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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第39話 灰色の鳥と巫女

 ナビが連れ去られ、ヒメ達はただそこに突っ立っていることしか出来なかった。


 「ナビが……!」

 「どうしよう、どうしよう! ツナ逃がしちゃった!」

 「ツナ、あなたのせいじゃないわ。相手はあのベンヌだもの。よくやった方よ」

 「ベンヌ。今のが……」


 ヒメが呟く。オコナによれば、先程の灰色の鳥こそがベンヌだという。


 「早く助けねぇと食われでもしちまうんじゃねぇのか?」

 「いや、ベンヌはそのようなことはしない。他の鳥ならいざ知らず、アイツは燃え尽きても誇りだけは失わないやつだ。ただ、探すにしても場所が分からないがな」

 「いえ、それなら分かるわ。彼の考えそうなことも、何をしようとしてるのかも、ね」


 敵でありながら、ベンヌへの信頼や敬意のようなものを感じさせるガルダ。そしてオコナはそこからさらに一歩、ベンヌのことが分かるという。それはただ誰かに向けるような感情ではないように見える。


 「そうか、お前は」

 「えぇ、元は仲間だったのよ。今のあなたとの関係とほとんど同じよ」

 「知る必要のないことだ。失敗したやつのことなどな」

 「失敗? それは一体どういうことでしょうか?」


 ミュソスが質問する。


 「そうよね。普通は知らないわ。教えてあげる。彼の名前はベンヌ=ガルダ。先代の救世主よ」




 ヒメ達がナビをベンヌに連れ去られた後、ベンヌはそのまま縄張りへと帰ってきた。そこは薄暗く、周囲を地面の壁に囲まれた、地下であった。

 ベンヌはナビをそっと傷付かないように地面に置き、自分も降り立った後に質問を始めた。


 「お前、名はなんだ?」

 「あ、あわわわ……」


 ブルブルと震え、ベンヌの質問に答えられないナビ。


 「お前が千里眼を持っているというのは本当か? 未来が見えるのか?」

 「うぇ、えぇぇぇ……」


 目の前のベンヌに襲われるのではないのか、自分はここて死ぬのではないか、そういう不安がナビを包み、何も答えられず、ただ怯えているだけのナビ。

 そこに誰かの足音が聞こえる。小さな足音だ。


 「おかえりなさい、ベンヌ」

 「あぁ、ただいま。シュナ。さっき帰ってきたところだよ」


 ベンヌがシュナと呼んだ女性。白い肌。髪はボサボサの背中の真ん中あたりまで伸びたロング。髪色も白だ。


 「あら、その子は?」

 「あぁ、すぐそこで拾ってきたんだ。特別な子でね。千里眼を持っているらしい。それを今聞いていたんだ」

 「そうなの? それで何か分かった?」

 「いや、何も分からないよ。何も答えてくれなくてね。名前さえも分からないから、どう呼んだらいいかすら分からないんだ」

 「あなたに怯えてるのよ。無理もないわ。どうせ急に連れてきたんでしょ? いいわ、ここは私が聞いておくから、ベンヌは自分のやることをやって」

 「悪いね。シュナ。じゃあ任せたよ」


 親しげにベンヌと話す女性。そこからは、人が鳥に抱くような恐怖や信仰はまるで感じられない。そしてベンヌもそれに対して怒りを持つようなことはないし、なんら何かを強制させることもない。

 ベンヌはシュナと呼んだ女性に任せたとだけ伝え、そのままどこかへ飛び去っていった。


 「さて、じゃあ私と話しましょう。導きの獣さん」

 「……導きの獣?」

 「えぇ、あなたのことよ。知らないのかしら」

 「……うん。知らない」

 「そう。知らないの。それなら教えてあげるわ。他に知らないことがあれば、私が知る限りのことを教えてあげる。安心して。私達は敵なんかじゃないわ」

 「……」


 ナビの警戒心は解けない。目の前の女性は、自分を連れ去った鳥と仲良く話していたような人間だ。もしかしたら、ベンヌと結託して自分を騙すつもりなのかもしれない。それに、早くヒメ達のもとへ帰らなければならない。きっと心配しているだろう。

