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救炎のガルダ  作者: ドカン
3章 灰の翼
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第36話 息子

 ヒメは決心した。その言葉を聞いて、全員がベンヌの縄張りへ向かう準備をする。

 しかしその時、1羽のカモメがとてつもないスピードでこちらへと向かってきた。


 「んぁぁぁぁぁ! 魚! 記憶! よこせぇぇぇ!」


 目を大きく開いたカモメがヒメ達の近くにある魚を奪おうと襲ってきたのだ。


 「ふん! 中毒か! お前がこれを食ったところで意味はない!」


 ガルダが真っ先にカモメに対して爪で攻撃する。


 「ぐぇっ!」


 攻撃はカモメの首もとに当たり、カモメは体勢を崩す。しかし体勢を崩しながらも諦めの悪いカモメは、そのままもがきながら何とか魚を食べようとする。


 「よこせぇ!」

 「きゃッ!」


 カモメがジタバタと暴れ、それが運悪くヒメにぶつかってしまう。そしてヒメはその衝撃で、海の中へと飛ばされてしまった。

 急なことで誰も対処が出来なかった。海の中でもがくも、逆にそれが仇となって空気が口から漏れてしまう。溺れかけたその時、間一髪のところでオコナが海へ飛び込み、ヒメを助けた。


 「大丈夫!?」

 「はぁはぁはぁ……」


 大きく、そして短く息を吸って吐き、乱れた呼吸を整えようとする。


 「おい、ヒメ! 無事か!?」

 「ヒメ、大丈夫!?」

 「危ないところでしたね……。まさかあのようなことが起こるとは……」


 カモメはガルダが倒した。もう動かない。

 ヒメを心配して全員が集まる。


 「はぁはぁはぁ……。い、息が、出来なかったわ……。はぁはぁはぁ……」


 ヒメが呼吸をある程度整え、元に戻ろうとした時、全員の意識も目線も、ヒメの方へ向いていた。

 そんな、誰も見ていないところで、パシャッという音がした。

 その音を聞いて、全員がその音の方を見る。そこには、男、いや少年が1人、倒れていた。

 まず全員が思ったのは、ヒメに似ているということ。遠目でも分かる。髪や肌、雰囲気などがそっくりで、まるでヒメをそのまま男にしたようだった。

 少年は決してキレイとは言えない、簡素はシャツとズボンをして、ずぶ濡れでその場に倒れている。


 「ねぇ、あれ」


 シイトが気付く。傍らには剣がある。


 「聖剣ね、あれは」


 オコナが言う。彼女がそう言うのならきっと間違いではないのだろう。

 急に聖剣と共に現れた少年に全員が戸惑っていると、少年が目を覚ました。

 少年は起き上がり、周囲をキョロキョロと見渡し、全員の方を見ると表情を明るくしてこちらへと駆け足でやってきた。


 「母さん!」


 そう言って少年は、勢い良くヒメに抱きついた。

 それを見て驚いたのは周囲だ。


 「か、母さん!?」

 「え、えっ、母さんってあれだよね!? あれのことだよね!?」

 「……誰との子供なの?」

 「いやはや、私もそこまでは分かりませんでした。記憶の海の魚も絶対ではないのですね……」


 それぞれがそれぞれの反応をする。ゴウマは驚愕し、ナビは純粋にビックリし、シイトは平静を崩し、ミュソスは自分の見た記憶にはないことでも受け入れようとしている。

 しかし最も困惑しているのはヒメだ。


 「は? いやいや! 知らないわよこんな奴! 私に子供なんていないんだから! 誰!? 誰なの!?」

 「? 何言ってるの? 母さんは僕の母さんだよね?」

 「は、はぁ!?」


 抱きついてくる少年を力ずくで引き剥がそうとするヒメ。しかし中々離れない。目の前の少年は、既に十代半ばほどの大きさで、力もそれなりにある。ヒメの力では少年には勝てないのだ。

