第42話 受け入れてくれる場所
ヒメがそのようになっている一方、ナビともう一人の巫女であるシュナは楽しげに会話していた。
「ねぇねぇ、次はどんな話する?」
ナビはすっかりシュナに懐いていた。シュナは出会ったばかりのナビにも優しくしてくれる。裏表のない性格で、ナビはすぐに絆された。
様々な話をすることで、ナビはシュナのことを知っていく。そして、シュナも同じようにナビのことを知っていった。
「そうね、次はベンヌの話をしようかしら」
「えっ! ベンヌって僕をここに連れてきたアイツのことだよね? そんなやつの話をしたところで楽しくないよ」
「ふふっ、そんなことないわ。きっとベンヌを勘違いしているのよ」
「いーや! そんなことないね! 僕はたくさんの鳥を知ってるけど、どの鳥も大体同じだったね! 恐くて乱暴で、僕達を見下し続けてるんだ!」
「そうね。ほとんどの鳥はそう。私達を苦しめ、世界を我が物顔で一人占めする支配者。でもね、ベンヌは違うわ。私達を守ってくれる優しい方。この世界で迷っている人々を救おうと戦っているのよ。ここにいる皆も、ベンヌのことを信じているの」
「信じてる? あの鳥のことを?」
「えぇ、そうよ。ここで私達がベンヌに強いられていることなんかひとつもないわ。皆が好きなように暮らしているの。だから皆もベンヌのことを信じられるのよ」
「うーん」
「ねぇ、私を見て。私が苦しそうに見える?」
「う、ううん」
「でしょ? それはね、ベンヌのおかげなのよ」
「そうなんだ……」
シュナの言葉に、ナビの心は傾く。鳥も悪いヤツばかりではないのかもしれない。確かにベンヌは自分を拐った。しかし目の前にいるシュナは苦しそうに見えない。ガルダの巫女であるヒメは、あんなにも苦しそうにしていたのと対照的だ。
「信じてくれる?」
シュナがナビに聞く。しかしナビはどう答えていいのか分からない。シュナはさらに攻める。
「別にベンヌのことを信じなくてもいいの。私のことを信じてくれれば、それでいいの」
「シュナのことを?」
「そう、私のことを」
「それなら……信じてもいいかも」
「ふふっ、ありがとう」
シュナは、シュナのことを信じてもいいと言ったナビに満面の笑みを見せる。ナビもその表情を見て、ニコッと笑って返した。
「私達にはね、やりたいことがあるの。それで、そのためにはあなたの力が必要なの」
「僕の力?」
「そう、ナビが持つ千里眼。それが私達には必要なの。力を、貸してくれるかしら?」
「で、でも……」
「どうしたの? 嫌なの?」
「ち、違うんだ。僕は確かに時々、変なものが見えるけど、それは急に来るんだ。だから貸してって言われても、その……」
「そうなんだ。なら、そうなれるように練習すればいいのよ」
「練習?」
「そう。ナビは「導きの獣」って知ってる?」
「知らない。なにそれ?」
「「導きの獣」っていうのはね、鳥や人に未来を見せて、正しい道へと導くっていう、昔からある伝説みたいなものなのよ」
「へぇ~」
「私はね、ナビが「導きの獣」なんじゃないかって、そう思うの」
「僕が?」
「だってそうでしょ? 千里眼があって、こんなにモフモフで。どこからどう見ても「導きの獣」よ。だからきっと練習すれば、いつでも千里眼が見たい時に見れるようになれると思うの。そしてそれが、あなたの力になる」
もし、自分が千里眼の力を自由に使うことが出来たら。ナビの頭にそんな考えがよぎる。未来を見ることの出来る力。それを好きな時に、好きなように使う。
きっと、ヒメが迷うことはもうなくなるだろう。
「それって、どうやったら出来るようになるの?」
「……やる気になってくれたのね」
