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救炎のガルダ  作者: ドカン
1章 炎の翼
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第3話 巫女の役割

 気付けばヒメは争う人々の仲裁に入っていた。


 「やめて! 今ここで私達が争ったってなんにもならないじゃない! 皆が苦しいのは分かる! それは仕方のないことだけど、今は自分を抑えて」


 ヒメの言葉に人々は振り上げた拳を下ろす。この酷い現状がどうにもならないことは誰でも分かっていた。

 ヒメの気持ちに人々は従った。何よりも、ヒメが目の前でラズを失ったことを人々は知っていた。それでも彼女は、怒りに身を任せるなと言っている。彼女を思えば自然と、憎悪を他人に向けていることが恥ずかしく思えてきた。

 憎むべきは大切なものを奪った、あの火の鳥である。人々の心が、次第に1つになっていく。


 「でもよ、これからどうするんだ? あの鳥野郎からは宮殿を造れとかって言われてるけどよぉ、俺は正直嫌だぜ。あんな奴の言いなり通りに働くなんてのは」

 「そうね、私も嫌。でも、今は何をしたって覆せるような時じゃない。だから、チャンスを待つしかないわ。それまで、アイツに従ってるフリをしておかなきゃ、次は誰が殺されるか分からないわ」

 「死ぬよりマシさ。働こう。それにアイツ、造れって言っておきながら、人間のことも、宮殿のことも何も分かっちゃいねぇみたいだったぜ。これは使えるかもしれねぇ。テキトーに働いてるだけでも、アイツ気付きもしないんじゃないか?」

 「いっそのことバカでかい宮殿を造ってることにすれば、時間稼ぎになるかもしれないわ。それでその間に私がチャンスを探す。いいわ! それでいきましょう!」


 人々から沸き立つ声が聞こえる。希望が見えてきたことで、バラバラだった心が再び1つになってきていた。

 皆で助け合いながら、宮殿の建築を始める。火の鳥がどこからか連れてきた獣人も協力してくれている。重い物を不思議な力で運んでくれるので、人々の作業の負担もさほどかかっていない。そして、開始早々、それっぽい形になってきていた。

 そこへ火の鳥が、タイミング良く戻ってくる。


 「ほぉ、形になっているではないか。思っていたよりも早いな」


 宮殿は多層階建てで計画されており、建設のための足場が設置されている。中央には巨大な広場を作ることが予定されており、その周囲を廊下がぐるりと壁のように取り囲む。

 火の鳥は、宮殿の建設現場を見て、勝手に満足する。もちろん、まだまだ完成には程遠いものの、知識を持たない火の鳥にはそれが分からなかった。


 「しかし、それではこの者達は必要なかったか」


 そのように言う火の鳥の足元を見れば、どこからか連れてこられたであろう人々がいた。ヒメは連れてこられた人々のもとへ駆け足で向かい、側に寄り添った。


 「あなた、また無駄に被害者を増やしたのね」


 ヒメは火の鳥を睨み、その行いを非難する。


 「おやめなさい」


 ヒメの、火の鳥への批判を止める声。それはヒメが守ろうとした、連れてこられた人々の中にいた。白い髭を生やし、シワを目立たせながらも瞳には何か力強さを感じさせる老人。続けざまにヒメに言う。


 「鳥に逆らってはいけない」

 「どうして!? コイツはあなた達を自分勝手に、物のように扱ってるのよ!?」

 「あれは神の使いであり、この世の理なのだ。あなたが私達を庇ってくれたのは分かる。しかし鳥に逆らってはならないのだ。だからどうか、その怒りを静めてはくれないか」

 「ほぅ。随分と利口な人間もいるものだな。髭を生やした人間は皆そうなのか? まぁ、とにかく、巫女であるお前は肝に銘じておけ」


 そう言って火の鳥は、再びその場から飛び立ち、未だ建設中の宮殿へと向かった。


 「あなた巫女なのか!?」


 火の鳥が残した言葉に驚き、ヒメに迫る老人。血相を変え、信じられないものを見るかのような顔をしている。


 「え、えぇ。そうみたいよ。アイツがそう言ってただけだけどね」

 「あの鳥が本当にそう言ってたのなら間違いない。あなたはあの鳥の巫女なのだ。なんてことだ......」


 老人はその場に、力尽きたように座り込む。ヒメは老人のその様子を見て、さすがに何かあるのではないかと思い始めた。自分も、多くの人も知らない秘密のようなものがあるのかもしれない。ヒメは老人に、恐る恐る巫女について聞く。