 周りも周りで、手を出していいのかどうか、そもそもこれはどういう状況なのか、誰も理解出来ていない。

 そこに1つの考察が投げ込まれた。


 「ヒメが記憶の海に侵入してしまったからでは?」


 ムウがそのように推測する。


 「でもねムウ、そんなのは聞いたことがないわ」

 「ムウも聞いたことはない。でも記憶の海に入ってしまった人間のことも今までいなかったから、今までにないことが起こっても不思議じゃない。それに今はこれぐらいしか思い付かない」

 「どういうこと? どういうこと?」

 「ムウは何を言ってるの? 分からない? 分からない?」


 ムウの言っていることを理解出来ないモロとツナ。正直、ここにいるほとんどの者にとって同じだ。


 「まぁ、でもそういうことにしておきましょうか。分かっても分からなくても、仕方のないことでしょうしね」


 オコナがちょうど良い着地点を提示し、この問題はここで終わることとなった。


 「では、ベンヌの所へ行くか」


 ガルダが言う。彼にしては少し、前のめりになっているような雰囲気がある。


 「……えぇ。そうね、行きましょう」


 ヒメの言葉によって、全員がそれぞれ鳥の背中に乗る。ヒメを母さんと呼ぶ少年も一緒だ。ここに置いていけるわけもなく、一緒に行くしかないだろう。そのことに反対する者もいなかった。

 少年はヒメと共にオコナの背中に乗った。乗ってからはずっと近くで話しかけてくる。まるで愛されたい子供のようだ。


 「ねぇ、これからどこ行くの?」

 「どこって言われても……私達も初めて行くような場所よ。私は何も知らないわ」

 「ふぅん」

 「今から行く場所はね、ベンヌっていう鳥が作った、人間達の暮らせる場所よ。そこでは空が見えない代わりに、人間を襲う鳥達から襲われることもない。人によっては、楽園のような場所ね」

 「へぇ〜。良い場所なんだぁ」

 「ねぇ、オコナ。なんでそのベンヌっていう鳥は、そんなことをするのよ。鳥が人間を守るなんて、聞いたことがないわ」

 「あら、私達だって、あなた達を守っているのよ。ベンヌと変わらないと思うけど」

 「それは、そうだけど……。でも縄張りでそんなことをしてるんでしょ? それはさすがにそのベンヌっていう鳥だけなんじゃないの?」

 「それはそうね。ベンヌには昔に色々あったのよ」

 「色々……?」


 ベンヌのことをオコナから聞くヒメ。

 一方、その真横では少年がその話を聞きながらソワソワしていた。


 「ね、ねぇ! そのオコナとか、ヒメっていうのは、何? もしかして、名前ってやつ?」

 「え、まぁ、そうだけど」

 「名前って、どうやったら手に入るの!?」

 「どうって……?」


 ヒメに顔を思い切り近づけながら、名前について聞く少年。少年には名前がない。


 「せっかくだし、ヒメが彼に名前を付けてあげたら?」

 「え、本当!? 本当に母さんが名前くれるの!?」


 一瞬でその目をキラキラ輝かせ、再びヒメに迫る少年。

 「え、えぇ〜」と困ったような、面倒くさいといったような顔をするヒメ。しかしこれからのことを考えると、目の前の、自分を母親だと言ってくる少年に名前がないのは、それはそれで面倒だ。


 「分かったわよ……」


 渋々といった感じで、ヒメは少年の名前を考える。


 「ねぇ! 決まった!? どんな名前!?」

 「待って。今考えてるから」


 うーんと唸るヒメ。しかし名前を考えろと言われて、すぐにパッと思い浮かぶほどヒメの頭の回転は早いわけではない。

 仮にも母さんと呼んでくる目の前の少年に適当に名前でも付けようものなら、後で後悔するかもしれない。むしろそうなる可能性が高いのではないか。だからここでちゃんと考えなければならない。

 しかしそうなってくるとさらに難しくなってくる。どうしたものか。ヒメはさらに考える。男らしく、馬鹿にされないような名前。

 考えすぎて、頭が痛くなってきた、そんな時、ひとつの名前が思い浮かんだ。


 「……シン。シンっていうのは、どう?」

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