ナビの目にはシュナの顔が一瞬だけ険しいものになったように見えたが、それを言う前に話は次へと進む。
「でもね、私も「導きの獣」についてはさっき言ったことしか知らないの。だからそこまで私が教えられることってないんだけど……。ううん、弱気になっちゃ駄目ね。一緒に練習しましょう! きっと出来るようになるわ!」
ナビとシュナが、千里眼の練習を始めようとしている頃、ミュソスとシイトがいる場所、そしてガルダとベンヌがいなくなった場所ではソロンという男がベンヌに代わり民衆をまとめていた。
「さあ皆! 安全な場所へ行こう! ここはまだ近くでベンヌ様が戦っている。邪魔になってはいけない! 私に付いてくるんだ!」
ソロンという男の声に従い、その場にいた全員がソロンの後に付いていった。
ミュソスは迷わずソロンの側へ向かう。シイトもだるそうにしながらも、戦えないミュソスを1人にするわけにはいかないと後を追った。
「ソロン! ソロン!」
「ん? おぉ! ミュソスじゃないか!」
驚きに高鳴る心と共にミュソスが声をかけ、ソロンがその呼び掛けに応えるように振り向いた。ソロンの反応は、ミュソスと同じような驚きもあるが、それ以上に自分のやることに気が向いているといった感じでもあった。
「ソロン! 君はこんなところで一体何を」
「皆、こっちだ! さぁ早く! 余裕のある者は遅れている者を助けるんだ!」
ミュソスの言葉を遮り、ソロンは人々を導く。今は話せるような状況ではないとミュソスは一歩引き、ソロンが人々を案内し終えるのを待った。
そして、ある程度は人々が安全な場所へと避難し終わった後、ミュソスは再びソロンへと話しかけた。
「ソロン」
「ミュソス! さっきは悪かったね」
「いや、いいんだ。それが今の君の役割なんだろう?」
「あぁ、まぁね。そんなところだよ」
ソロンという男は、ミュソスと同じ程度の背丈に、初老で黒髪に若干の白髪が混じった髪をしている。服装も質素ではあるが、泥や砂も付いていない、もうあまり見ることはない綺麗な服だ。
「君とこんな形で再会出来るとは思っていなかったよ。どうしてこんなところに?」
ミュソスがソロンに質問する。今のソロンの立場はかなり珍しく、多くの人にとっては不思議なものだろう。
「そうだね、どこから話そうか。あぁ、そうだ。僕はね、元からたくさんの人達と一緒に行動してたんだ。この広くて荒廃した世界をただ歩き回っていたのさ。鳥にも数えきれないほど襲われたよ」
この荒涼とした世界は人に厳しい。その苦難が想像するに余りあることなのはミュソスも承知の上だ。
「何人もの人が死んだ。鳥の恐怖に耐えきれなくなって別れてどこかへ行ってしまった者もいる。どうなったのかは分からないよ。そしてある時、いつものように鳥に襲われたんだ。僕も死を覚悟した。でも僕は生きている。ベンヌ様が救ってくれたのさ」
「鳥が人を? そんなこともあるのか……」
「信じられない気持ちも分かる。僕も最初はそうだった。だが今は、ベンヌ様を信じている」
「君がそこまで言うのか」
「あぁ。人にそれぞれ個性があるように、鳥にもある。ここも、ベンヌ様が用意、もとい案内してくれた場所だ。ベンヌ様は強い鳥でね、ここがベンヌ様の縄張りだから他の人を襲うような鳥もやってこない。……今のは珍しいことなんだよ」
ガルダのことだ。ベンヌはガルダと同等、あるいはそれ以上の力を持っている。彼の縄張りに手出しが出来る鳥は限られている。
「これだけの人を見たのも久しぶりだろ? ベンヌ様が助けた者、噂を聞きつけた者。色々いるが、来た理由もいる理由も皆一緒だよ」
「なるほど。皆が守ってほしがっているのか」
「ところでミュソス。君は今までどうしてたんだい?」




