られた手を取る。


 「私達は何も悪いことなんてしてないわ。あなたにも信じてほしいの」

 「嘘だ! お前達が何もしてないならこんなめちゃくちゃなことにはなってない! 全部お前達のせいだ!」


 激情に取り乱すシン。どうやってもその感情を鎮めることは出来そうにない。


 「お前が言う、めちゃくちゃになったというのは、ガルダがここに来てからだ」

 「なんだよ、母さん達が悪いって言うのか!?」

 「違う。不幸な巡り合わせだったのだ。世界は善悪だけで成り立っているわけではない。時には予想だにしないことだって起こる。そんな時に善だ悪だと語るのは不毛だ」

 「言い逃れか? 薄汚い奴らめ!」


 シンはベンヌの言葉にも怒りを持って返す。冷静な考えが出来ないシンには、誰かしら悪者が必要だった。ちょうど良いのがベンヌとシュナだったにすぎない。

 しかしそれでもベンヌもシュナも言い返すよりも説得を続けた。


 「例え話をしよう。人々の拠り所となっていた大樹があったとする。しかしその巨木が風によって倒されたとして、お前は人々から拠り所を奪った風を悪とするのか?」

 「何が言いたい」

 「我らの巡り合わせは巨木を倒した風のようなものだ。誰も善でもないし悪でもない。運命の通りに進み、そして平穏を無くした。仕方のないことだったのだ」


 ベンヌがそのように語った後、シンは手に持っている剣を下ろし、鞘へとしまった。


 「納得してくれたかしら?」


 シュナがシンに聞く。


 「別に、お前達のことを許したわけでもないし、信じたわけでもないからな」

 「それでいいわ。疲れたでしょう? ゆっくり休んだら?」


 シュナの言葉に、シンはため息をつきながらめんどくさそうな顔で返す。


 「シュナ、介抱してやりなさい」

 「えぇ、そのつもりよ。ほら、こっち」

 「あ、おい」


 シュナはシンの手を取り、少し離れた場所へと連れていく。

 そこはシンとシュナ以外、誰もいない静かな場所。光が少しばかり差し込み、空気は冷たく、澄んでいる。非常に心地の良い場所だ。

 そこでシュナはシンを横にし、自分の膝の上にシンの頭を乗せた。膝枕だ。


 「リラックスしていいのよ」

 「……」


 シンは段々と体から力が抜けていくのを感じた。単純に疲れが吹き出してきたのだろう。考えてみれば、今までちゃんと休んだことなどなかったように思える。

 シュナの言葉通りにするのはシンにとって癪なことだが、どうやらリラックスしてしまっているようだ。


 「ねぇ、どうしてこんなことをするの?」


 シンが眠気を誤魔化しながらシュナに聞く。


 「こんなことって?」

 「ほら、今やってるみたいな……」

 「あなたがしてほしそうだったから」

 「ッ! そんなことないッ!」


 シンは体をガバッと起こし、強く否定する。

 してほしそう、だなんて弱そうに見えてるってことじゃないか!

 シンはそのように思いながら、続けて否定しようとするものの、シュナはシンの肩を抑えながら、再びシンを寝かせる。


 「弱そうだなんて思ってないわ。どんなに強い人でも休息は必要でしょう?」

 「別に、そんなのなくても戦える」

 「適度な休息は人を強くするの」


 シンはそれに返せなかった。

 少しの間、静かな時間が流れる。シュナがシンの頭を撫でる。ただそれだけの時間。


 「ねぇ、こういうことって誰にでもするの?」

 「私は1人しかいないわ。だからあなただけよ」

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