 ナビの心には暗い、不安と緊張が漂う。


 「あ、そうだわ。その前に私のことを何も教えてなかったわね。私の名前はシュナ。さっきまでここにいたベンヌの巫女をしているの。後は……何かあったかしら。そうね、好きなことは、こうやってお話しすること。色んな人と仲良くなったり、その人のことを深く知ることが好きなの。あなたは?」

 「僕も……お話しするのは好き。喋るのも好きだけど……聞くのはもっと好き」

 「そうなんだ! じゃあ私がたくさん喋っちゃおうかしら」

 「……うん」

 「ふふっ、怖がらなくても大丈夫。何もしないわ」

 「じゃあ、どうしてさっきは僕をここに連れてきたの? 早く、ヒメのところに帰してよ」

 「そうね……。あなたがそうしたいなら、私もそうしてあげたいのだけど、ベンヌには少し事情があってね」

 「事情?」

 「えぇ。ベンヌにはね、世界を救うっていう使命があるの」

 「世界を救う?」


 ナビの頭にハテナが浮かぶ。抽象的で、大きな話すぎてナビにはよく分からない。


 「世界を救うために、あなたの力、千里眼が必要なの。こっちに来て」


 シュナはナビを近くに寄せ、顔を撫でた。


 「うぅ」


 シュナの柔らかく優しい手に、ナビの固まっていた表情が溶けるように緩む。


 「ふふっ、可愛い。ね、名前はなんて言うの?」

 「ナビ。ナビって言うの」

 「そう、ナビって言うのね! これからよろしくね!」


 そう言って、シュナはナビの頭を撫でる。ナビは頭を撫でられ、頬を緩めながら、つい「えへへ」という声が漏れた。




 ナビが連れ去られた後、ベンヌを追うことが出来ないヒメ達は、元々仲間だったというオコナの話を聞いていた。


 「先代の、救世主? それに、前から気になってたけど、ガルダっていうのはどういうこと? 単なる名前じゃないんでしょ?」

 「えぇ、そうよ。前にも聞いたと思うけど、ガルダという名前は神様がくれた特別な名前。名前と共に役割が与えられ、その名を関した者は役割を使命として、それを果たさなければならない。だけどベンヌは、それを放棄してしまったのよ……」

 「愚かな鳥だ」

 「……そうかしら」


 ベンヌを愚かだと言ったガルダをオコナは睨むように見る。彼女の放った静かな言葉には、どこか怒りがあるようだ。


 「ガルダの名を持つ者の役割とは、なんでしょうか」

 「それはね」

 「何でもいいだろう。無駄話をするな。それより、あの獣を助けには行かないのか」

 「聞かれたくないのね。意気地なし」


 いつになくオコナが冷たい。言葉の節々に棘があるような、ガルダを責めるような、そんな態度だ。


 「使命なら問題なく進んでいる。お前達もいずれ知る時が来る。それでいい」

 「どうせ大したことじゃないんでしょ」


 ヒメがそんな軽口を叩く。ガルダの使命について、本気では信じていないといった感じだ。


 「ふふっ、頼もしいのね」

 「その言葉、忘れるなよ」


 軽く、本当に軽く、冗談を言うつもりで言ったヒメ。しかしそんなヒメをオコナとガルダはそれぞれの眼差しで見る。

 オコナはどこか期待や希望を見いだすような、微笑ましい顔で。ガルダは真剣に、目を据わらせヒメを強く見つめる。


 「そ、れ、よ、り、も! ナビを助けに行かないと! あの子きっと泣いてるわ! 急がないと食べられちゃうんじゃないの!?」

 「そう! ツナもそれ言おうと思ってた!」

 「だからさぁ、そこのオコナって鳥が場所知ってるんでしょ? なら急がなくてもいいじゃん。てか、話してる最中に少しでも移動してりゃ良かったんじゃないの? はぁ……。馬鹿ばっかりだな、ここは」

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