 「その、巫女っていうのは、何なの? ただの言葉でしょう?」

 「巫女が何かを知らないのはあまりにも酷ですから、お教えいたします。しかしどうか心を乱さずに聞いてほしい。巫女というのは、人々の魂と鳥を繋ぐ鎖のようなものです。あなたは鳥に代わって、人々に力と威光を示さなければならない」

 「どういうこと?」

 「運命共同体になったのですよ。あなたとあの火の鳥は。巫女は、繋がっている鳥が死ぬまで、死ぬことも老いることもない。そして鳥の側で人々をまとめ上げなければならないのです」

 「それって、これからずっと、アイツの......」

 「鳥はそう簡単に巫女を任ずることもなければ、言葉に出すこともない。あなた方に何があったのか、あの鳥が何を思ってあなたを巫女にしたのかは分かりません。ですが今は、どうかその不幸を嘆かないでいただきたい。あなたの魂は、もうあなただけのものではないのです」

 「私は、私はどうすればいいの?」

 「鳥の側にいなされ。それも、巫女の仕事だ」


 老人の言葉に導かれるように、ヒメはすぐさま宮殿へと向かった。

 火の鳥が憎い。出来ることなら今すぐにでも、火の鳥を殺してやりたいが、どうやらはそれは出来ないらしい。自分で死ぬことも出来ない。どうしようもない気持ちを抱えたまま、ヒメは未完成の宮殿へと向かう。

 宮殿の広場にいる火の鳥に問い詰める。


 「聞いてないわ! あなた、よくも私を巫女にしたわね!」

 「なんだ、今さらか。もう遅い。過ぎたことなのだ。受け入れろ」

 「受け入れろって、あなたねぇ......!」

 「お前も、お前の周りも、無知だったのだ。とにかく、私にはやるべきことがあるのだ。お前の無知に付き合っている暇はない」

 「やるべきこと? 人の生活を壊した責任を取ることよりも大事なことなの?」

 「お前が知る必要はない」

 「もしかしてまた人をもて遊ぶ気なの!? どうなのよ!?」


 大声でまくし立てるヒメの言葉など全く耳に入れようとせずに、火の鳥はどこかへと飛び去った。もちろん答えなどヒメは得られるはずもなく、ただ1人その場に残されたのだった。




 それから数日、火の鳥は帰ってこない。この隙をついて逃げ出した者達もいる。時間がありながら残った者達もいる。ヒメは残った。何故だか逃げる気力が湧いてこなかった。

 しかしそうであっても、時間は過ぎていく。火の鳥がいない生活、怯える必要のない生活。また、元通りに生きていいのだ。


 「元通りの生活って、どうやってたのかしら」


 脅威のある生活とは、やることがはっきりとしている生活だった。脅威の生活はその逆で、何をやってもいいが、何かをやる必要はない生活でもある。

 火の鳥は人々に何も命令しなかった。宮殿の建築だって、いつの間にか止まっている。未完成の宮殿は残った人々の溜まり場となり、それなりの生活に一役買っていた。

 穴が空いたような日々を過ごすヒメも、宮殿で1人、何もせず過ごしていた。そんなヒメの前に老人が姿を見せる。


 「あなたは逃げないのですか」

 「逃げても行く場所がないわ。ここにいても、することだってないけど」

 「あの火の鳥は、きっと巫女であるあなたに一任したのです。巫女ならば、鳥の心を知っているのではないですか?」

 「そんなもの分かりたくないわ。そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね。私、ヒメって言うの」

 「私は、タレスと申します。よろしくお願いいたします。ヒメ様」

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